第四十四話 エレベーターの使い方
『ぐおおおおおおおおっ!?』
「消えろ」
バシュウウウウウウウウウウウウッッ!!
ジョーカーの指が、何とも乱暴にシャドウの仮面を剥ぎ取ってしまっていた。
『ぎゃがごおおおおおおおおおおんんん…………』
全身から血を吹き出すかのように、黒い闇色の何かを噴出しながら、そのシャドウは融けるように朽ちていく。
『……さすがの早業だ。そして、危険察知の勘。やっぱり、頼りになるぜ、ジョーカー』
「……まあな」
ジョーカーの指が閉じられて、青い仮面が砕け散る……怪盗の指は、敵を掌握して消し潰すその瞬間にも、アイテムを奪い取ってみせていた。傷薬……装備が手薄な今では、悪くないアイテムだ。
『ふむ。ここのシャドウからも盗めるわけだな……って、他のシャドウが来ちまうな。ジョーカー、ドアを閉めろ』
「了解だ」
エレベーターのドアが閉まっていく……しかし、閉まりきる直前に、エントランス・ホールに入ってきたシャドウたちが二人の存在に気がついていた。驚くそのマヌケなシャドウたちに対して、ジョーカーはニヤリという挑発的な笑みをもって応じていた。
『ぎがごおおおおお!!』
『がるるるうううう!!』
激昂するシャドウたちが、こちらに向かって走って来るが……時はすでに遅し。エレベーターのドアは閉まり、上昇を始めていた。
『……お前、相変わらず怪盗モードのときは、態度が悪くなるよな?』
「反逆心がそうさせる」
『……ホントかよ?……普段は抑圧されているオラオラな本性が、にじみ出ているとかじゃないよな……?』
「オレは紳士だ」
『……まあ、いいや。とにかく……このまま無事に最上階までたどり着ければいいんだが……』
モナは天井を向きながら、何かを考えているようだ。ジョーカーもそれにならい、エレベーターの天井を見上げる。メンテナンス用のハッチがあった。
『……念には念を押しておくべきだな。さっきみたいなこともあるんだ』
「ああ」
『手を貸せ、ジョーカー。メンテナンス・ハッチを開けて、エレベーターの天井裏に潜んでおくことにするぞ』
怪盗たちは有言実行に移る。メンテナンス・ハッチをこじ開けると、そのままエレベーターの天井裏に身を潜めた。
ホコリっぽいが、この場所なら敵に気づかれることはないはずだ。モルガナは音を立てないように、ゆっくりとメンテナンス・ハッチを閉じるのだ。
『ふう。しかし、このエレベーター……かなりゆっくりだな……というか。屋上が高すぎるぜ』
ジョーカーは暗闇が立ち込めた頭上を見つめた。外から見たときと比べ、このマンションの内部は巨大だった。しばらくエレベーターは動き続けることになるかもしれない。
『……この何でも有りなカンジは……パレスにも似ているな』
「ああ。だが……欲望がない」
『そうだ。生命力を宿した目標がない…………もしかしたら、幽霊のパレスなのかもしれないな……』
「……そうかもしれないな」
先ほど目撃した少女の幽霊……あれが、七不思議の『主』なのだろうか?……そうだとすれば。彼女を退治しなければ、この状況は解決しないのか……?
そうだとすれば……あまり、楽しい行為ではないな。
ジョーカーの仮面の下にある表情にも、モルガナは気がついてやることが出来た。
『……あの幽霊と戦うことになるかもしれない状況を、辛く思っているんだな』
「……モナも同じか」
『……ああ。我が輩もだ。紳士としては、自殺して亡くなった少女の霊と戦うなんて、あまりにも抵抗があることだからな……それでも』
「……わかっている。城ヶ崎が狙われているのなら、どうにかしなくてはな。城ヶ崎以外だって、狙われることになるかもしれない……こんな状況に巻き込まれたら、普通は助からないだろう」
『……だな。ペルソナ使いにしか、こんな事件を解決することは出来ない。我が輩たちが聖心ミカエル学園に来た途端にコレだ……やっぱり、ジョーカーは、色々と巻き込まれやすい体質なのかもしれないな』
「だが。そのおかげで、城ヶ崎を助けられるのかもしれない」
『……前向きで素晴らしい評価だ。ああ、我が輩たちだからこそ、巻き込まれているのかもしれない。こんな事件を解決しろって、神サマが仕事をくれたのかもしれないぞ』
「……神さまか」
信心深くはない方だが……今は、少しでも加護が欲しい時ではある。エレベーターに乗った選択は、正しかったとは思うが……間に合うのだろうか?あと24分で城ヶ崎シャーロットへの予言が成された時間になる……。
焦るジョーカーの足下で、エレベーターが静止する。シャドウたちの気配を感じて、ジョーカーとモルガナは沈黙し、その気配を消した。
『ぎゅるるううう』
『ぐええええええ』
『ごるごるるおお』
シャドウの群れが、エレベーターの内部へと入ってくる。もしも、エレベーター・ルームのなかにいたままであったら、大惨事となっていたところだ。
狭い空間で大型のシャドウとの戦闘を行うことは、ジョーカーとモナの二人でも避けたいところだった。
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