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異世界放浪

ジャンル: ホラー 作者: 渚
目次

###02

「ママ。ちょっと聞きたいことが・・・!」

「なに?どうしたの?」

いつものように優しい笑顔で俺を見た母親はいつも通り食事の用意をしていたが、その見慣れた優しい笑顔の母親よりも、母親が料理している手元から俺は目が離せなかった。
魔法の事をすっかり忘れてしまった俺は、それよりも母親が目の前で行っている信じられない出来事に息を飲んだ。恐怖に怯えながら、平然を装った俺は改めて母親に何気ない質問をしてみた。

「き、今日のご飯は、な、なに?」

「今日はあなたが10歳になったお祝いでしょ。だから、そろそろ大人と同じモノを食べさせてあげてもいいと思って奮発しちゃったの。これ高かったのよ。
お父さんも大好きなシチューにするから楽しみに待っててね。」

そう言いながら、笑顔で包丁を握る母親が料理している姿から、半分隠れて見えていたモノは、どうみても人間の頭と腕だった。
俺はゆっくりと後退りしながら、そのまま自分の部屋に入り、鍵をかけた。
どういうことだ。だってあれはどう見ても人間の体だった。ということは、この世界は人間が人間を食うのか?それとも実は俺は人間じゃないのか?
何をどう考えても頭がパンク寸前だった。もうその時には、自分が魔法を使えるという事をすっかり忘れてしまっていた。
その晩、俺は勇気を振り絞って食卓のテーブルについた。
見る限りいつも通りの平和な家族の団らん。しかし俺は知っている。この食事には、人間が食材として使われている。

「今日はシチューか。俺の大好物じゃないか。母さん、今日はあの肉を使ってるのかい?」

「もちろんよ。だって息子が10歳になったんだもの。もう牛とか鳥とか気にしなくていいんだから、好きなモノを食べましょう。」

「それもそうだな。どうも他の肉は臭みが強くてな。母さんも料理大変だったろ?」

両親は、笑顔で美味しそうに人肉が使われているであろうそのシチューを口にしている。

「あら、どうしたの?食欲がないじゃない。ちゃんと食べないと大きくなれないわよ。」

「あ、う、うん。今日はちょっとお腹の調子が悪くて・・・ごめんね。
折角のごちそうだったのに・・・」

「あら大変。大丈夫?でも少しでも食べないと元気になれないわよ。」

口数少なく俺は食事に手を付ける事なく、両親の心配そうな顔を背に自分の部屋に逃げ込んでいった。
やばい。俺は、なんて世界に転生してしまったんだ。これじゃぁ、いつか俺も食われちまう。
逃げるしかない。
そう思った俺は物音を立てず、急いで家出の準備を始め、夜中の両親が寝静まる時間を待った。そして、部屋の壁に飾ってある子供向けの装飾が目立つ時計の針が夜中の12時を指した。
よし。行くか・・・
優しい両親だったが、これから何があるかわからない恐怖を胸に生きていく自信はなかった。寝静まった家の中の物音に耳を立てながら、そっと玄関をドアを開け、外に出た。
そういえば、夜の9時を回ったら外を出歩いてはいけないと言われていた。その理由はわからなかったが、それよりもどこか安全な場所で人間を食べる事のない場所がないかを探さないと。
外に出ると、街は真っ暗で誰もいない。物音一つしない街を月明かりだけが照らしていた。
どのくらい歩いただろうか。10歳の体で遠くまで歩き続ける事は難しい。それでも、少しでも遠くへ行かなくては行けない。そしないと、いつか俺も喰われる側になってしまう。
何時間も歩き続けた俺はさすがに疲れてしまい、どこか隠れられるような場所がないかを探した。何処へ行っても人通りがない街は不気味そのものだった。
周りを見渡すと、河にかかっている大きな橋が見えてきた。橋の下は人が隠れるにはもってこいの場所だった。
今日はここで夜を明かし、明日また考えるか。
晩ご飯を結局一口もつけなかった俺は腹が減り、物音一つしない静かな月夜に俺の腹の音が響いていた。
グゥ~・・・グゥ~・・・
ガサガサ・・・ガサガサ・・・
俺の腹の音に呼ばれたかのように、今までなかったはずの物音と人の気配を感じた俺は、ゆっくりと音を立てず急いで橋の影に隠れた。

「可笑しいなぁ。人間がいたような気がしたんだが、気のせいか?」

そこにはどう見ても普通の人間の男が一人。何かを持っている様子はなかった。
雲一つない河川敷は明るく、その男の姿をくっきりと俺に見せていた。男は辺りを見回した後、諦めた様子で橋を後にした。家を出てから初めて見た人間に興味を持った俺は、その男のあとを付けていった。
すると、ほど遠くない小さな長屋の一つに入っていった。

「父ちゃん。今日の収穫は?」

「今日はダメだなぁ。昨日は若い奴が3人もいたんだが、そうそう毎日こんな時間にふらつく人間はいねぇなぁ。」

「お疲れさま。今日は先週収穫してきた女の人の足があったからカレーにしてあるよ。」

窓から漏れる会話から、この家には小さな子供と大人の男が一人暮らしている様子だった。
人間狩りを生業としている様子の親子は、人間の足が入っていると言っていたカレーを美味しく食べている。あまりにカレーの匂いが美味しそうに感じた俺の食欲が耐えきれず、周りに大きく響く程に腹の虫が大きく鳴なってしまった。
グゥ~・・・グゥ~・・・

「ん?誰かいるのか?!」

男が窓から身を乗り出し外を見回した。俺はまだ10歳という体の小ささを利用し窓の下の影に隠れてその場をやり過ごそうとしたが、俺の腹の虫はそんなこと関係ない。窓から外を見回している男がそのまま窓の下に目をやると、予感があった通り俺と目が合った。そして男はにやりと笑うと、そのまま片手で俺を抱え上げ家の中へ引きずり込んだ。

「父ちゃん!!今日は上物じゃないか!
子供の肉は高級品だから、明日は久しぶりにごちそうかな。」

「そうだな。明日は外でうまい飯でも食いに行くか。」

「ちょっと待ってくれ。あんた達は人間じゃないのか?!」

壁際でガタガタと声も体も震えながら、俺は目の前にいるごく普通の家庭に見える親子に話しかけた。しかし、返ってきた言葉は、予想の斜め上を勢いよく行く内容だった。

「そりゃもちろん俺たちは人間だ。だって、人間が人間の肉を食うのは当たり間だろ?おまえはなんでそんな変な事聞くんだ?
俺たち猟師は、夜の9時を回って外にいる人間を好きに狩って良いことになっている。その捉えた人間達は部位別に出荷され、2~3日で色んなスーパーに並ぶ。これは誰でも知っている事だ。法律でも決まっている事だ。」

「あんたの子供も人間の肉を喰ってるが、それも普通なのか?」

「人間の肉は10歳未満の子供には毒で、食べると死んじまう。だから10歳以上にならないと食べられない。身長は低いけど、あたしはこれでも12歳の中学生よ。だから父ちゃんの為に料理だってするし、人間の肉も食べるよ。
だって人間の肉はどの肉よりも美味しいんだから皆大好きだよ。あんた食べた事ないの?」

「僕は今日10歳になったばかりだから・・・食べた事ない。」

「父ちゃん!この子10歳だって!この子出荷したらいくらになるかな?」

「10歳になったばっかは相当珍しいから高級食材だ。こりゃ、相当な高値になるぞ!」

目の前にいる親子は笑顔で恐ろしい話をしているが、どう見てもこの場から逃げられない。絶対に、間違いなく俺はこのまま出荷される。

「おし。とりあえず血抜きしとかなきゃダメになっちまう。
おい、おまえ。大人しくしないとキズが大きくなって価値が落ちちまう。大人しくしろよ。」

そう言った男は大きなナタのようなモノを取り出し俺に振り下ろした。
ザクっ!

「?ここは何処だ?」

堅く瞑った目をゆっくり開くと、そこは見覚えのある大きな木が一つ。ずっと昔に始めて転生してきたときにもこんな大きな木の下で目を覚ましたっけ。
どうやら俺はまた転生してしまったらしい。
しかも、体の感覚からすると10歳程度の姿。
また姿変わらずの転生か。
ふと息をつき、さっきまでの悪夢を思い出した俺は、恐怖からなのか震えと冷や汗が止まらなかった。俺は、すーっと垂れる顔の汗を拭おうとしたが、何故か出来ない。

「あれ?可笑しいな?」

汗を拭おうとした右手を見ると、そこには見慣れた俺の右腕がなかった。それどころか、転生されていない俺の右腕は、血液を体外へと垂れ流す蛇口のようになっていた。
気が付くと周りは血だらけで、残った左腕で汗を拭った時に気が付いたが、顔を垂れていたのも頭から流れる血だった。
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