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どうせいと黒猫

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: ノリィさん
目次

どうせいと黒猫4話

月が姫を背中から退けてくれたので、月の向かいに座り、今日一日気になっていたことを聴いた。

「ビアンバーで私、地元の話をしたんだよね?東京に出てきた理由。
どこまで話したか覚えてないんだけど、教えてもらえる?」
んー、と月は唸ってから
「付き合ってた職場の女性が盗撮してたことと、地元に居づらくなって東京に来たけど、仕事が見付からなかったってところまで聴いたよ。
わりと詳細に話してたね、すごく酔ってたから」

盗撮事件の詳細を月は知っているらしい。予想してたけど、会ったばかりの人がそのことを知っているのはショックだった。

「ねえ、あのさ月…さん、私たち昨日の夜ここに来てから何かした?」
「何かって?」
月はこちらをまっすぐ見ているが私は目を合わせられない。

「…月さんはビアンなんだよね?」
「うん」
「だ、か、ら、私たち、セックスしちゃったの!?」

ぽかーんという表情のあと、月は爆笑した。
「あははは、酔っぱらいを襲ったりしないよ! 同性でもレイプじゃん。しない、してない!
昨日は雪ほとんど寝てたから、ここまで運ぶのでこっちもぐったりだったしね」
「じゃあさ」と言って私は月の横に座って尋ねた「今からする?」

月はギョッとした表情をして体を離した。
「しないよ。なに?したいの?どうしたの?」

「いや、したい訳じゃないけど」
私も元々座ってた場所に戻った。
「お金無いし、体くらいしか払えるもの無いし」

私の言葉に、月があからさまにホッとした顔になった。
「びっくりしたー。逆にこっちが襲われるかと思った。
お金はいらないよ、本当に。
今雪が着てる服も元々うちに有ったものだし、あ、ショーツは確かに今朝買ったけど500円位だし。
姫の面倒看てくれるだけで有難いんだよ?
んー、でもどうしても気になるなら明日起きたらこれから1週間の細かいルール決めちゃおう。それこそお金を含めた生活のこととか。
たぶん雪は全くの無償って嫌なんでしょう?」
「うん」
「じゃあ、私お風呂入って寝るね。いつも9時くらいに起きるけど、雪は何時起きでも良いから。
あと…さん付けは止めよう。なんかむずむずする」
「わかった。月、ありがとう。おやすみ」


朝起きて、ふたりで以下のことを決めた。

とりあえずの出費は月が全額出すが領収書を保存しておく。
姫の世話は昼間は月、夜は私が担当。
月は夜の仕事以外にも昼間在宅で仕事をしているため、月の部屋には入らない。
月が自分の部屋にいるときは仕事中なので邪魔しない。
私の元々の仕事が調理だったので、料理は私が二人分やる。
洗濯は月がこだわりがあるので月の分担。但し、水道代が勿体ないので二人分一緒に洗う。
掃除は気がついた方がその都度する。姫が埃を食べてしまうことがあるので見かけ次第片付ける。

「ざっとこんな感じかな?」
ノートパソコン打ち込んだ[決め事]を見返しながら月が言った。
「良ければ印刷してリビングの壁に貼るよ。いい?」
「お願いします」

「それとは別に見てほしいんだけど」
月が不動産のサイトを見せた。
「つくばって田舎だけど大学生が多いから、ワンルームで安い物件たくさんあるし、正社員もそこそこ求人あるんだよ。
地元と東京以外にこれからの選択肢に足してみない?
せっかく知り合い?友達?にもなれたしさ」

「実は」と言って私もスマホを見せた。
「昨日の夜、月のいない間にこの辺の物件と間取りは見た。
でも、結局借りるとなると敷金とか無い物件でも最初の家賃とその翌月の家賃は最初に払わなくちゃいけないし、鍵の交換も1万円以上かかるし、あと物件の保険にも入らなきゃだから、かなり安い家賃の部屋でも手持ちじゃ足りないんだよね」
「んー、じゃあさ、とりあえずお給料が入るまで家にいたら?私は別にいいし。っていうか何度も言うけど居てくれると助かるし。
考えといてよ」
「うん…ありがとう」

実は昨日、つくばの求人もスマホで探していた。地図で場所を検索しながら。このマンションから通えて、今までやってた調理とホールの経験を活かせそうな仕事は何件かあった。
でもそのときは、ここで仕事を探すなら月に断ってからにしようと思った。

月が提案してくれたように、この街に住んで働くのはアリかもしれない。


夕方、昨日と同じように月がスナックに出勤した後、ネットで求人情報をピックアップしながら、手持ちの履歴書と職務経歴書を書けるところだけ書いた。
実際、ほぼ書けることはない。
高校には行ってないし、高卒認定試験は合格したけど勿論大学にも行ってない。
就業経験は15からやっていた和食店だけ。しかも10年間ずっとアルバイト。
(私の人生なんもないなあ)
かなり大きいため息を吐くと、寝ていたはずの姫が横に居てにゃあーんと鳴き、私の手を舐めた。
「励ましてくれるのかー?可愛いなあ」喉を撫でると嬉しそうに目を細めてゴロゴロ言う。
「就職できたら姫に美味しいものを買ってあげるからね」
にゃおん!とキリッとした顔をして、姫が膝に座った。
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