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貞操逆転in 咲 京ちゃんは淑女なのか?

原作: 咲-Saki- 作者: リョーマ
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竹井 染谷 結話 2

「まさか、たすかった、なんておもってないでしょうね、すがくん?」








瞬間、場が凍てつく。安穏の場は急速に過激へと変わった。
染谷先輩も、対象は指定していないはずだが、世界に宣戦を布告するように、大口の嘲笑を行った。

そして俺の愕然を捉えて、くつくつと笑う部長の声色には、深い陶酔の色が聞き分けられる。

さっき、校長席に座った先輩が傲岸に見えたのも、全然勘違いではなかった、あれはフリではなかった。


底冷えする俺の前に、外部の陽が全く墜ちる。

絶望の暗夜がその始まりを知らせたのであった。

「そもそも、すがくん。なんでわたしたちだけ正気だー、なんて思ったの?」

その通りだ、この世界は、今朝から今に至る迄の観察を基にすれば、冷徹でサドに動いている。部長たちだけ正気なんて、ありえるはずがない。

「おーおーそうじゃ、そうじゃ。わしらだって正気じゃない。でないと、和たちだって騙れないしのう」

「そうそう、その通り。ちなみにね、今でもわたしたちはチ〇ポ美学の熱心な信徒よ、あんなにバカにしちゃったけど、和はグルとして尊敬しているわ」


部長は大きく手を広げ、俺を睥睨した。

部長の唇が動き出す。

「すがくん? この言葉を知ってる? 『恐怖というものには鮮度があります』」

「何ですか………。それは……」

「あるアニメに登場する、性根が腐った奴の言葉なんだ。可笑しなことに、わたしが一番好きな言葉でもあるんだけどね」

「わたしは別に、そいつの、人格とかやったこと――まあ、外道な行いだけど――が好きなわけじゃない」

「だけどね、この言葉だけ、わたしにはもの凄い魅力的に思えたの。でも、この言葉が、魅力的に思えるのは、ふつう、ふつう、絶対に間違ってる」


「だからね、わたし、その言葉をずーっと胸の奥深く、鍵のかかる小箱にしまっておいたんだ」

部長の顔は、原村和のように晴れやかだ。精神科病棟の如き、開け抜けた空のような真っ平を感じる。

部長の、快活な狂気を宿して以来の話を聞く限り、俺は更なる陶酔を読み取る。だけれど、激情なる陶酔の背後には、安穏の大河が流れているような気がする。
立ち居振る舞い、喋り方、態度、外見に至るまで、さっきの優しく俺に語り掛けた部長と同じなのだ。

この状況、部長を、お前ら――読者――に説明する上で一つの比喩を取ろう。

川面の流れは速く、俗悪で病的な変化をする。水流は波を立て、止まる所を知らない。だが、川の深層というのは、実はほとんど動かない。
川底の土砂は自らの重厚な体積をその川底において、他の生物に誇示するように、一切の微動をしない。部長はまさにそのような、表面に狂的な変質を繰り返しながらも、天の生せる質においては、不動の大山のようである。だから、恐ろしい。


「わたしは今朝の出来事があってから感じたのは、勿論性欲の高まりもあるんだけど、それ以上にあの小箱が開かれてしまった、その事を感じていたのね」


「あれ狂う性欲、感情の波。わたしは、それを受け止めるのに必死だった。皆のように、体を性欲にまかせられなかった。性欲の部分は解決できる、男の子を、ただ犯せばいいものね。だけどこっちの感情、タブーの方はそうにはいかない」


「身体による解決ではなく、シチュエーションによる解決が必要だった。絶望は流動であらなければならなかった」


「ただ男の子を犯したら、彼は絶望するだろうけど、それは静的なものに過ぎない。そんなものは、波の流れに身を任せるように、ただ流せばいい。つまらない」


「私が求めてるのは、そんな矮小でチンケなものじゃないのよ! 自然に流されて行為を行うのは、猿よ。ポストモダンを生きる私は、前コギト的な失態を犯すわけにはいかない」



「だからね、すがくん。私は考えたの」




「彼女ら、チ〇ポ教徒は、純粋に、美学的な探求だけに重きをおいていたわ。いわば芸術的な昇華のみを求めていたのね」


「わたしは、そうじゃない。頭が他者の絶望を求めている状態で、性的な欲求不満を解消するのは一時しのぎにしかならない。彼女らとは違う方法で、あの絶望を摂取しなければならなかった」


「絶望、あの絶望。私は狂気と平静のアンビバレントを取らねばならなかった」


「彼女ら――チ〇ポ信徒――は目標がすがくんに一致してから、あなたへの神学的アプローチを行った。神学的とはいっても、神は現人なわけだから、すがくんのイコン――つまりチ〇ポ――を愚直に追い求めた」


「でもね、わたしは純粋なチ〇ポ・イデオロギーを持っているんじゃないのよ。所詮混ざりもの。わたしはチ〇ポ信仰者ではなく、絶望の思想家でしかない」



「背信せねばならない。彼女らの――和を中心とした神学体系――を裏切らなければならない」


「苦痛だったわ、それはね」


「だって、皆と違うんだもの」


「例えばね、狂信に浸かって、あのクリフからばんざーいって飛び降りる。わたし達からすれば十分な狂気だけど、飛び降りている人は、ぜんぜんそんなんじゃないと思う」


「信仰に染まった身体、敵につかまらず、崖から身を投げ出しているその瞬間を、想像してみて」

「ビュッって音がする。ふわっと体が浮いたと思ったら、ごうって音がして奈落へ逆さま」


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