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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

鬼優の力


「そうですね。僕も心底驚いています。

・・・ユノ様、あなたはー・・・



もしユノ様の前でひなのさんが斬られることがあったら、ユノ様はどうしますか?
二人と同じようにするのですか?」


「・・・!」


この問いには困った。ユノはすぐに答えられなかった。


そんなこと、するわけない。
そう言いたいはずなのだが、即答出来なかったのだ。


「・・・今は、それすら分からん。

そうだとしたら、俺は自分自信を疑うだろうな」


「そうでしょうね・・・。


ともあれ、僕が今日外出していなくて、良かったですね」



鬼優の治療は、その日分の残り時間を費やした。

眠りから覚めるように、ひなのは徐々に意識を取り戻した。



・・・あれ・・・



なんだっけ・・・


どうなっちゃったんだっけ・・・




「ユノ様、目を覚まし時にあなたがいたら、彼女怖がると思いますよ」


そんな鬼優の意見を聞き、ユノは仕方なしに、自分の部屋へ戻っていた時だ。


「・・・あ、ひなのさん」

「・・・ん・・・」

「聞こえます?」

「・・・う・・・」


ひなのは意識が戻った時、覗き込んでいる鬼優を確認した。

なんだか疲れ切って、起き上がることも出来ない。



「・・・き、ゆう。私・・・」

「良かった、人間を治療したことがなかったんですが、持ち直しましたね」

「ひなの!!」



そう叫ばれて、初めて麗憐が隣の布団にいることに気がついた。


「れ、れいれん・・・」

「ひなの!こんなことになるなんてな・・・」


麗憐は起き上がったまま、動けないひなのの様子を伺っていた。



・・・あれ、なんかあの時みたいだな・・・
ユノ様に麗憐が斬られちゃって・・・私が、お見舞いに行った時。
この逆だったっけ・・・


「麗憐は・・・大丈夫・・・?」

「ひなのさん、人の心配してる場合じゃないですよ。起き上がれますか?」

「・・・う、ん。多分大丈夫。でも、もうしばらくこうしてます・・・」


なんかクラクラするよ。


・・・私、どうしたんだっけ・・・?



すごく、嫌なことが起こったんだよね・・・?あれは、夢じゃないよね?


「私、えっと・・・


私、生きてるんだね・・・」

「放っておいたら、死にかけてましたけど。僕が蘇生しました」



蘇生・・・?そっか、鬼優が助けてくれたんだ・・・

「ありがとう・・・本当に。ありがとう、鬼優。助けてくれて」



ひなのは隣にいた鬼優の手を取って、弱々しくお礼を伝えた。


「・・・いえ、僕が助けたのは・・・


・・・あれ、空牙・・・?」



助けたのは、ユノ様に頼まれたから。
そう言おうとした鬼優だったが、言葉が止まる。
麗憐の隣で空牙が身動きしたのだ。

「・・・い・・・てぇ」

「あれ、空牙。君も持ち直したんだね?
もうてっきりあの世行きかと思ったけれど」

「・・・はぁ・・・そういう事か・・・
まさかお前のその力に、俺が救われる日が来るとはな」


空牙は鬼優を見ると、自分が今生きている理由を理解したらしい。



「もうだめだと思ってたけど、一応治療はしておいたんだよね・・・

でも、まだ完全じゃないと思うから、二三日は仕事出ないでね」

「死んでると思ったのに、治療した・・・か。

全く、お前らしいな・・・


ひなのは、無事なのか・・・?」

「空牙・・・!私、大丈夫だよ!」


麗憐を挟んで、その先。
空牙はひなのの存在を確認して、安堵したように小さく笑った。


「笑えるな・・・

人間の女を庇うために、人斬りの班長ともあろうものが、ユノ様の前に出たんだぜ・・・?

なぁ、麗憐」

「あぁ、そうだな。あたいもまさか、お前が前に出てくるとは思わなかったよ」



・・・ん?



庇って・・・くれたの・・・?




・・・私を・・・?!



「それ・・・本当・・・?

私の、ために・・・?」


空牙と麗憐は、今更少し気恥ずかしいのか知らないが、二人共顔を見合わせた。


「・・・庇ったって・・・

響きに慣れないけど、そういう事か」


二人共、自分達がしたことに、後から戸惑いを覚えている。



その時ー・・・


「・・・!」

「・・・あ・・・」



気配に気づき部屋の戸口へ目をやると、ユノが来ていた。



・・・ユノ様・・・



なんだろう、その瞬間怖いとは思わなかった。
ただ、悲しくて切ない気持ちだけが湧いてきてー・・・



「・・・無事だったか」

「ユノ様、斬っておいて無事だったかは、おかしいって」


空牙の言葉に、ユノは再度全員の安否を確認する。


「空牙、てっきりもう無駄かと思ったが。・・・大した生命力だ」

「僕の治療が上手かったんですよ」

「そうか。・・・空牙、麗憐。動けるなら鬼優と共に、別部屋に行ってくれないか。

・・・ひなのと、二人にしてほしい」



・・・そんな・・・

本当なら、嬉しいはずのその言葉。

ユノ様。今は、その言葉は嫌です・・・

なんで、そこまでして・・・



また、私を斬るの・・・?



「・・・ユノ様、またひなのを斬るんすか?」

「・・・いや、斬らん。話がしたい」

「あ、そー・・・ならいいですけど。麗憐、歩けんだろ?」

「あたいは歩けるけどな。お前は鬼優にでも担がれとけ」

「僕、こんな巨体持てないよ」



・・・嫌だ・・・

けど、ユノ様は嘘はつかない。



恐ろしい人かもしれない。
でも、人を騙したり誤魔化したりするような人じゃないよね。

だから、話がしたいっていうのは、本当なんだと思う・・・



・・・麗憐、あなたが斬られた時も、そうだったのかな?



斬られたのに、怖いはずなのにー・・・

嫌だと、思うのに。


「・・・いいですよ、ユノ様・・・

ごめんなさい、私動けませんから、こちらに来て下さい」



それでも、話そうと思えるんだ。

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