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dictator(独裁者)

ジャンル: ホラー 作者: ちゃんまめ
目次

後編

【Case4 安達理恵】

 山田先生は何も悪くなんてない。

ただ普通に私達生徒に接してくれるのに、先生の授業をちゃんと真面目に受けている生徒は居ないし、先生に対して反抗的な態度や馬鹿にした態度を取る生徒、それを煽る様な生徒達ばかりだ。

私は先生に何度も助けられている。

独りで中庭でお昼ご飯のお弁当を食べて寂しい想いをしている時に「あら、そのお弁当とても美味しそうだね。先生も隣で食べて良いかな?」と声を掛けてくれた。

先生は「私は手抜きのコンビニのお弁当だから恥ずかしいけれど。」と言って笑った。

「先生はお忙しいから仕方がないですよ。」と私がつられて微笑みながら返すと「安達さんは笑顔が素敵ね。」と言ってくれてとても嬉しかった。

私はそんな優しい先生だから、先生が休職してしまう、最悪の場合このままでは教師を辞めてしまうんじゃないか、っていつも不安で一杯だ。

だからと言って私には何も出来ない。

もしも、早田君達に何か言おうものならばどんな仕打ちをされるか分からない。

その事が怖くて何も出来ない自分に心底腹が立つ。悔しい気持ちにもなる。

だからせめて心の中だけでも私は先生の味方で居よう。その想いを込めて職員室へ持って行く進路調査票のプリントの山の上に名前は書かずに「いつもごめんなさい。」とメモを添えた。



 自宅に帰ってお風呂から上がると実家の母から電話が掛かってきた。

何の用だろう?通話ボタンを押した私の耳に入ってきた言葉はとてもショックなものだった。

「明子、久し振りね。元気に過ごしている?仕事はどうかしら?」ここまではごく一般的な親子の会話だが「今日知った事なのだけれど高校の時にお世話になった星野先生が亡くなったのよ……」

まだまだ高齢とは言えない星野先生だ。きっと病気が原因で亡くなったのだと思って「先生、ご病気だったの?」と尋ねた。すると母は言いにくそうに話を続けた。「私も聞いただけなんだけど、どうやら自殺らしいのよ……。書斎で首を吊っている姿を奥様が発見したって……。それでお通夜と告別式なんだけど……」予想外の言葉に私の思考はフリーズした。

あの生徒想いで素敵な先生が自殺なんて……。

衝撃が大き過ぎて涙を流す事さえ忘れてしまっていた。

先生は今でも自分の信念を曲げずに、悪い事をした生徒には厳しく指導し、務めていた野球部の顧問の指導も厳しくしていた。

それは生徒達を想ってこその指導方法なのに、その指導方法に反発したモンスター達が「今の時代に貴方の指導方法は時代遅れのものだ」「部活での激しいしごきは体罰ではないか」と数々の星野先生の指導法を否定する意見が寄せられた。そしてそのモンスター達に逆らえない校長を始めとする教師達さえも星野先生を追い込み学校を休職させたという。

元来真面目な先生の事だ、きっと自分の教師としての生き方を考え過ぎて精神的に追い込まれてしまった結果、無念の最期を迎えてしまったのだろう……。



 私は先生の告別式に参列し先生のご遺体の前で先生へ「先生の無念、私が代わりに晴らします。例えそれが先生が望む形でなくとも……」と手を合わせて誓った。

久し振りに見た先生の姿は儚過ぎて初めて涙を流した。



 復讐相手は今の生徒達だ。私にはそれ値する生徒達が居るではないか。

私は早速、生徒達の詳細を記したノートをもとに生徒達の事を更に調べ上げた。SNSのアカウントやメールアドレスも入手した。

共犯者の安達さんの手を借りればいともたやすい事だった。

名前は書かれてはいなかったが、進路調査のプリントに添えられたメモは字体から直ぐに安達さんが書いたメモだと分かった。

私は事情を安達さんに話して協力を仰いだ。安達さんは快く共犯者への道を受け入れてくれた。

私は安達さんを「利用」して馬鹿共への報復を始めた。



 早田遼に関しては早田の母親の美代子と教頭との不倫関係を匿名で内部告発した。

その事態を知った他のPTA役員達から早田夫妻は手のひらをかえされ、糾弾を受け旦那もろとも会長、役員を辞任させられた。

妻の美代子の不倫を知らなかった旦那の光雄は激昂し、離婚を迫った様だ。

この不倫事件は学校中に広まった。SNSの偽アカウントを作り拡散させたのは私だが早田遼の学校での地位はあっという間に落ちていった。



 次は賀川映美だ。

賀川になりすまし援助交際を募集するサイトに書き込みをした。賀川のSNSから駅前で友人と待ち合わせをする日にちと時間をリサーチし、その時間に援助交際相手との待ち合わせ時間もあわせた。

書き込んだ内容は「援交希望。普通のプレイじゃなくてレイプみたいなアブノーマルなプレイ希望でーす!人数が多いほど金額は上げてね♪」といった内容にした。

どうせ普段から身体を好んで売っているビッチだ。これくらいをしても罰は当たらない。

翌日、賀川は学校を休んだ。

神妙な面持ちで朝直接学校を訪れて来た両親は「娘は、心も身体もボロボロで……」と話をしている。

どうやら複数の男に無理矢理犯された事がショックだったらしい。昨日から泣き続けている様だ。沈痛な表情と自分が担任する生徒が酷い目に遭ってしまい自分も辛いといった表情を作り話を聞いていた私だが心の中では「ざまあ見ろ」と高笑いがともらなかった。



 因果応報と言う言葉が有る様に悪い事をしたのならば必ずそれは自分にも返ってくるのだ。

そして人を呪わば穴二つと言う言葉も有る様に、きっと私にもこれから報復の仕打ちが返って来るのだろう。

だが、そんな事は構わない。次のターゲットは誰にしようか。

今日も私は生徒達の事を書いたノートを見詰めながら次の報復の計画を練っている。

最早この学校の支配者は早田でも加賀でも教師共でもない。

悲劇のヒロインである私だ。
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