第八十二話 怪盗猫の冒険その三
『……どういうことだ、お前……ッ!!生きているんじゃないなッ!?……生きていないけど、何でか分からないが……お前は、話せるのかッ?!』
モルガナは驚愕と恐怖と、警戒心に強ばる声を使い、問い詰めていた。センザンコウの剥製のはずの首が、ゆっくりと動いていく……数十年に動いているのか、パキパキとウロコが剥がれ落ちていくのだ、そして、謎の粉も……。
『く……さすがに、もう、動けんか……』
『……お、おい。やめとけよ。なんだかさ、お前の首がぽろっともげちまいそうだぞ……?』
何だかそうなっては気の毒すぎる。モルガナはセンザンコウの身を案じてやっていた。
『……ハハハ。そうだな……ならば……そうさせてもらおう。夜ならば、悪魔どもの力を少しばかり借りることも出来るが……昼間では、これ以上、動くことは難しい……お。しゃべていると、歯がぐらついているな……作り物の歯だから、抜け落ちても構わんか』
『いや。よく分からんが……体をいたわれって』
モルガナは警戒を解いている。センザンコウが素早く動けそうにないからということもあるが……センザンコウのしゃべり方から、モルガナは何か懐かしさを感じるのだ……雨宮蓮や……そして、モルガナの主であった、イゴールのような気配が……。
直感のままに、モルガナの口は言葉を走らせる。
『なあ、お前は……ペルソナ使いなのか……?』
『……ぺるそな……ん。それは、確か、仮面という名の意味の、舶来語だな』
『舶来語……?』
『異国の言葉だ。英語だったかな……?』
『異国って、お前も海外から来たんだろ、センザンコウ……?』
『ハハハ。センザンコウじゃないよ。いや……まあ、この体はセンザンコウだがな。オレは、たんにこの剥製の獣に宿らせてもらっているだけの、魂の残滓だ』
『魂の残滓……?』
『そうだ。本体は、とっくの昔にくたばっちまっている……あるいは……違う世界で、まだ生きているのかもしれないが……』
違う世界。モルガナの顔に険しさが宿っていた。昨夜、足を運んだあの異世界のことが頭をよぎったからである……。
『……まさか、あの世界に、お前はいたのか!?』
『……ん?どの世界のことだ?』
『え?……いや、吉永比奈子とか、この学園の七不思議になっている怪物がいる世界だ』
『ふむ。そんな世界は知らない。いや、何となく理解が及びはするがな……オレが言ったのは、本来の歴史の流れとは、異なる歴史の流れにある世界のことだ』
『……なんだ、それ?』
『そういう世界もあるのだ。オレは、悪魔や世界の不思議なことと関わり過ぎちまったからな。色々と、おかしな運命にある……気にするな』
『気にするなと言われてもな……ちょっとムリだろ』
『……まあ、そうだろう。だが、答えてやっても、お前さんにはおそらく理解が及ぶことは少ないだろうよ。オレは、あまり一般的な価値観のなかに生きてはいない……お前さんもだろうがな』
『まあな。猫の姿をしている怪盗だ』
『盗人か?……このセンザンコウの剥製を盗みに?……物好きだな』
『いや。七不思議を確かめに来たんだよ。我が輩は、吉永比奈子を助けてやりたい。天使サマとかいうヤツに……たぶん、我が輩や、お前のような異能の力を持ったヤツに、利用されているようだ』
『……ほう。そいつは、興味深いことだ』
『……心あたりが、あるんだな?』
『あるとも。オレは、そういった事態に対応するために、何度かこうして目覚めたのだからな……しかし、今回は、体がかなり壊れてしまっている……』
『お前は、一種の守護神みたいなものか?』
『神と呼ばれるには、大いに罪深い存在ではあるがな。ここに封じられていたモノに対しての、対策じゃあるよ。本体ではなく、式神という存在に模造した自我を持たせた存在なんだがな』
『そうか……よく分からないハズだけど、何となく、分かる。お前は嘘をついていないような気がするぞ』
『いい感性をしているな、猫に見える悪魔よ』
『悪魔!?……ちがうぞ。まあ……シャドウに近いかもしれないが』
『高位の悪魔に作られた存在のようにも見えるが……いいさ。とにかく、こちらに来い。知りたいことを、見せてやろう。長く話していると……口がもげてしまいそうだ』
『お、おお。見せてくれるってのは、どうするんだ?』
『オレが術を使い、過去を見せてやる。受けるヤツにも才能がいる行いではあるが、お前さんなら、おそらく見れるだろう。オレは、黒い生き物とは、縁が深いからな』
『センザンコウは、赤黒いカンジだぞ?』
『……本来のオレは、もっと分かりやすく黒いものに宿る咎人なんだがな……だが、いいさ。そんなことよりも、こっちに来いよ。オレを怖がるようなタマじゃないだろ、怪盗さんってのならよ』
『もちろんだ。我が輩は、知りたいことがあるんだ。一連の事件の真相ってヤツをな……』
『いい目をしている。十四代目も、もっと分かりやすい気迫を発揮してくれたら、良いんだがな……いや、もう、この世界の、今にはいないのか』
『誰かと迷子になったのか?』
『そんなことろだ。だが、信じている。本体のオレは上手くやっただろうし、十四代目もいい使い手になったとな……さて。おしゃべりは限界だ。行くぞ、黒猫』
『モルガナだ』
『そうか。オレは、ゴウトという。よろしくな』
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