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ロベリアの種――悪を育てるものとは――

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 津島結武
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22話 ワックスフラワーの尋問

「グロムが降りていったのはこの辺りです」ティノ・カルネヴァルはエルノラ・スピルカーに伝えた。

「うーん、ここまでで争った形跡はないねぇ」スピルカーは馬車の後方部からこれまでたどってきた道を眺めながら言う。

 彼らのグロム・ディニコラ探しは、まず彼が盗賊に襲われたと仮定し、どこでさらわれたかを突き止めるところから始まった。
 しかし、彼らは出鼻をくじかれた。
 一切ディニコラがさらわれた可能性の痕跡が見つからなかったのだ。

「おいおい、どういうことだ? グロムは神隠しにあったとでも言うのか?」とジョルノ・フェッドは吐きながら悪態をつく。

「それはありえない。あらゆる可能性を考えてみよう」緑眼の女冒険者は冷静に手を顎に置く。「一、ディニコラ君が襲われることに抵抗しなかった。二、ディニコラ君は道を外れてあらぬ方向へ歩いていった。三、高度な技術を持った組織がディニコラ君をさらった」

「そんな組織がなんでグロムをさらう必要があるんだよ!」フェッドは思わず突っ込んだ。

「それもそうだな。そもそも彼はそんなにめぼしいものも持っていなかっただろうし、そう考えると盗賊に襲われた可能性も低い」スピルカーは考えた。「ディニコラ君は降りていったときどんな様子だった?」

「なぜかわからないけど怒っていました。もううんざりって言っていました」カルネヴァルが答える。

「彼は最近どんな調子だった?」

「とても神経質になっていました。ぴりぴりしていて、正直怖かったです」

「なるほど……。あまり考えたくないが、身投げしにいったのかもしれない」スピルカーが神妙な面持ちで言った。

 カルネヴァルは青ざめる。フェッドはすでに青ざめている。

「湖に行ってみよう」スピルカーは言葉を続けようと思ったが、二人のことを思って言わないことにした。


 フォギスターン地方は盆地になっているため、川の水は海に流れていかない。すべてここ、レカ湖に流れ着く。
 つまり、もしディニコラが川に身投げしていたらこの湖に死体が流れ着くはずである。
 カルネヴァルたちは湖の河口付近で湖を見渡してみた。
 しかし、汚れのない水面がきらきらと輝くだけで、不審なものは何一つなかった。

「ある意味よかった。グロムは身投げしていないっていうことだもんな」マッシュヘアの青年は、さすがに友人の死の可能性を考えては吐いてばかりもいられなかったようである。

「そうとなると、グロムはいったいどこに行ってしまったのでしょう……」カルネヴァルは心配そうにスピルカーに尋ねる。

「手がかりがあまりにも少なすぎる……。いったい彼はどこへ――」言葉の途中でスピルカーは突然目を光らせ、素早く御者のもとへ移動したかと思えば、彼女愛用の短剣を振った。

 彼女は何かをはじいたようだった。そのはじいたものが馬車の荷台に刺さる。矢だ。

「と、盗賊!」フェッドが声を上げる。

 盗賊は茂みから御者を狙っていたようだ。
 彼は馬車に冒険者が乗っていたことに気づくと舌打ちをし、そそくさと逃げようとした。

 しかし、彼は冒険者をあまりにも侮りすぎていた。むしろ、その冒険者のほうがあまりにも優れすぎた。
 盗賊は数歩足を動かしただけでスピルカーに捕まり、身動きが取れなくなった。

「クソっ、何者だテメェ!」盗賊は逃げようと身体を動かすも、腕の関節が痛むだけで何もできなかった。

「私が何者なのかを答える義理はない。代わりに運試しをしてみようじゃないか」スピルカーが盗賊に提案をする。

「は、運試し?」

「そうだ。これから私がする質問に私が満足する答えを返せたら逃がしてやる。ただし運悪く私の思う答えが返ってこなければ、お前は獄中暮らしだ」

「質問? なんだそりゃ?」

「昨日の昼から夜にかけて、一人で道を歩いている18歳くらいの男の子を見なかったか?」

 盗賊は自分は非常に運が良いと思った。その青年に見覚えがあったからだ。
「見た! 見た! 昼過ぎ頃にベッグへ歩いて向かうガキがいたよ! 何も持ってなかったから襲わなかったが、バカかと思ったよ!」

「その男の子はその後どこへ向かった?」

「知らねぇな! でもベッグから来た馬車に乗って何とか村方面に向かったのは見たぜ! ヒッチハイクでもしたんかなぁ!」

「その馬車の特徴を教えろ」

「あぁ? 辻馬車っていうの? 茶黒の木で中に神父だか牧師が乗っていたな」

「お前のようなつくづく運の良い盗賊は初めてだよ」スピルカーがそう言うと、手刀で盗賊の首を叩き、気絶させた。

 彼女が馬車に戻ると、盗賊から聞き出した情報を二人に伝えた。

「それって、リスター神父の乗っていた馬車かもしれない!」とフェッドは叫んだ。「リスター神父ってのは、俺とグロムの住んでいたスマル村の神父さんで、他の村に出張するときはエボニー色の辻馬車を好んで利用していたんだ」

「ということは、グロムはベッグに帰ったと思っていたら、実は私たちとすれ違ってスマル村に行ったってこと?」カルネヴァルがフェッドに尋ねる。

「その可能性が高い! 今すぐスマル村へ向かおう!」
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