第七十八話 四つ目の七不思議
「だが、放課後、新聞部に顔を出すことを考えると、微妙な時間になるな……」
「じゃあ。誰かに頼むことにしよう」
『そんな奇特な頼みを受けてくれるヤツがいるのか?面倒くさがりそうだぜ』
「委員長。小山さんは、図書館の近くに住んでいたっぽい」
「そうなのか?」
「うん。頼めば、代わりに借りてくれるかもしれない。小山さん、文学部だったと思うんだけど、今日は文学部の活動は無かったハズ」
『放課後は貴重な時間だぜ?……その子も忙しいかもしれないぞ』
「そうだけど……ダメ元で頼んでみるのも、有りだと思う。そもそも、小山さんは、私とレンレンに対して、ちょっとばかし失礼なことしたっていうか……」
『何かされたのか?』
「……れ、レンレンと……その……わ、私が付き合っているんじゃないかとか、根掘り葉掘り聞いて来たりしたもんっ」
『乙女としては、あまり詮索されたくない部分だったか』
「そうなの!……だから、ちょっとお願いしてみるよ。こういうコトで貸し借りをチャラにした方が、お互いに動きやすくなるのが渡世のルールでござる」
「そうでござるな」
『……渡世って?……江戸が舞台のマンガでも読んだのかよ』
「クールジャパンでーす」
『はあ。まあ、いいさ。ダメ元で頼んでみて、上手く行けばそれでいい。サイアク。我が輩が図書館に忍び込んで、勝手に借りてくる』
「そっちのほうがダメじゃないかしら?」
「……たしかにな。だが、背に腹は変えられない」
『そうだ。情報が欲しい。双葉オススメの本なら、現状を打破するための知識があるかもしれない……って。ほら、双葉のメッセージを読もうぜ?』
『とにかく、人体模型の腎臓については、その本を当たるのがベストだろうし、その本には他の七不思議の手がかりもあるかもしれない……都合良く聖心ミカエル学園に、その本でもあればいいのだが、自殺者が出た学校そのものだからな。そんなオカルト本を置いておく気にはならないかもしれない』
「だよね。ちょっとどころじゃなく、不謹慎って認定されちゃいそう」
『それに、そんな本があれば、もう少しぐらい蓮たちの学校に七不思議が残っていそうだしな。自分たちの学校の七不思議についての本なんて、図書室にあったりすれば、皆で盛り上がって読んでそうだしな』
『ウワサの出所にはなるだろうな。学生ってのは、怪談めいたものが好きなわけだし』
「つまり、うちの図書室には無さそうだね……ちょっと残念」
『さてと。三番目……便宜上だが、腎臓の人体模型についてはそう呼ぶぞ。それで、四番目のハナシに入ろう。四番目の七不思議は、『吸血センザンコウ』だ』
「きゅけつせんざんこう?」
『……なんだか、ピンと来ないな』
『モナあたりがピンと来ないな、とか言っていそうだな』
『当てられると、恥ずかしいもんだな……』
「双葉さまはゴッドな知能だね。全知全能っぽい……っ」
『センザンコウってのは、アフリカとかにいる珍獣だ。硬くて鎧みたいなウロコを持っている生き物だ……アリとかシロアリを食べてる動物だ、本来はな。しかし、聖心ミカエル学園には、アフリカで捉えられた『吸血センザンコウ』の剥製があるらしい。コイツは血を吸わせると蘇るらしい……まあ、チュパカブラみたいなUMAってことだろ。なんか、ワクワクするな』
「なるほど、チュパカブラの剥製があるんだ、うちの学校……そう思うと、たしかに全知全能の双葉サマがワクワクされる気持ちも分かる!」
『……そ、そうか?……そもそも、なんだよ、チュパカブラって?』
「南米にいるとかいないとか言われている、謎の吸血動物だよ。ヒトを襲って血を吸うかもしれないんだって」
『いるとかいないとか、血を吸うかもしれないとか、なんとも、フワフワした情報だなぁ……』
「七不思議なんて、そんなものだろう」
『蓮……うん。そうだな。センザンコウってのが、少し珍しい気もするけど、腎臓うんぬんに比べたらマシか。吸血ってのは、ちょっと引くが』
『とにかく、このチュパカブラ……じゃなくて、『吸血センザンコウ』に噛まれたら、死ぬまで眠りにつくらしいぞ』
「意外と怖い設定がキタ!」
『なんで、城ヶ崎はその設定で喜ぶんだ?』
「ワクワクするもん。だって、チュパカブラの謎の生態が、紐解かれていくような気持ちになりませんか?」
「少し、分かる気がする」
『マジかよ?……我が輩には、ピンと来なさすぎるぜ……』
『これで四つ目の七不思議は判明した。この噂話は、由緒正しい。おそらく、かなり昔に、聖心ミカエル学園にセンザンコウの剥製が届いたのかもしれないな。珍妙な獣じゃあるから、それなりに剥製が出回っていた時期もあるのかも。今はワシントン条約とが邪魔してそうで、取引することも出来ないかも知れないが、昔は今よりも野生動物の取引に対しての規制は弱かったはずだ』
『ふむふむ。それで、センザンコウという珍しい動物の剥製を見て、皆が想像力を掻き立てられて、七不思議のストーリーをつけたのかもしれないな……』
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