第七十七話 『双葉情報』
「おお。さすが、そこそこモテモテのレンレンだ。でも、ちょっと女の子の使い方が荒いかもしれないと感じますけど?」
「人聞きが悪い」
『そうだぜ。双葉は蓮への好意もあるかもしれんが、義務感で手伝ってくれているハズだぞ』
「……そっか。つまり、私のためでもあるわけだし、この学園のためでもあるんだ。双葉さんは東京っ子?」
「そうだ。喫茶店の『娘』だ」
「そうなんだ。東京に足を向けて眠れないねえ」
『……感謝の気持ちがあれば、十分だ。いつか直接、言ってやるといい。照れちまうかもしれないがな……さてと、続きを読もうぜ、蓮?』
「ああ」
蓮はスマホに目を向ける。
『朗報と言っていいのかは分からんが、四つ目の七不思議を見つけてやったぞ』
「四つ目!!」
『やっぱり、双葉の情報収集能力はスゴいな……っ』
『蓮たちの地元の県立大学にある、民俗学者が調べていたことがあるらしい。まあ……30年前で、その学者も既に故人だな。学者の趣味ってのは、よく分からないもんだが。この学者の研究テーマは、ちょっと変わっていたんだ。学校に伝わる怪談を集めていたみたいだ。そういう本も書いていたから、取材用の研究なのかもしれないな』
「怪談を研究しているような学者さんって、いるんだねえ……」
『もっと有益なものを研究すればいいのになあ……って、我が輩は思っちまうんだが。でも、意外なときに役立つもんだからな』
今がまさにその時であった。30年前の研究でさえも、今を生きる者たちの手助けになることもあるのだ……。
「そうだね。おかげで、私たちは四つ目の七不思議について知れるわけだし……それで、四つ目の七不思議って、どんなのかな?」
『さて。見てみようぜ、蓮』
「ああ」
スマホを指で操り、双葉の長文をスクロールしていく。
『その学者によれば、だ。精神ミカエル学園の七不思議というものは、昭和初期かそれより前から確立していたらしい。歴史に応じて、その内容は幾つか変更していったようだがな。それぞれの時代によって、流行る怪談話ってのが違っているんだろう。校舎を走り回る人面犬っていうネタもあったらしいぞ』
「人面犬?」
『読んで名の如く、ヒトの顔を持った犬だろう…………気持ち悪いが、あまり害がありそうにないな』
「たしかに。なんていうか、フツーの大きなワンちゃんの方が、まだ牙とか鋭そうで怖いような気がするかもしれない……弱体化してるっぽい」
『世の中のトレンドを取り入れるもんだから、格式在る七不思議ってのは、そう無いのかもしれないな。女子生徒の飛び降り自殺に、崩れた墓地から行方不明になった人骨、そして人体模型に本物の腎臓が使われている、だ……興味深いことに、人体模型についてのネタは、どれだけ古くなっても腎臓に固執しているらしい。ブレないらしい。何か、意味があるのかもしれない』
「腎臓に意味……?腎臓って、何をする場所なんだっけ?」
「……血液を濾過して、尿を作ってくれている」
『そうだ。そこが壊れると、ヒトの血液には毒素がたまっていくわけだ』
「大事な臓器なんだね……でも。腎臓……料理にも使うよね」
「よく知っているな」
「帰国子女ですから。ヨーロッパだと、日本よりお肉さんを食べる文化が進んでマース」
『知識っていうのは、大事だな……さて、続きだ』
『豚や鹿の腎臓ってのは料理にも使われるらしい。この七不思議を作った主は、もしかしたら、そういう臓物料理に並々ならぬ執着があったのかもしれないし……違う可能性とすれば、実際に存在した事件である場合だ。それと腎臓ってのは、密売される臓器の筆頭でもあるらしいしな……とはいえ、昭和の初期から臓器移植なんて医療技術はないだろう。その頃なら、もっと迷信めいた理由で腎臓を売り買いしていたかもしれない。漢方とか、生薬とか?……何か特定の臓器に、不思議な力があると考える風習は、現代だってある。健康食品なんかはそれだな。医学的根拠よりも、食品が持つストーリーに惹かれて、ヒトは財布の紐を緩めたりするもんだ』
「……双葉ちゃんって、賢い子っぽいね」
「図書館の本を全て暗記することが出来るらしい」
「うそっ!?……双葉さま……ウルトラにスゴい天才少女だよう……っ」
『ついでに言えば、国際的に有名なハッカーのメジエドだ』
「……めじえど……?」
『分かんないならいいさ。天才・双葉からの情報を見るぞ』
『なんで腎臓なのかは、けっきょくのところ分からなかったらしい……だが、それはネット上での意見を集約した結果に過ぎない。この学者の書いた書籍には、もっと詳細が載っている可能性もある。蓮たちの街の図書館には、この学者の書いた本があるようだぞ。寄ってみるのもいいかもしれないな。その本には、ネットに断片的に載っている情報よりも、完全な情報が記載されてはいると思う』
「……図書館か」
「何時まで開いてるんだっけ?……ちょっと調べてみるね」
城ヶ崎シャーロットが自分のスマホを操作する。
「午後五時かー……んー。うち、授業始まるの早いから、間に合わないことはない」
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