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どうせいと黒猫

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: ノリィさん
目次

どうせいと黒猫3話

(強引すぎてひいたかな?)

ビアンバーでユキと名乗った女性は、どう返事をするか迷っているようだった。

数分考えてからこう切り出した。
「そんなことをしてもらう云われも義理もあなたには無いし、もし完全な好意で申し出てくれてるとしたらお返しができない、と思います。
ただ、正直今はこれからどうするか考えるほど頭が回らなくて…あなたが言う通り地元には帰りたくないけど、他に行く場所もないしお金もないし…」

そう言ってまた数分の沈黙があった。

「でも…もし1週間居て良いのなら、それは確かに有難いかもしれないです。
でも本当に何もお返しできないし、今お金もあんまりなくて…」
そう言って俯いてしまった。

すると姫が「元気をだせ」というようににゃーんと鳴いてユキの膝に乗り、香箱座りになってゴロゴロ喉をならし出した。

少し場の空気が和らぎ、私はこう言った。
「姫は気難しい猫なのに、初めての人にこんなに懐くのは珍しいよ。
本当は警戒心の強い子だから、お世話も友達とか身近な人に頼めなくて。
だから、お返しとか必要ないけど、この子の世話をしてくれたらとても助かる。体調に波があるから本当は一日中看ていたいけど、仕事しないわけにはいかないしさ。
もし引き受けてくれたらそれだけですごく有難い。
もちろん、1週間だけでも本当に助かる」
以前、姫を友達にお願いしたことがあったが、警戒しすぎて体調を崩してしまった。だけど、姫はユキには最初から好意的だった。

ユキは姫を撫でながら考え込んでいた。
そして「じゃあ、1週間だけ」と小さい声で言った。

「よかった!決まりね。じゃあ、とりあえずLINE交換してもいい?
あと、一応免許証見る?」
「あ、じゃあ私も免許証見せます」

それからお互いのLINEを登録し、免許証を見せあった。

ユキは南雲 雪という名前で私と同じ年齢、住所は新潟だった。
「東中月子さん、1週間、宜しくお願いします」
「南雲さん、こちらこそ宜しくお願いします。てか、敬語止めようよ、同い年だし。
あと、月でいいよ。私は何て呼んだらいい?」
「あ、じゃあ雪で。うん、ありがとう」

ぎこちないまま姫のトイレやごはんの説明をして、雪の服を洗濯する流れから家にある家電の使い方を一通り説明していたら、もう夕方だった。

「ごめん、私そろそろ仕事行かないと。帰り夜中だから寝てていいから。
冷蔵庫の中にあるものも好きにしていいからね。
戸締まりだけしっかりしてね」

バタバタと用意して仕事に向かった。
仕事は、家のそばのスナックの裏方。毎日スーパーに寄ってから行くので出勤時間の19時より1時間早く家を出る。
飲み物は酒屋さんが配達してくれる。私はママから預かったお店用の財布でその日の使う分だけウインナーや胡瓜、ナッツなんかを買う。

「おはようございます」
店に入るとママがパソコンで帳簿をつけていた。
「ツキちゃん、おはよー。今日も頑張ろうねー」
画面から目を話さずに、でもいつも通り明るい声でママは続けた。
「今日から梅雨入りだって。お客さん減るかもしれないから、明日からは日持ちするの以外あんまり買わなくて大丈夫よ。
品切したら他のものおすすめすればいいから」
「わかりました」

食材を冷蔵庫に仕舞ったら店内の掃除。これも私の仕事。
正直、酔っぱらいの使うトイレはものすごく汚い。しかし、掃除は好きなのでむしろやりがいがある。

その次は酒屋から届いたお酒のチェック。伝票と違うことが極まれにある。

それからおつまみの仕込み。と言っても本当に簡単なものしか提供しないので、野菜を洗って冷やしておくくらいしかすることはない。

そうこうしてる間にホステスさん達が出勤してきてお店が始まる。

私は基本的にキッチンから出ないので、おつまみやお酒のオーダーはホステスさんが客席を離れて伝えに来る。
「シャウエッセンおねがーい」とナナさんがキッチンに来たとき、私はスマホを見ていた。
雪に、姫がごはんを食べたら連絡してほしいとお願いしていたからだ。
「ツキちゃんがスマホいじってんの珍しいねえ!彼氏?彼氏出来た?」
酔っぱらってるせいかとても楽しそうにからかってくる。
「出来てません。一生出来ません」と答えると、ナナさんは嬉しそうに笑いながら客席に戻っていった。


ママの言う通り客入りが悪く、早めに店仕舞いになった。
家に着くと0時をまわったところだった。

ドアを開けるまで、雪の気が変わってしまってもう家には居ないかもしれない、という心の準備をしていた。
しかし、実際にはドアを開けた途端「おかえりー」という声がして、リビングに行くと姫を背中に乗せてうつ伏せになっている雪がいた。
姫はかなり弛緩した姿勢でゴロゴロいっている。

「ごめん、こんな格好で。ちょっと寝転がったら乗られちゃって」
「いや、仲良くなってくれて嬉しいよ。お腹空いてない?」
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