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忘れられない煙草の匂い(亜久津×跡部)

原作: その他 (原作:テニスの王子様) 作者: ちゃんまめ
目次

後編

亜久津は視線を合わせないまま「あ?あの跡部にも悩みが有んのか?」と尋ねて来た。

「俺も人間だからな。」他校だからか、テニスを辞めた人間だからかは分からないが、亜久津になら話せる様な気がして俺の心に秘めている想いを話した。

亜久津は煙草の煙を燻らせながら黙って俺の話を聞いていた。

どうやら亜久津は素行は悪いが人間として悪い人間ではないらしい。

それどころか俺の話を聞く様子から義理や人情に厚い人間だと言う事が分かった。

「すまねえ。くだらない話をしちまったな……」

一通り吐き出した俺が亜久津に謝罪をすると亜久津は「気にすんな。」と一言だけ返して来た。そして「テメェはテメェなりに溜まるものもあんだろ。ガス抜きしたくなればまた此処へ来れば良い。俺が居るかは分かれねえけど街の灯りがテメェを癒すんじゃねーの。」と一言残し街へと消えて行った。

俺は自分の本心を始めて話をした事、そして今まで認識していた亜久津仁の印象が百八十度変わった事で亜久津に興味が湧いた。

それから俺はしばしば夜の街へガス抜きへと向かった。

亜久津には逢えなくてもアイツが居ると言う安心感でガス抜きの効果は更に深まり部活にも更に専念出来る日々が続いた。

そして今夜も街へ繰り出した。

街灯の暖かみに触れていると不意に後ろから名前を呼ばれた。

「跡部。またガス抜きか?」

その言葉に敵意は無かった……寧ろ暖かみを感じる言葉だった。

俺は偶然、亜久津と逢えた事に嬉しさを感じていた。悟られない様に「ああ、お前は何してるんだ?また喧嘩じゃねえだろうな?」冗談交じりに俺言うと亜久津は「俺もお前と同じガス抜きだな……おい跡部。未だ時間はあるか?」

「ああ。時間は問題ないがどうした?」

「此処じゃ話せねえ話がしたい。俺の家はババアしか居ねえし近くだから気が向いたら来い。」

あの一匹狼の亜久津が俺を必要としてくれている。その事実に俺の鼓動は高揚した。

「お前の私生活も気になるし良いぜ。」

「俺の事が気になるなんざ物好きも居るモンだな。」

亜久津の家へ向かう道中は何でもない会話を交わした。

俺がビーフストロガノフが好物だと言うと何だそれ?流石はお坊ちゃんだな。といわれたので興味が有れば食べに来いよ、最高のもてなしをする等と話した。

亜久津の家には彼女と見間違う様な母親が居て亜久津が友人を連れて来た事に酷く喜んでいた。そんな母親に亜久津は「うるせえ、ババア。」と言ったので「ババアはないだろう。」と言った。

亜久津は不満気だったが、亜久津の母は「跡部君って優しいのね!」言い飲み物やお腹空いてるでしょ?と手早く軽食を作ってくれた。

「跡部君のお口に合わなかったら無理して食べなくて良いからね。」と言ってくれたので「そんな失礼な真似はしません。」と会話を交わしていると亜久津が「早く部屋に行くぞ。」と苛立っていた。

亜久津の部屋に入ると適当に寛いでくれと言われた。

折角作ってくれた軽食、チャーハンを早速頂く事にした。

一口食べると家庭的な優しい味が口内に広がり幸せな気持ちにさせた。

「お前のお母さん、料理上手いな。亜久津も一緒に食べようぜ。」

亜久津は自分の母親を褒められた照れ臭さ、先程の態度でも分かったが母親には素直になれない反抗期なんだと思った。

俺の隣に座ってチャーハンを食べると「普通」それだけ感想を述べた。

「相変わらずだな、お前。」笑いながら俺が言うと「何笑ってやがんだ。」と言われたが不良達と喧嘩をしていた時に感じたどす黒いオーラは感じなかった。

「で、話っつーのは何だ?」

亜久津は言い難そうにしていたが意を決したのかゆっくりと話をし始めた。

「俺が輩相手に喧嘩してた時があっただろ。その時跡部は俺にドイツもコイツもうだらねえって言葉は俺自身に言っている言葉なんじゃないか、って言ったよな。確かにそうだ。俺は実は伴田からアメリカへの留学、まあテニス留学か、を進められてんだけどよ。もうテニスに魅力は感じねえし自分の存在価値が分からねえんだよ……悪い、湿っぽい話をしちまった。」

「今まで誰にも言えなかったんだろ?ずっと自分と葛藤して辛かったな。」

「なんつーか、この前跡部の話を聞いた時に跡部は氷帝の部長として部員達の事を想って頑張ってんだって話を聞いたら益々、俺は一体何してんだって思えてきてよ……笑いたきゃ笑えよ。」

「笑う訳ねえだろ。寧ろ俺にだけ本音を話してくれた事が嬉しかったぜ。」

「照れれ臭えだろ……だが、跡部なら話せる様な気がしてな。」

「……俺が亜久津に興味を持った最初の理由はテニスを辞めて自由の身になった亜久津が何しているのか。まあ、その時は喧嘩だったがガス抜きが必要な程自由とはほど遠い俺と違った生き方をしている亜久津に興味を持ったからだ。今だから言えるが、お前は十年に一度の逸材と言われる程テニスのセンスにも長けているし身体能力もズバ抜けている。そんな恵まれた才能が有る亜久津に嫉妬してたのかもな。それと……」

「それと?何だよ?言葉に詰まるなんざ跡部らしくねえじゃねーの。」

「此処からは俺の戯言だと思って聞いてくれ。」

「ああ。分かった。」

「俺はガス抜きの為に頻繁に夜の街へと繰り出す様になったが、街へ行く度に亜久津とまた逢えるんじゃねえかって期待をしてた……」

「……そうか。俺もあれからっつーか夜の街にはよく居るがまた跡部に逢えるんじゃねーかとは思ってたぜ。」

亜久津のこの言葉を聞いた時に核心した。

最初は自分とは真逆な人間として興味を持っていたが実はいつの間にかそれが恋心と変化していた事を。

そしてその後も亜久津と腹を割って話を続けた。

亜久津は亜久津で自分と真逆の俺に興味、そして俺に淡い恋心を抱いてくれていた事も。

一通りお互いの話をするとなんだか照れ臭くなって目を合わせられなくなってしまった。

「これって両想いってやつか?」

「そうなんじゃねーの。」

ぶっきらぼうに言う亜久津の態度で両想いになれた事への幸せを感じた。

「付き合うか?こんな俺じゃ跡部とはつり合わねえと思うが……」

「つり合わないなんて事はない。寧ろ亜久津だからこそ心を許せる。俺の方こそよろしく頼むぜ、ダーリ。ン。」おどけて見せると亜久津は顔を真っ赤にした。亜久津の意外な一面が見れて喜んで「顔を真っ赤にして可愛い一面もあるじゃねーの。」

揶揄ってみせると亜久津は不意に唇を軽く重ねて来た。

突然の出来事に俺の顔が真っ赤になると亜久津は「跡部も顔が真っ赤になってんぜ?」

とお互い頬を赤らめたまま笑い合った。

頻繁に逢ったり、メッセージの遣り取り。メッセージの遣り取りから亜久津はまめな人間だと言う事が分かった。亜久津が興味を持ったビーフストロガノフも振る舞った。

今日は部活終わりで亜久津の部屋へと行く予定だ。

亜久津の部屋に入ると亜久津は真剣な表情をしている。

「何かあったのか?」

俺が尋ねると亜久津は真剣な表情の理由を説明し始めてくれた。

「アメリカへ行こうと思う。大切な跡部が頑張っている姿を毎日、一番傍で見てきた。俺も前へ進もうと思ってよ。アメリカへの留学の決意が固まったんだ。」

俺は始めは亜久津と暫く逢えなくなる事への寂しさを感じたが、大切な亜久津の背中を押してやりたい。

「そうか……見付けたんだな。亜久津と逢えなくなるのは少し寂しいが応援する。大切な亜久津だからこそだ。」

「ありがとよ、跡部。今はメッセージやらなんやらで跡部に寂しい想いはさせねえから安心してくれ。跡部は氷帝を全国へ導いてくれ。俺は俺が出来る事を精一杯アメリカでぶつけて来る。」

「おう、思いっ切りアメリカで暴れて来い。」

「俺が帰国して一皮剥けた男になった時は跡部じゃなく景吾って呼ばせて欲しい。」

「俺も氷帝を全国へ導く為に努力するから亜久津が帰国したら仁って呼ばせろよ?約束だ。」

小指と小指を絡めて約束をした。

そして約束か暫くの別れを惜しむ様に口付けを交わした。
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