八章 強奪、黒ダイヤ
黒ダイヤの展示最終日を終えた夜、アーノルドがケイモスが営業している鍛冶屋兼自宅を訪れた。
「クラウディア様、これがお約束の黒ダイヤです」
招き入れられたアーノルドはそのまま地下室へと案内され、ケイモスとクラウディアの前にいわくつきの黒ダイヤを置いた。
直接触れることが出来ない黒ダイヤはケースに入れられ蓋を開けた状態で展示、そして展示が終わった今はケースの蓋を閉じて持ち出されたのだった。
「わたしにはこれが本物かどうかの見分けは出来ないけど」
とクラウディアはいいながらケイモスをみた。
「悪いが私にも判別はつきにくい。しかし、私の知る限り黒ダイヤはそうそうないはず」
だから本物と断定して間違いないだろうという。
「ケイモス殿のお考えに私も同意いたします。このダイヤがわが国にきた当時、世にも珍しいダイヤとして話題になっています。鑑定人の話しにおいても、小粒の黒ダイヤならば存在するかもしれないが、こうも大きいものはひとつしかないのではないかと言っていました」
大きいという黒ダイヤは本当に大きい。
手のひらにずっしりとくるくらいの大きさがある。
「触れてみればわかるのよね」
クラウディアは自分が本当に王位継承者であれば問題ないはずだと手を伸ばす。
しかし。
「止めておきなさい、クラウディア」
ケイモスが阻止する。
「どうして? わたしは継承者なのでしょう?」
「間違いなく、クラウディアはマリアンヌ様と王との間にお生まれになったが、長く祖国を離れていた黒ダイヤがどう変わってしまったかがわからない。もし意志を持ったダイヤであるなら……」
祖国から連れ出されることになったことを恨んでいるかもしれないという。
そんなことがあるだろうかと思うかもしれないが、
「確かに、警戒は必要でしょう」
アーノルドもケイモスの警戒に同意をする。
そうなるとクラウディアはふたりの意見を聞き入れるしかなかった。
「本日伺ったのは、黒ダイヤをお返ししに来ただけではありません。本来であれば王の口から直接お聞きになった方がよいのですが、なにぶん、王も頻繁に王宮から出て出歩くことができませんで」
アーノルドはそう前置きをしてから、水面下で調べわかったことの情報を共有するために来たと言った。
「昨日、ケイモス殿から二十年前のことを聞かせていただき、確信したことがあります。他国の国旗と軍旗を掲げカルミラ国を攻撃したのは、本当はカーラ帝国の軍隊であること。その頃、わが国でも権威が二分するほどの騒ぎがありました。国を守るのは力であると信じる先々代と、和平を進める先代です。ちょうど代替わりをしたばかりでしたので、先代を支持するものは少なかったのですが、国民は本当に戦争による披露が積み重なり平穏を望んでいました。国民の人気は圧倒的に先代支持でした。しかし、亡くなってからの世代交代ではなかったため、先代はお飾りの王とさげすむ者もいまして、実のところすべてを握っていたのは先々代であったと思います。戦争をしたい先々代はよく他国の者と会っていました。それがどの国の者かはわからないのですが、しばらくして、カルミラ国が滅んだという情報が入ってきました。ほどなくして、先代が亡くなられました。気の優しい方でしたので、押しつぶされ心の病で亡くなったのだろうという者もいましたが、私とダジュール様は暗殺であると思っています。カルミラ国が攻撃される少し前に、カーラ帝国内でクーデターが起こり、国政の主力が入れ替わっていたのをご存じですか? いえ、知っていたのであれば、カルミラ国もなにか手を打てていたでしょう。そのクーデターに先々代が関わり、そして見返りとして当時の王の暗殺を頼んだのではないかというのが、こちら側の見解です」
そんな物語のようなことが実際に起きるものだろうか。
実の子を殺してほしいと頼む親がいるだろうか。
しかし戦争推奨派からみれば平和を唱える者は邪魔でしかないだろう。
戦争を糧に商売をしている者にとっても、平和は邪魔でしかない。
なにより、息子の方が国民に支持されているのを目の当たりにしたら、いい気分ではないだろう。
「ケイモス殿、どんな国旗、どんな軍旗であったか覚えないですか? もしかしたら、その軍はわが国の軍であった可能性があります」
あの当時、軍事力を誇っていたのはカーラ帝国であった。
傘下の国で軍力を持ち、単体で他国を攻めるだけの力を持つ国があっただろうか。
カーラ帝国は傘下の国に軍事力を持つことをよしとせず、かならず自国の兵を派遣していた。
「ご存じでしたかどうかはわかりませんが、カルミラ産の宝石類の多くをわが国が所有しておりました。なぜわが国が所有できたのか、直接攻撃し上陸し根こそぎ奪い、邪魔者を排除したからでしょう」
さらにアーノルドは続ける。
「知らなかったこととはいえ、わが国のトップが独断でしたこととはいえ、カルミラ出身であるクラウディア様に協力をお願いするのは筋違いと十分承知しております。しかし、恥を承知でお願いする以外、真実を知る手だてがないのです」
「わかっています、アーノルド殿。真実を知りたいのはこちらとしても同じこと。もしクーデターで主力が入れ替わっていたのだとしたら、思い当たることもあります。ひとり、信頼できる者がカーラにおりますので、カーラに行く際は私がその者に一筆書きましょう」
「クラウディア様、これがお約束の黒ダイヤです」
招き入れられたアーノルドはそのまま地下室へと案内され、ケイモスとクラウディアの前にいわくつきの黒ダイヤを置いた。
直接触れることが出来ない黒ダイヤはケースに入れられ蓋を開けた状態で展示、そして展示が終わった今はケースの蓋を閉じて持ち出されたのだった。
「わたしにはこれが本物かどうかの見分けは出来ないけど」
とクラウディアはいいながらケイモスをみた。
「悪いが私にも判別はつきにくい。しかし、私の知る限り黒ダイヤはそうそうないはず」
だから本物と断定して間違いないだろうという。
「ケイモス殿のお考えに私も同意いたします。このダイヤがわが国にきた当時、世にも珍しいダイヤとして話題になっています。鑑定人の話しにおいても、小粒の黒ダイヤならば存在するかもしれないが、こうも大きいものはひとつしかないのではないかと言っていました」
大きいという黒ダイヤは本当に大きい。
手のひらにずっしりとくるくらいの大きさがある。
「触れてみればわかるのよね」
クラウディアは自分が本当に王位継承者であれば問題ないはずだと手を伸ばす。
しかし。
「止めておきなさい、クラウディア」
ケイモスが阻止する。
「どうして? わたしは継承者なのでしょう?」
「間違いなく、クラウディアはマリアンヌ様と王との間にお生まれになったが、長く祖国を離れていた黒ダイヤがどう変わってしまったかがわからない。もし意志を持ったダイヤであるなら……」
祖国から連れ出されることになったことを恨んでいるかもしれないという。
そんなことがあるだろうかと思うかもしれないが、
「確かに、警戒は必要でしょう」
アーノルドもケイモスの警戒に同意をする。
そうなるとクラウディアはふたりの意見を聞き入れるしかなかった。
「本日伺ったのは、黒ダイヤをお返ししに来ただけではありません。本来であれば王の口から直接お聞きになった方がよいのですが、なにぶん、王も頻繁に王宮から出て出歩くことができませんで」
アーノルドはそう前置きをしてから、水面下で調べわかったことの情報を共有するために来たと言った。
「昨日、ケイモス殿から二十年前のことを聞かせていただき、確信したことがあります。他国の国旗と軍旗を掲げカルミラ国を攻撃したのは、本当はカーラ帝国の軍隊であること。その頃、わが国でも権威が二分するほどの騒ぎがありました。国を守るのは力であると信じる先々代と、和平を進める先代です。ちょうど代替わりをしたばかりでしたので、先代を支持するものは少なかったのですが、国民は本当に戦争による披露が積み重なり平穏を望んでいました。国民の人気は圧倒的に先代支持でした。しかし、亡くなってからの世代交代ではなかったため、先代はお飾りの王とさげすむ者もいまして、実のところすべてを握っていたのは先々代であったと思います。戦争をしたい先々代はよく他国の者と会っていました。それがどの国の者かはわからないのですが、しばらくして、カルミラ国が滅んだという情報が入ってきました。ほどなくして、先代が亡くなられました。気の優しい方でしたので、押しつぶされ心の病で亡くなったのだろうという者もいましたが、私とダジュール様は暗殺であると思っています。カルミラ国が攻撃される少し前に、カーラ帝国内でクーデターが起こり、国政の主力が入れ替わっていたのをご存じですか? いえ、知っていたのであれば、カルミラ国もなにか手を打てていたでしょう。そのクーデターに先々代が関わり、そして見返りとして当時の王の暗殺を頼んだのではないかというのが、こちら側の見解です」
そんな物語のようなことが実際に起きるものだろうか。
実の子を殺してほしいと頼む親がいるだろうか。
しかし戦争推奨派からみれば平和を唱える者は邪魔でしかないだろう。
戦争を糧に商売をしている者にとっても、平和は邪魔でしかない。
なにより、息子の方が国民に支持されているのを目の当たりにしたら、いい気分ではないだろう。
「ケイモス殿、どんな国旗、どんな軍旗であったか覚えないですか? もしかしたら、その軍はわが国の軍であった可能性があります」
あの当時、軍事力を誇っていたのはカーラ帝国であった。
傘下の国で軍力を持ち、単体で他国を攻めるだけの力を持つ国があっただろうか。
カーラ帝国は傘下の国に軍事力を持つことをよしとせず、かならず自国の兵を派遣していた。
「ご存じでしたかどうかはわかりませんが、カルミラ産の宝石類の多くをわが国が所有しておりました。なぜわが国が所有できたのか、直接攻撃し上陸し根こそぎ奪い、邪魔者を排除したからでしょう」
さらにアーノルドは続ける。
「知らなかったこととはいえ、わが国のトップが独断でしたこととはいえ、カルミラ出身であるクラウディア様に協力をお願いするのは筋違いと十分承知しております。しかし、恥を承知でお願いする以外、真実を知る手だてがないのです」
「わかっています、アーノルド殿。真実を知りたいのはこちらとしても同じこと。もしクーデターで主力が入れ替わっていたのだとしたら、思い当たることもあります。ひとり、信頼できる者がカーラにおりますので、カーラに行く際は私がその者に一筆書きましょう」
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