第06話「凛、かよちんを探して」
さてさて、先日よりμ'sのマネージャーになった俺は、毎日μ's練習に参加することになった。
元から家事の関係で早起きだったため、神田明神でやる朝練はどうってことないのだが、音ノ木坂学院でやる昼の練習は直々に出向かなければならない。
はっきり言おう。なんかすげー嫌だ。
よく考えてみてほしい。音ノ木坂学院は女子校だ。俺が行ったら不審者丸出しなのだ。
確かに、ファーストライブの時に音ノ木坂には行った。ただ、あれは一回きりだと思っていたから、まだなんとか耐えることができた。
しかし、これをほぼ毎日続けるとなると、恥ずかしくてならない。
そしてなにより男としてのプライドがどうにかなっちゃいそうだ。
「それに毎日毎日行ってたら流石に出禁になりそうなんだよなぁ……」
あまりに恥ずかしい思いは口に出ていた。
「それなら先日許可証を取ったでしょ」
ことりがそう返す。ことりの母親は音ノ木坂の理事長。
そのこともあって、理事長から「外部コーチ」としての許可証を取ることができたのだ。
「外堀は完全に埋められたってわけか……」
俺はやるせなさに頭を抱えてしまう。
そんな俺を見るなり皆が口々に言う。
「そういうわけです」
海未ちゃん。
「それに、音ノ木坂にも男性教師はいるし……決して男子禁制ってわけじゃないですよ」
かよちん。
「そんなつまらないこと言ってないで、大人しく音ノ木坂に来ればいいのよ」
真姫ちゃん。
「というわけで音ノ木坂で待ってるよ!」
そして穂乃果。
「は、はい……」
俺は黙って皆に従うことにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ところ変わって音ノ木坂学院の屋上。
「1、2、3、4……」
俺の仕事といえば、振り付け練習の時にリズムを取ること。
「穂乃果少し遅れてるぞー!」
「は、はいっ!」
そして注意すること。単純だ。
他にも仕事はある。
「休憩の差し入れだぞー」
「わぁいポ○リ! 穂乃果ポ○リ大好き!」
「生き返りますぅ~!」
差し入れをするのもマネージャーの仕事だ。
「あれ、海未ちゃんはいらないの?」
「特製ドリンクがありますから!」
「何それ」
「プロテインですっ!」
海未ちゃんは自前でドリンクを持ってくるから差し入れができないのが残念だ。
後は、タイムキーパーをしたり、練習メニューを海未ちゃんと考えたり、新曲に意見したり、マネージャーじゃなくてプロデューサーじゃね?みたいな仕事内容もある。
メンバーの中で一番ITに強かった俺はウェブ関連全般も任された。
正直、ラブライブ!のポータルサイトだけでいいんじゃないのかと思ったりもしたが、穂乃果たちがどうしてもホームページが欲しいと言うので、作って運営することにしたのだ。
ちなみに、Twitterも運営している。
「しっかし、毎日アンチコメ書いてる人いるよなぁ……。よく見ればIPアドレス同じじゃん。アク禁にしちゃおっと」
ウェブ関連での悩みといえばアンチコメである。
μ'sもアンチが出るなんて大したもんだ。誰がこんなことしてるんだろうな。さては以前穂乃果が言ってた生徒会長か? まさかな……。
とはいうものの、9割方のコメントは好意的なファンレターである。
これは非常に嬉しい限り。
それはそれとして、先程のアンチコメは書いた人のIPアドレスをブロックすると、以降アンチコメが来なくなった。
これが俺の仕事の全貌である。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とある日のバーガーショップ。
俺の仕事が始まってから数週間後、梅雨のシーズンに突入した。
6月上旬のことである。
俺たちは練習終わりにバーガーショップで駄弁っていた。
「最近雨多くない?」
ポテトを頬張りながら穂乃果が文句を言う。
「だって梅雨なんだもん。仕方ないよ」
俺は返す。
「しかし、こうも雨ばかりだとマトモに練習できませんね……」
海未が口を挟む。μ'sの練習場所は学院の屋上なので雨になるとすぐさま練習できなくなってしまう。
「部員が5人いれば部活申請して教室も使えるんだけどね……」
穂乃果の言う通り部活のルールはいろいろと厳しい。μ'sは人数が少なくて部活扱いされていないから空き教室を使えないそうなのだ。
「早く5人集まらないかなぁ」
ことりがぼやく。
「穂乃果、そんなルールあったのか」
俺もルールについては少しは聞いていたが全貌を聞いたのは初めてだった。
それにしても、穂乃果の言うルールが本当ならもう既に……。
「そうだよ? それがどうかしたの?」
「いやだってさ……今の人数数えてみろよ」
「えーっと、穂乃果にことりちゃん、海未ちゃん真姫ちゃん花陽ちゃ……ああっ! 既に5人いる!!」
「本当です! 5人います!」
穂乃果と海未は驚いた表情をした。
今まで気付いてなかったのだ。
「というか、なんで今まで気付かなかったのよ」
事情を知らなかった真姫ちゃんは呆れている様子。そりゃそうだわな。俺も同じ気分だ。
「つい忘れちゃってて」
穂乃果が焦った表情を見せる。
「それじゃあ、今すぐにでも部活申請用紙を書いて、明日朝イチで突撃しよう!」
俺はすかさず話を切り出す。こういうのは善は急げ。さっさとやってしまったほうがμ'sのためになる。
「そうだよね! でも……」
穂乃果は曇った表情になった。
「もしかして生徒会長のことですか?」
「う、うん……」
生徒会長。穂乃果たちをなぜか目の敵にしている人物。
結構美人なんだが、性格があんまりよろしくない。
「もしかして、生徒会長が意地悪して部活として認めてくれないとかそういうこと思ってる?」
「まぁ……そういう感じかな……」
穂乃果はかなり怯えている。よほど生徒会長に意地悪されてきたんだろう。
励ましてやらないと何も進まなさそうだ。
そう思った俺は穂乃果に語りかけた。
「大丈夫だって! 生徒会長が認めてくれないなら理事長に頼みに行けばいいさ! 理事長やってる人なんだから、感情に惑わされない強い心の持ち主のはずだよ」
「確かに……」
「それは皆がよく知ってるはずだよ」
「そう……だよねっ!」
穂乃果はパァァッと笑顔になった。
「というわけで、この問題は解決したも同然だな!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時を同じくして、ここはアイドル研究部の部室。
「お邪魔しまーす」
1年生の生徒、星空凛は部室へ入室した。
「何か用? 見学なら帰って」
3年生の生徒であり、アイドル研究部部長の矢澤にこは嫌そうに答える。
「見学じゃないんですが……μ'sのことを聞きたくて。μ'sの部室ってここですよね?」
「はぁ!? 何言ってんの?」
にこは血相を変え苛立ちながら言う。
「ち、違うんですか!?」
「違うわよ、全然!!」
「そんなぁ……これで手がかりゼロにゃ……」
そのまま凛は部屋から出ようとする。
「ちょっと待ちなさい。手がかりって何?」
にこは凛を呼び止める。
「あ、えーっと。実は私の友達がμ'sのメンバーみたいで、そのことについて聞こうと思って」
「アンタの友達なら、直接聞けばいいじゃない」
にこはそうぶっきらぼうに言うが、凛はうつむいたままだ。
「それが……何度聞いても答えてくれないんです」
「隠し事の疑いがあるってわけね」
「それに、この前友達が男の人と一緒に帰宅してるのを目撃しちゃって……不安と衝撃のあまり友達が心配で心配で……」
「男……?」
にこの眉間にシワが寄る。
「はい。私たちと同年代に見える男の人と一緒に帰宅してたんです!」
「なるほどねぇ……これは一発喝を入れてやるべきね」
「え……?」
にこは作り笑いをして凛の肩を叩く。
「アンタの友達を取り返してあげるわ。約束する」
その姿を頼もしいと思った凛は微笑んだ。
「ありがとうございます!」
「その代わり、アンタも協力しなさい。一緒にμ'sを潰すのよ!」
「え、えぇぇぇぇっ!?」
凛は驚いた。
μ'sの知らないところで、別の勢力が活動を開始したのだった……。
元から家事の関係で早起きだったため、神田明神でやる朝練はどうってことないのだが、音ノ木坂学院でやる昼の練習は直々に出向かなければならない。
はっきり言おう。なんかすげー嫌だ。
よく考えてみてほしい。音ノ木坂学院は女子校だ。俺が行ったら不審者丸出しなのだ。
確かに、ファーストライブの時に音ノ木坂には行った。ただ、あれは一回きりだと思っていたから、まだなんとか耐えることができた。
しかし、これをほぼ毎日続けるとなると、恥ずかしくてならない。
そしてなにより男としてのプライドがどうにかなっちゃいそうだ。
「それに毎日毎日行ってたら流石に出禁になりそうなんだよなぁ……」
あまりに恥ずかしい思いは口に出ていた。
「それなら先日許可証を取ったでしょ」
ことりがそう返す。ことりの母親は音ノ木坂の理事長。
そのこともあって、理事長から「外部コーチ」としての許可証を取ることができたのだ。
「外堀は完全に埋められたってわけか……」
俺はやるせなさに頭を抱えてしまう。
そんな俺を見るなり皆が口々に言う。
「そういうわけです」
海未ちゃん。
「それに、音ノ木坂にも男性教師はいるし……決して男子禁制ってわけじゃないですよ」
かよちん。
「そんなつまらないこと言ってないで、大人しく音ノ木坂に来ればいいのよ」
真姫ちゃん。
「というわけで音ノ木坂で待ってるよ!」
そして穂乃果。
「は、はい……」
俺は黙って皆に従うことにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ところ変わって音ノ木坂学院の屋上。
「1、2、3、4……」
俺の仕事といえば、振り付け練習の時にリズムを取ること。
「穂乃果少し遅れてるぞー!」
「は、はいっ!」
そして注意すること。単純だ。
他にも仕事はある。
「休憩の差し入れだぞー」
「わぁいポ○リ! 穂乃果ポ○リ大好き!」
「生き返りますぅ~!」
差し入れをするのもマネージャーの仕事だ。
「あれ、海未ちゃんはいらないの?」
「特製ドリンクがありますから!」
「何それ」
「プロテインですっ!」
海未ちゃんは自前でドリンクを持ってくるから差し入れができないのが残念だ。
後は、タイムキーパーをしたり、練習メニューを海未ちゃんと考えたり、新曲に意見したり、マネージャーじゃなくてプロデューサーじゃね?みたいな仕事内容もある。
メンバーの中で一番ITに強かった俺はウェブ関連全般も任された。
正直、ラブライブ!のポータルサイトだけでいいんじゃないのかと思ったりもしたが、穂乃果たちがどうしてもホームページが欲しいと言うので、作って運営することにしたのだ。
ちなみに、Twitterも運営している。
「しっかし、毎日アンチコメ書いてる人いるよなぁ……。よく見ればIPアドレス同じじゃん。アク禁にしちゃおっと」
ウェブ関連での悩みといえばアンチコメである。
μ'sもアンチが出るなんて大したもんだ。誰がこんなことしてるんだろうな。さては以前穂乃果が言ってた生徒会長か? まさかな……。
とはいうものの、9割方のコメントは好意的なファンレターである。
これは非常に嬉しい限り。
それはそれとして、先程のアンチコメは書いた人のIPアドレスをブロックすると、以降アンチコメが来なくなった。
これが俺の仕事の全貌である。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とある日のバーガーショップ。
俺の仕事が始まってから数週間後、梅雨のシーズンに突入した。
6月上旬のことである。
俺たちは練習終わりにバーガーショップで駄弁っていた。
「最近雨多くない?」
ポテトを頬張りながら穂乃果が文句を言う。
「だって梅雨なんだもん。仕方ないよ」
俺は返す。
「しかし、こうも雨ばかりだとマトモに練習できませんね……」
海未が口を挟む。μ'sの練習場所は学院の屋上なので雨になるとすぐさま練習できなくなってしまう。
「部員が5人いれば部活申請して教室も使えるんだけどね……」
穂乃果の言う通り部活のルールはいろいろと厳しい。μ'sは人数が少なくて部活扱いされていないから空き教室を使えないそうなのだ。
「早く5人集まらないかなぁ」
ことりがぼやく。
「穂乃果、そんなルールあったのか」
俺もルールについては少しは聞いていたが全貌を聞いたのは初めてだった。
それにしても、穂乃果の言うルールが本当ならもう既に……。
「そうだよ? それがどうかしたの?」
「いやだってさ……今の人数数えてみろよ」
「えーっと、穂乃果にことりちゃん、海未ちゃん真姫ちゃん花陽ちゃ……ああっ! 既に5人いる!!」
「本当です! 5人います!」
穂乃果と海未は驚いた表情をした。
今まで気付いてなかったのだ。
「というか、なんで今まで気付かなかったのよ」
事情を知らなかった真姫ちゃんは呆れている様子。そりゃそうだわな。俺も同じ気分だ。
「つい忘れちゃってて」
穂乃果が焦った表情を見せる。
「それじゃあ、今すぐにでも部活申請用紙を書いて、明日朝イチで突撃しよう!」
俺はすかさず話を切り出す。こういうのは善は急げ。さっさとやってしまったほうがμ'sのためになる。
「そうだよね! でも……」
穂乃果は曇った表情になった。
「もしかして生徒会長のことですか?」
「う、うん……」
生徒会長。穂乃果たちをなぜか目の敵にしている人物。
結構美人なんだが、性格があんまりよろしくない。
「もしかして、生徒会長が意地悪して部活として認めてくれないとかそういうこと思ってる?」
「まぁ……そういう感じかな……」
穂乃果はかなり怯えている。よほど生徒会長に意地悪されてきたんだろう。
励ましてやらないと何も進まなさそうだ。
そう思った俺は穂乃果に語りかけた。
「大丈夫だって! 生徒会長が認めてくれないなら理事長に頼みに行けばいいさ! 理事長やってる人なんだから、感情に惑わされない強い心の持ち主のはずだよ」
「確かに……」
「それは皆がよく知ってるはずだよ」
「そう……だよねっ!」
穂乃果はパァァッと笑顔になった。
「というわけで、この問題は解決したも同然だな!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時を同じくして、ここはアイドル研究部の部室。
「お邪魔しまーす」
1年生の生徒、星空凛は部室へ入室した。
「何か用? 見学なら帰って」
3年生の生徒であり、アイドル研究部部長の矢澤にこは嫌そうに答える。
「見学じゃないんですが……μ'sのことを聞きたくて。μ'sの部室ってここですよね?」
「はぁ!? 何言ってんの?」
にこは血相を変え苛立ちながら言う。
「ち、違うんですか!?」
「違うわよ、全然!!」
「そんなぁ……これで手がかりゼロにゃ……」
そのまま凛は部屋から出ようとする。
「ちょっと待ちなさい。手がかりって何?」
にこは凛を呼び止める。
「あ、えーっと。実は私の友達がμ'sのメンバーみたいで、そのことについて聞こうと思って」
「アンタの友達なら、直接聞けばいいじゃない」
にこはそうぶっきらぼうに言うが、凛はうつむいたままだ。
「それが……何度聞いても答えてくれないんです」
「隠し事の疑いがあるってわけね」
「それに、この前友達が男の人と一緒に帰宅してるのを目撃しちゃって……不安と衝撃のあまり友達が心配で心配で……」
「男……?」
にこの眉間にシワが寄る。
「はい。私たちと同年代に見える男の人と一緒に帰宅してたんです!」
「なるほどねぇ……これは一発喝を入れてやるべきね」
「え……?」
にこは作り笑いをして凛の肩を叩く。
「アンタの友達を取り返してあげるわ。約束する」
その姿を頼もしいと思った凛は微笑んだ。
「ありがとうございます!」
「その代わり、アンタも協力しなさい。一緒にμ'sを潰すのよ!」
「え、えぇぇぇぇっ!?」
凛は驚いた。
μ'sの知らないところで、別の勢力が活動を開始したのだった……。
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