攘夷志士の手紙
貶されているのに、アリスはうっすらと笑みをこぼした。
後は、人民を助けるのが俺らの仕事でさァと沖田が付け加え、アリスは、どうしてこの場所がわかったのかと沖田に問いただした。
「差出人不明の手紙がきたんでィ。そこに、真選組の女が騙されてここに捕まっているという文字と、場所がかいてあったんでさァ。いったい誰が出したのかは知りやせんけど」
そう、だったんだ・・・・・・アリスの意識はそこで途絶えた。
「一通り片付いた。引き上げるぞ」
土方は沖田に声をかけ、土方と沖田以外の真選組は男4人を連行し、民家を後にした。
沖田はアリスを姫様抱っこして運ぶことにした。
民家からぞろぞろと出てくる真選組の人達を屋根の上から見ている男が1人。
「一件落着か。真選組は好かんが、時には敵も利用して味方にしないとな・・・・・・」
アリス殿、無事で何より。
抱えられているアリスの姿を確認してから、涼やかな表情で長い髪を揺らし、男はその場を後にした。
目を開ければ天井。ああ、ここ。自分の部屋だ。
体を起こすが、頭が痛む。
「・・・・・・!」
左手で頭部をさわると、包帯が巻かれていた。
そっか、昨日、あんなことがあって。私をここまで運んでくれたのは誰なんだろう。誰が手当てをしてくれたんだろう。
そんなことを考えていると、襖の外から声がした。
「起きてる?」
遠慮がちに山崎が襖をゆっくりと開け、私が体を起こしているのを確認すると
「お邪魔するね」
と言って部屋に入ってきた。
「ザキか・・・・・・おはよー」
「おはよーって、もう昼だよ。だから、おそよーだね」
ふふっと山崎は笑い、その後に私の包帯の巻かれた頭を心配そうに見てきた。
「頭、痛む?」
「うん・・・・・・あ、でも、大丈夫だよ」
素直に答えてしまったが、心配をかけまいとすぐに大丈夫だと笑って返事をした。しかしそれは逆効果だったようで、山崎の顔は曇り出した。
「ごめんねアリスちゃん。すぐに助けに行くことができなくて」
「いえ、そんな。のこのこついていった私も悪いから・・・・・・」
そんなアリスの言葉に構わず山崎は続ける。
「副長も沖田隊長も、すぐに気づかなかった自分をずっと責めてるんだ。局長なんか、相手がある程度変装していたにしろ、攘夷浪士と仲良く談笑までしてて、アリスちゃんの父親だと言われそれを疑いもせず信じて・・・・・・アリスちゃんに合わす顔がないって言ってるよ」
これに懲りて、局長も少しは人を疑うことを覚えてくれたらいいんだけどね、と苦笑いする山崎。
言い終わりアリスの顔を見ると、アリスの目からは涙が溢れていた。
「あ、ちょ!?アリスちゃん!?」
ヤバい、泣かすつもりじゃなかったのに!俺の発言、まずかったか!?と慌てる山崎。
アリスちゃんを泣かしたことが副長にバレたら、切腹は免れない・・・・・・!
「アリスちゃん、ごめん・・・・・・!泣かすつもりじゃなかったんだ」
「でも、私のせいで、皆に迷惑を・・・・・・近藤さんも土方さんも総悟も悪くなんか無いのに」
嗚咽混じりにアリスが喋る。
「あとね、私、私・・・・・・怖かった」
アリスの涙は、皆に迷惑をかけたことからの申し訳なさと、昨日の恐怖からきた涙だった。
男4人に囲まれ殴られ、いやらしいことをされそうになった。恐怖を感じて当然だ。
山崎は察し、優しく、アリスの頭を撫でた。大事には至らなかったが、この包帯が痛々しい。
「ザキ・・・・・・!」
アリスは山崎に抱きついた。
山崎は一瞬驚いたが、アリスが泣き止むまで、このままでいようと思い、アリスに答えるかのように山崎もゆっくりとアリスの背中に腕を回した。
「あぅ・・・・・・ひっく」
部屋には、アリスの嗚咽だけが響き渡った。
「たす、助けにきてくれて・・・・・・ありがとう」
その言葉を聞いた山崎は優しく微笑むと
「こんな思いさせて、ごめんな・・・・・・」
と言い、抱きつく力を少し強めた。
「うっ・・・・・あぁ・・・・・・」
山崎の優しさに、アリスはまた涙をこぼした。
しばらくして。
「落ち着いた?」
「うん、ありがとう・・・・・・」
アリスは泣き止み、山崎から体を離した。
「そろそろ、本題に入ってもいいかな」
「本題?」
アリスは首を傾げた。
「アリスちゃんの部屋に来たのは、心配しに来たっていうのもあるけれど・・・・・・でもそれだけじゃないんだ」
アリスは「?」という顔をして、続きを待っている。
「相手は、アリスちゃんが記憶を失ってるっていうのを利用して近づいてきただろう?でも、君が記憶喪失なのを知ってるのは、真選組の中では局長と副長と沖田隊長と俺。あとは万事屋の旦那達3人しかいない。いったい、相手はどうやってアリスちゃんのことを知ったんだろう、って」
まあ俺はアリスちゃんが記憶喪失だって話しは今日聞いたんだけどね、と付け足した。
「今頃吐かせてる頃だろうけど、なかなか吐かないらしくって」
その言葉にアリスは体をぴくりと動かした。
「昨日の人たち、生きてるの?」
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