四十一章 帰還
ルモンドはタリアの視線を受け、軽くため息をこぼす。
「性格が悪いな、そなたらは。余に話せと申せばよい。もし話すといえば、余をカーラ帝国から連れ出してくれるのだろうか?」
ルモンドはカルミラ国出身の船員たちを見渡した。
「わたはが許可します。だって、わたしも知りたいですから。できれば、レイバラルのことも」
船員ではなくクラウディアが単独でルモンドの乗船を許可したことで、もう誰も反対する者はいない。
ルモンドはとんだ茶番だと悪態をついたが、なぜか表情は和やかだった。
ここは一旦、私に預からせてほしいとケイモスがクラウディアを擁護する形で、なんとか収束する。
とりあえずカーラ帝国から離れなくてはいけない。
それを優先することにした。
「養父さん、あてはあるの?」
「ああ。本来の場所に戻るんだよ。なにせ、滅亡した国になど、誰も立ち寄りはしないからね」
「カルミラに? 滅亡してもどこかの国に占領されているのでは?」
「あそこはどの国も領地にはしていない。まあ、どんな最後を迎えたのか残骸を見ればわかると思うが、あの場所を手に入れたとしてもあの場所を再建はできない。できるとしたら職人の技を極めたカルミラの職人でなければ無理だ。クラウディアにとってははじめてではないのだが、記憶にはないだろうね。占領されていると思いこんでいるくらいだから」
「当然だわ。だって養父さん、カルミラの話はあまりしてくれかったでしょう?」
「私はカーラの出だからね、私がするよりもともと住んでいた者にしてもらうのがいいと思ってね。長い間、ご苦労だったな、タリア」
ケイモスの視線がクラウディアからその背後にいたタリアへと向けられた。
ふたりはこの二十年会っていないと言っていたが……
「ケイモス殿とはあの日、かの国が滅亡を免れなかった二十年前、誓い合ったことがありましたの。わたくしはマリアンヌ様を、ケイモス殿はリリシア様を命をかけて守り通すと。無事でいると信じ、時がくるまで連絡を取り合わないことが決まりでしたわね」
しかしそれでもそれぞれに協力者がいて、その協力者同志の繋がりはずっと続いていた。
「わたくしの方は多くの同志を失ってしまいました、申し訳ありません」
「仕方がない、カーラに囚われるということは、命の危険がつきまとうということだ。カーラの出の者をとも考えたが」
「いいえ、カルミラの者が妃に同行して正解でしたわ。カーラと繋がりがありそうな人はその場で切り捨てられましたから」
「……つまり、カーラ出身の者が戻って来られるのは困ると言うことか。つまり、ルモンド殿がカーラにいられなくなったのと関係している。それはレイバラルも関係しているのだな」
「はい。そちらは今のレイバラル王が決定的な証拠を手に入れられていると思いますが?」
タリアがクラウディアの横にいたダジュールをみる。
「ああ。もうビックリ驚きのネタだったよ。だが、それを突きつけたところでもう当時視野は死んでしまっている。だが、諸悪の根元はまだカーラで生きている。そいつを引っ張り出せれば……そのためにも自国の裏切り者をあぶり出したい」
ダジュールは頼みの綱ともいえる真実を知っているルモンドとマリアンヌをみた。
「余はマリアンヌとその娘が幸せに暮らせるようになるのであれば、聞かれれば答えるし、手伝えと言われればそのつもりだ」
「……わたくしも……」
ふたりの視線はクラウディア……リリシアに向けられていた。
クラウディアはその視線から目をそらす。
まだどういう顔をしてマリアンヌを見ればいいのかがわからない。
「かしこまることはないのではないか? 赤子のように甘えてしまえばよいのだ」
とルモンドは言うが、それができるならとうにしていると、クラウディアは心の中で叫ぶ。
※※※
「なあ、俺としては嬉しい限りなんだが、いいのか、本当に」
タリアがケイモスたち同志と合流できたことで、そちらの一員として動くことが多くなった船上。
少ない部屋でほとんどが相部屋なのだが、クラウディアとマリアンヌには個室を用意しようという話が出た。
ところがケイモスから母子なのだから同室でいいだろうと提案され、クラウディアは即座に「ダジュールとは夫婦だから彼と同室がいい」と言い切ってしまう。
結果、そのふたりは晴れて同室に、そしてタリアとマリアンヌが同室、ルモンドは監視下におかせてほしいとの意見もあるのでケイモスと同室になり、亡国カルミラへの船旅が始まった。
「チャンスだったんじゃないのか? 母上と話す」
「わかってる。でも、まだ、もう少し、時間がほしいの」
「許せないって?」
「違う。そういう気持ちはない。生きていてくれて嬉しいし、わたしを守るためっていうのは本当だと思うから」
「じゃあ……」
「逆に聞くけど、ダジュールならどうなの? 往き別れた人との再会ですぐ打ち解けあえる?」
「……そう言われるとな……」
「でしょう?」
「だけどさ、俺、おまえの母上に挨拶してないんだけど? なのにいきなり夫婦だからって。そんな告白はないわ……」
「……えっと、それに関しては本当にごめん」
「性格が悪いな、そなたらは。余に話せと申せばよい。もし話すといえば、余をカーラ帝国から連れ出してくれるのだろうか?」
ルモンドはカルミラ国出身の船員たちを見渡した。
「わたはが許可します。だって、わたしも知りたいですから。できれば、レイバラルのことも」
船員ではなくクラウディアが単独でルモンドの乗船を許可したことで、もう誰も反対する者はいない。
ルモンドはとんだ茶番だと悪態をついたが、なぜか表情は和やかだった。
ここは一旦、私に預からせてほしいとケイモスがクラウディアを擁護する形で、なんとか収束する。
とりあえずカーラ帝国から離れなくてはいけない。
それを優先することにした。
「養父さん、あてはあるの?」
「ああ。本来の場所に戻るんだよ。なにせ、滅亡した国になど、誰も立ち寄りはしないからね」
「カルミラに? 滅亡してもどこかの国に占領されているのでは?」
「あそこはどの国も領地にはしていない。まあ、どんな最後を迎えたのか残骸を見ればわかると思うが、あの場所を手に入れたとしてもあの場所を再建はできない。できるとしたら職人の技を極めたカルミラの職人でなければ無理だ。クラウディアにとってははじめてではないのだが、記憶にはないだろうね。占領されていると思いこんでいるくらいだから」
「当然だわ。だって養父さん、カルミラの話はあまりしてくれかったでしょう?」
「私はカーラの出だからね、私がするよりもともと住んでいた者にしてもらうのがいいと思ってね。長い間、ご苦労だったな、タリア」
ケイモスの視線がクラウディアからその背後にいたタリアへと向けられた。
ふたりはこの二十年会っていないと言っていたが……
「ケイモス殿とはあの日、かの国が滅亡を免れなかった二十年前、誓い合ったことがありましたの。わたくしはマリアンヌ様を、ケイモス殿はリリシア様を命をかけて守り通すと。無事でいると信じ、時がくるまで連絡を取り合わないことが決まりでしたわね」
しかしそれでもそれぞれに協力者がいて、その協力者同志の繋がりはずっと続いていた。
「わたくしの方は多くの同志を失ってしまいました、申し訳ありません」
「仕方がない、カーラに囚われるということは、命の危険がつきまとうということだ。カーラの出の者をとも考えたが」
「いいえ、カルミラの者が妃に同行して正解でしたわ。カーラと繋がりがありそうな人はその場で切り捨てられましたから」
「……つまり、カーラ出身の者が戻って来られるのは困ると言うことか。つまり、ルモンド殿がカーラにいられなくなったのと関係している。それはレイバラルも関係しているのだな」
「はい。そちらは今のレイバラル王が決定的な証拠を手に入れられていると思いますが?」
タリアがクラウディアの横にいたダジュールをみる。
「ああ。もうビックリ驚きのネタだったよ。だが、それを突きつけたところでもう当時視野は死んでしまっている。だが、諸悪の根元はまだカーラで生きている。そいつを引っ張り出せれば……そのためにも自国の裏切り者をあぶり出したい」
ダジュールは頼みの綱ともいえる真実を知っているルモンドとマリアンヌをみた。
「余はマリアンヌとその娘が幸せに暮らせるようになるのであれば、聞かれれば答えるし、手伝えと言われればそのつもりだ」
「……わたくしも……」
ふたりの視線はクラウディア……リリシアに向けられていた。
クラウディアはその視線から目をそらす。
まだどういう顔をしてマリアンヌを見ればいいのかがわからない。
「かしこまることはないのではないか? 赤子のように甘えてしまえばよいのだ」
とルモンドは言うが、それができるならとうにしていると、クラウディアは心の中で叫ぶ。
※※※
「なあ、俺としては嬉しい限りなんだが、いいのか、本当に」
タリアがケイモスたち同志と合流できたことで、そちらの一員として動くことが多くなった船上。
少ない部屋でほとんどが相部屋なのだが、クラウディアとマリアンヌには個室を用意しようという話が出た。
ところがケイモスから母子なのだから同室でいいだろうと提案され、クラウディアは即座に「ダジュールとは夫婦だから彼と同室がいい」と言い切ってしまう。
結果、そのふたりは晴れて同室に、そしてタリアとマリアンヌが同室、ルモンドは監視下におかせてほしいとの意見もあるのでケイモスと同室になり、亡国カルミラへの船旅が始まった。
「チャンスだったんじゃないのか? 母上と話す」
「わかってる。でも、まだ、もう少し、時間がほしいの」
「許せないって?」
「違う。そういう気持ちはない。生きていてくれて嬉しいし、わたしを守るためっていうのは本当だと思うから」
「じゃあ……」
「逆に聞くけど、ダジュールならどうなの? 往き別れた人との再会ですぐ打ち解けあえる?」
「……そう言われるとな……」
「でしょう?」
「だけどさ、俺、おまえの母上に挨拶してないんだけど? なのにいきなり夫婦だからって。そんな告白はないわ……」
「……えっと、それに関しては本当にごめん」
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。