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忘れられない煙草の匂い(亜久津×跡部)

原作: その他 (原作:テニスの王子様) 作者: ちゃんまめ
目次

前編

アイツの第一印象は最悪だった。



勉強とテニスの効率的な練習方法や今日の部活の反省点や改善策をノートに綴っていると流石の俺も疲れて外の空気を吸いたくなった。

この時間帯に独りで外出するのかと執事に訊かれたが、今は何も考えずに夜の街の空気を吸いたかった為、身嗜みを整えると街へ向かった。

部屋着なんかでこの俺が出掛けられるものか……プライベートも完璧で居たい俺にはこうして「ガス抜き」を定期的にしてやらないとパンクするだろう。

氷帝学園を全国の頂点へ。そしてその氷帝学園の頂点に立つ俺、跡部景吾は部員達の憧れ、カリスマで居なければいけない。

それが俺の使命だとさえ思っている。



 街は賑わっている。

ビルに灯されているネオンや街灯の明るさが今日の俺にとっては明るく前向きな気持ちを与えてくれる暖かい灯だ。

そんな街頭を当てもなく散歩していると、俺の明るい灯の邪魔をするかの様な声が路地裏から聞こえて来た。

「んだよ、テメェ!!ガキが生意気な口を利くんじゃねえ!」

「あ?テメェこそ誰に指図してんだ?」

「一度、痛い目見ねえと分かりませんっつー顔してんな。」

「一対三が卑怯なんて言うんじゃねえだろうな?それとも威勢だけでほんとはビビってんじゃねーの?」

不良共の喧嘩か……くだらねえ。そんなに元気が有るなら他の事に活かせば良いのによ。

俺が心の中で馬鹿にしていると聞き覚えがある声が怒号の中にあった。

山吹中三年の亜久津仁。

十年に一人の逸材と言われている「怪童」の亜久津だ。

テニスプレイヤーとしての抜群のセンス、生まれ持った身体能力の異常なまでの高さ……そんな恵まれた才能を持っているのに亜久津はテニスと真面目に向き合っていない。

おまけに素行が悪い不良生徒だ。

毎日テニスに対して真剣に努力も部員達への気配りも欠かさず向き合っている俺から見れば亜久津の態度は許せないものだ。

青学の越前リョーマ。

スーパールーキーに亜久津は試合で敗けた。

一年で青春学園のレギュラーの座を勝ち取っていると言う事は「”あの〟手塚国光」が認めた一年坊主と言う事だ。

テニスへの熱意が消えたのか、初めての挫折を味わったからなのかは分からねえが、越前との試合後に亜久津は山吹のテニス部を退部したらしい。

そんな印象しか持ってない亜久津が柄の悪い奴等に絡まれているのか。

これがうちの生徒だったら助けに入るが俺にそんな義理はねえ。

だけど何となく自由になった身の奴の行動が気になってこっそりと喧嘩を傍観してみる事にした。

亜久津は三人を相手にしていても全く怯んでいる様子はない。

それどころか一人で三人分以上のどす黒いオーラ―を身に纏って相手と対峙している。

俺がそんな様子をぼんやり見ていると亜久津はなんの躊躇いもなく、一人の男の顔面を殴りつけた。

流石は十年に一度の逸材と言われる男だ。喧嘩にも才能があるらしい。男は顔面を抑えながら蹲っている。

「おい、コイツ……ヤバくねえか……一撃で真治の事って……。」さっきまで散々亜久津を煽っていた残りの二人が動揺している。

「俺に喧嘩を売ったのが間違いだったな。」亜久津は戦意を失っている他の男達にも容赦なく喧嘩を続けようとしている。

そんな態度を悟ったのか「一度売った喧嘩を返せなんて情けない事言うんじゃねーぞ?やめて下さいなんざ言ってみろ、もう二度と喋れなくしてやる。」

「こいつ頭イカれてんじゃねーか?!」

「最高の褒め言葉をありがとよ!ハハハッ!これはその礼だ!」亜久津は思いっ切り残りの相手の急所を蹴り飛ばした。

流石にその急所蹴り飛ばされたら死ぬだろ…。心の中で股間を蹴り飛ばされた柄の悪い連中の事が憐れに想えた。

柄の悪い連中を完全に打ち負かすと「ケッ……どいつもこいつもくだらねえ……。」吐き捨てる様に呟くと亜久津は当然の様にポケットから煙草を取り出し吸い始めた。

俺は思わず心の中の言葉が口から出てしまっていた。「仕事終わりに一服するサラリーマンかよ、お前は。」

「ん?なんだテメェもコイツ等みたくなりて……って氷帝のお坊ちゃんがこんな時間に何してんだよ?」

「俺はガス抜きに外の空気を吸いに来た。その邪魔をお前達がしてくれてな。俺様の邪魔をする奴等の顔を見ようと思ったらまさか亜久津だったとはな。」

「相変わらず口が達者だな。」

「それはお前にも言えるが……さっきの言葉、お前自身に言い聞かせてただろ?」

「あ?何の事だよ。」急に敵意を剥き出しにした反応で直ぐに分かった。

亜久津は今、「くだらないと思っているのが自分自身だ」と自分では理解しているが、どうして良いのか先が視えずにこうしてその矛先を街の不良相手に向けていると言う事が。

「俺に指図なんざしてみろ。コイツ等と同じ目に遭わせる。」

亜久津は俺を威嚇するかの様に言った。

「そんなつもりはねえ。お前、テニス部を辞めたらしいな。」

「何処からの情報かは知らねえが、それがどうした?」

「ま、俺達氷帝にとっては一つ脅威が減った事は有難い事だ。だが……お前自身はこの先どうするんだよ?」

「知らねえ。」

この時、俺は亜久津がアメリカへの留学を山吹の顧問である通称、伴爺から進められている事は知らなかった。

何故だか分からないが、亜久津に俺の心の声、部員達にはとてもじゃねえが言えない言葉を吐き出してしまった。

「お前は自由で良いな……」
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