ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

いち、にい、さん!

原作: 銀魂 作者: 澪音(れいん)
目次

33話 「喧嘩するほど仲がいい?」



雨降って地固まるなんて言葉がある。
雨の後のぬかるんだ土が、日の光に当たることで土にしみ込んでいた水分が蒸発して雨の前よりも地盤が固くなることから、揉めごとが起きた後にはかえっていい結果に転ぶ、安定した関係・状態を保てるようになるといった意味だったと思うけれど、今目の前にいるお2人を見るといい関係になったのだろうかと首を傾げてしまう。

なぜ先程は円満に和解の兆しが見えたお2人が早速火花が散る程お互いに睨みを効かせたているかというと、街中を抜け辿り着いた二手道を右に行くか、左に行くか、である。

「大通りの人の多い場所に行った方がもしかしたら偶然向こうが知ってますなんて人も出て来るかもしれないでショ!?」

「そんな偶然あるわけがない。それより静かな通りに出たほうが色々と落ち着いて考えることが出来るってもんだろ。」

お2人の意見はどちらも正論だと思う、大通りに出て確率は低いだろうが私を知っている人に出会うことが出来れば話を聞くことが出来る。けれどこの広い江戸の街でそんな人を手探りに探し当てるのは至難の業であるし、雑音の中で考えがまとまらないなんてことも起こりうるから、静かな通りで自身の記憶に残る風景を探すのも一利ある。

大通りの真ん中で掴み合いのケンカにまで発展しそうな2人を見て、さすが江戸っ子と言うべきか避難していくどころかぞろぞろと人は集まってくる。「火事と喧嘩は江戸の花」なんて言葉はよく言ったものだと思う。野次まで飛んでくる始末に、2人の間に入り「とにかくここから離れましょう」と説得に入るけれどもヒートアップしたお2人は「右に行くか、左に行くか」論争からかけ離れた「お通ちゃんが江戸で一番人気」か「B‘〇には遠く及ばない」なんて会話に発展している。多分ジャンルが違うから論争路線が間違っているんじゃないかななんて思うけれど。案の定掴み合いのケンカに発展し、周りもヒートアップして野次を飛ばすどころかアドレナリンが分泌されたのか2人の周りにも喧嘩は広がっていき、もう手に負えそうにない放っておこうかと一歩、また一歩離れた時だった。

爆音が響き、思わず耳をふさぐと人だかりに容赦のないバズーカが叩きこまれたのは…うそでしょ。



「すみませんでした」

バズーカで吹き飛んだ人が何人か救急車で運ばれるような騒動の後、あからさまに「やべえ」といった顔をした2人は早かった。私を担ぎ上げ肩に乗せた葯娑丸君が全速力で走り出し、その後を寸分遅れることなく着いてくる参ツ葉さんが懐から取り出した「煙玉」と書かれたものを後ろに放ろうとした。

これ以上騒動が大きくなったらまた壱橋さんに暫く外出禁止を言い渡されるのではないかと若干涙目になった時だった。それは呆気ない形で終結した。

後ろばかりに気を取られていた葯娑丸君は路地から出てきた男性に慌てて急ブレーキをかけ、かくいう私も葯娑丸君の肩に乗ったままであり葯娑丸君よりも随分と近い位置で急停止され思わず顔を腕で庇った状態で止まった。幾ら待っても来ない衝撃に恐る恐る目を開けるとそこに立っていたのは瞳孔が開ききったヤクザさん…基、確かあの真選組の沖田さんと一緒に居た方が私と葯娑丸君を見比べてからスッと目を細めた。後ろからは「土方さん、そいつらが騒ぎの主犯でさァ」と聞き覚えのある声まで聞こえてくる。ああ、終わった。壱橋さんに怒られる。なんて現実逃避をしながら私は葯娑丸君の肩の上で項垂れた。

「なんだってあんな道の真ん中で騒いでいやがった。周辺の店から苦情が来るわ、出動する羽目になったじゃねぇか」

取調室にそれぞれ入れられた私たちに、何故か私の方にやってきた黒髪のかたはヤクザの方なんかではなくて普通に真選組の人だった。うん、わかっていた。同じ服装の時点で分かっていたけれど自分が警察のお世話になるなんて、それも2回も。もしかして前世でも同じようにお世話になっていないよね、なんて記憶を思い出すのが恐ろしくなってくる。

「なぜケンカって…」

一通りの流れは話した。
記憶云々の話は割愛したけれど、散歩ルートで揉めて、それが歪曲して「どっちの好きな歌手がより優れているか」に発展して、最終的になぜか某お菓子の「きのこ派」「たけのこ派」かで論争に発展した結果、周りにいた人間もその2つの派閥に分かれてあのようなことになったのだと正直に話すと、「歌手」の話題あたりから男性の目が死んだ。「何お前らそんなケンカしているの?」と安易に言われているような視線に断じて私はその論争に関係はないと伝えたかった。

「じゃあ、ただ単に内輪揉めってことだな?」

「はい…お騒がせしました」

「今回はこれで済ませるが、次に揉め事起こしたらこんなんじゃ済まねぇぞ。あの2人のツレなら良く言い聞かせておけ」

もう帰っていい、という男性に安堵して最後にもう一度謝罪をしてから取調室を出ようとした私に隣の部屋から「クソガキィィ!?」という怒鳴り声と何かが破壊される音が聞こえてきたのは直ぐその後。私の前に立ち扉を開けようとしてくれた男性の額には青筋が立っているのがよく見える。

ごめんなさい、今の多分こちらの身内です。
そう思いつつ、早く出てしまいたかった取調室から何だか今は出たくないような、もう帰りたいような、そんな複雑な気持ちに苛まれながら、先に取調室から飛び出して行った男性の後を渋々と追うことにした。



目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。