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貞操逆転in 咲 京ちゃんは淑女なのか?

原作: 咲-Saki- 作者: リョーマ
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竹井 染谷 結話 1

「おーおー、全部方付いたみたいやし、これ以上仲間が増えたら面倒や、撤収しよ」

「ええ、そうね。じゃあすがくん、私たちが安全で、ちょっと頭おかしくなっちゃた子たちからも絶対に、絶対に逃れられるところへ連れていきたいのだけど、いいかしら?」

部長が絶対に、絶対にと二度も念を押すくらいだから、余程安全なところなのだろう。どうせ、俺にはこの場から逃げ去る方法などない。部長たちについていくのが得策だ。





「おおー京太郎ちょっとこいや、大丈夫や、安心しい。私らがこいつら正気に戻るまでは匿っといちゃる」

先輩たちはそう言葉にしながら、俺の不安を取り除くように、俺に笑いかけた。なんていい人たちだろう、ただ助けてくれるだけではなく、俺に慰めの言葉までかけて貰えるなんて。

こんな先輩たちのお気持ちを無碍にしたら罰があたる、ここは先輩たちの好意に甘えることにしよう。

「ありがとうございます、先輩。恩に着ます」

「おおよっしゃよっしゃ。じゃあ早速向かおうとするかの、久?」

「そうね、じゃあ行きましょう」

ふふふと、部長は染谷先輩と笑みを交換して、ドアの方に向かった。

先輩たちの後ろ姿は、落ちる夕日と同じくして影を深めていく。
そして、俺は先輩たちを追って幾分と暗い廊下へと向かった。
どことなく、空気が冷たいような気がする。もう放課後も放課後、人がいなくなって、かなりの時間が経過したからだろうか。



先輩たちと歓談を交わしながら、俺たちは学校内における絶対領域、「校長室」へと向かった。











〓〓〓



『恐怖というものには鮮度があります。
怯えれば怯えるほどに、感情とは死んでいくものなのです。
真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態――
希望から絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言う。
如何でしたか?瑞々しく新鮮な恐怖と死の味は』『FATE/ZERO(アニメ)第二話』「制作HOBiRECORDS、原作虚淵玄」サーバント、キャスターより引用



先輩たちは俺を学校の一階にある「校長室」へと案内した。

校長室は、その部屋の外から見ても、雰囲気、荘厳といった様子で、俺の背丈より数十センチ高く、厚さも二十センチはある重苦しい扉には、圧迫感を覚える。

部長はギギギと扉を開け、染谷先輩共々なかに入った。
そして、校長室の中から「さあ、須賀君、入って、入って」という先輩の言を受け、俺は急ぎ足で校長室へと入った。

校長室の二重に閉まった窓には、暗幕がかけられていて外から教室をうかがうことはできない、視覚的な対策はバッチリだ。
音においても、さっき階段を降りる際中校長室の周りには左右両方に教室一つ分ほどのスペースがあったのを見たから、とても遮音性が高いといえるだろう。

中に入った俺を確認し、部長は校長室に鍵をかけた。

「これであいつらは中に入ってこれない、難攻不落の城のできあがりね」

部長は、うんうんと頷き、満足そうに高級革がふんだんに用いられているであろう校長席に腰を下ろした。
その王とも取れる、しかしかわいい傲岸ぶりに、俺は破顔する。

染谷先輩も、気のいい兄ちゃんのように、はははっと声を出して大笑した。

「もーー何よ。二人とも」と俺たちの扱いに若干の不満を表す、怒ったような表情をしたが、部長の発言は場を和ませるジョークであるなんて言うまでもない。


俺はやっと、平穏を手に入れたと思った、だっていつもの清澄高校麻雀部の温かい空気が、そこにはあるのだから。

夢に魘された小児が、悪夢から目覚め、母の膝の上でくつろいでいるような安らぎがあった。非日常性の豪風から離れた安堵に、その身を潤す。


「須賀君も安心しているようで嬉しいわ、さ、さ、そこに座ってよ」


と部長は客席に手を促して、俺の着席を呼ぶ。


「ありがとうございます」、俺は部長に応じ、客席に着く。

 
客席で対する部長の顔を見れば、それは穏やかだった。

全てを成し遂げた、人事を尽くした先に待つのは、神の評定のみである。部長はきっと俺を助けるための想像絶する行いを、完璧に遂行したからこそ、このような表情ができるのだろうと思った。

正確な時間は時計がないから解らない。幾分の間、部長の顔だけでなく、場にも穏やかな空気が流れた。古の老兵が、帰還の際、その氷結した魂をゆっくり溶かしていくような、そんな場の流れだった。

体感にして数分、俺と先輩たちはその優雅なる時の流れを楽しんだ。


そして先輩は、安閑とした空気を愛撫するように、口を開いた。



「まさか、たすかった、なんておもってないでしょうね、すがくん?」








瞬間、場が凍てつく。安穏の場は急速に過激へと変わった。
染谷先輩も、対象は指定していないはずだが、世界に宣戦を布告するように、大口の嘲笑を行った。

そして俺の愕然を捉えて、くつくつと笑う部長の声色には、深い自己陶酔の色が聞き分けられる。

校長席に座った先輩が傲岸に見えたのも、全然勘違いではなかった、あれはフリではなかった。


底冷えする俺の前に、外部の陽が全く墜ちる。

絶望の暗夜がその始まりを知らせたのであった。


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