第22話
日が少しずつ傾いていく。
周囲は、あかね色に染まっていた。
「どうだった?」
「こっちは駄目だった。恭介たちは?」
「こっちもだ。仙堂院は?」
「見て分かるだろう。桐野紗奈のきの字もなかった」
六時になったので、桜花駅に集まった俺たち。
どうやら、誰も桐野を見つけることはできなかったようだ。
「何か、思い当たることはないのか? 朱音ちゃん」
「ごめん、村上くん。あたしには……」
「そっか……どうすっかな」
頭をくしゃくしゃとかき回す村上。額には汗が。多分、全力で走り回ったんだろう。
「……探し回るしかないだろうさ。もしも今日見つからなかったら、警察に連絡するしかないだろう。……不本意だが、な」
仙堂院の言葉に、みんなが俯く。
「オレ、もっかい東側探してくるわ!」
と、どこかへ走り去っていく村上。
「……ワタシは帰るぞ。そうだな、たまには普段通らない道を散歩しながら帰るのもいいかもしれない。ふむ……南側を探して――コホン、散歩してみよう。ではな」
手をひらひらと振りながら、歩いていく仙堂院。
素直じゃないな。
「……あたしも、もう一度北側を探してみる!」
ツインテールを揺らしながら、宮原はさっき散々歩き回った繁華街の方へと消えていった。
「……うっし!」
俺は西側、学校がある方へと走りだした。
ゆるやかな坂道を、息を切らしながら駆け上っていく。
夕日はだんだんと地平線の向こうへと消えていき、暗くなってきた。
この辺りは街灯みたいな明かりになるものが少ないので、足元に気をつけなければいけない。
「はぁ……はぁ……」
立ち止まり、息を整える。
ふと前を見ると、一昨日に宮原と来た公園。
桐野を探しながら、少し休むことにしよう。
そう思った俺は、公園に入り、何組かのカップルからの視線にイラつきながら、空いていたベンチに座った。
「……ぷはぁ」
自動販売機でお茶を買い、それを飲んで思考を落ち着かせる。
どうやら、自分でも気付かないくらい喉が渇いていたらしく、買った五百ミリリットルのお茶が、一瞬で俺の身体の中へと消えていく。
「…………」
桐野は、どこに行ったのだろうか。
冷静に考えてみる。
もう夜だ。闇雲に走り回るのは、得策とは言えない。
「……でも、な」
幼馴染みの宮原が思いつかないのに、最近知り合った俺に、桐野が行きそうな場所なんて思い浮かぶわけが――
「……っ!!」
ちょっと待て。
桐野が行きそうな場所。
それは、もしかして桐野の好きな場所ってことになるんじゃないか?
「…………」
よく思い出せ。
確か、前に桐野が『好きな場所』を言っていたはずだ。
「……っ!!」
一つ、心当たりがあった。
桐野の、行きそうな場所。
「……っし!」
立ち上がり、俺は公園を出て坂道を勢いよく駆け上る。
目的地は、俺と桐野が出会った場所。
そう、屋上だ。
☆
「よっこらせっと」
と、精一杯努力しながら校門をよじ登り、校舎内に入れるところを探す。
「……わお」
なんということでしょう。
普通に正面玄関が開いてました。
この学校のセキュリティは大丈夫なのか?
ちょっと、いや、かなり心配になってくる。
まあ、今はそれがありがたいんだが。
そこから、薄暗い校内に入る。ちゃんと上履きに履き替えるのも忘れない。
躓かないように手すりを持ちながらゆっくり階段を上る。
最上階にある鉄製の扉の前までたどり着くと、俺はそこで、深く深呼吸をした。
「……ふぅ」
ここに桐野がいるか、わからない。
でも、俺には確信があった。
桐野はここにいるという、確信が。
「…………」
ドアノブに手を置き、静かに扉を開ける。
月明かりに照らされた屋上。
フェンスに寄りかかりながら、つややかな長い髪を風に靡かせる、一人の少女の姿。
「……桐野」
「……君なら、ここに来ると思っていたよ」
妖艶さを感じるような笑みを浮かべて、俺のことを見る桐野。
「……こっちを向いてたってことは、俺が来るって分かってたのか?」
「ああ。君が必死に校門をよじ登っているところが見えたからね」
「……っ。うるせえ」
なんだか恥ずかしい気分になり、顔を背ける。
「……んで? なんで家出なんてしたんだよ」
「……ちょっと、ね」
「……この前、不思議探索の時に呟いてたことが関係あるのか?」
「この前? ……っ!?」
ぴくりと桐野の身体が動いた。
『私は、その仲間の中に入っているのかな……』
寂しそうな表情て、そう呟いた桐野。
「聞いていたのか……」
「ああ。たまたま、な」
「そう。……うん。関係ないこともないよ」
「はぁ……。言っとくけどな、お前もその仲間の中に入ってるからな」
「…………」
俯く桐野。
しばらくの間、辺りが静寂に包まれる。
そして、桐野はゆっくりと口を開いた。
「仲間、友達……そんなもの、私にはできるわけがないんだ。五年前、私は散々そのことを思い知った」
桐野が言う、五年前。
多分、宮原から聞いた、クラスメイトからのいじめがあった時のことだろう。
「……そのことは、宮原から聞いた」
言うべきか悩んだが、俺は結局言うことにした。
周囲は、あかね色に染まっていた。
「どうだった?」
「こっちは駄目だった。恭介たちは?」
「こっちもだ。仙堂院は?」
「見て分かるだろう。桐野紗奈のきの字もなかった」
六時になったので、桜花駅に集まった俺たち。
どうやら、誰も桐野を見つけることはできなかったようだ。
「何か、思い当たることはないのか? 朱音ちゃん」
「ごめん、村上くん。あたしには……」
「そっか……どうすっかな」
頭をくしゃくしゃとかき回す村上。額には汗が。多分、全力で走り回ったんだろう。
「……探し回るしかないだろうさ。もしも今日見つからなかったら、警察に連絡するしかないだろう。……不本意だが、な」
仙堂院の言葉に、みんなが俯く。
「オレ、もっかい東側探してくるわ!」
と、どこかへ走り去っていく村上。
「……ワタシは帰るぞ。そうだな、たまには普段通らない道を散歩しながら帰るのもいいかもしれない。ふむ……南側を探して――コホン、散歩してみよう。ではな」
手をひらひらと振りながら、歩いていく仙堂院。
素直じゃないな。
「……あたしも、もう一度北側を探してみる!」
ツインテールを揺らしながら、宮原はさっき散々歩き回った繁華街の方へと消えていった。
「……うっし!」
俺は西側、学校がある方へと走りだした。
ゆるやかな坂道を、息を切らしながら駆け上っていく。
夕日はだんだんと地平線の向こうへと消えていき、暗くなってきた。
この辺りは街灯みたいな明かりになるものが少ないので、足元に気をつけなければいけない。
「はぁ……はぁ……」
立ち止まり、息を整える。
ふと前を見ると、一昨日に宮原と来た公園。
桐野を探しながら、少し休むことにしよう。
そう思った俺は、公園に入り、何組かのカップルからの視線にイラつきながら、空いていたベンチに座った。
「……ぷはぁ」
自動販売機でお茶を買い、それを飲んで思考を落ち着かせる。
どうやら、自分でも気付かないくらい喉が渇いていたらしく、買った五百ミリリットルのお茶が、一瞬で俺の身体の中へと消えていく。
「…………」
桐野は、どこに行ったのだろうか。
冷静に考えてみる。
もう夜だ。闇雲に走り回るのは、得策とは言えない。
「……でも、な」
幼馴染みの宮原が思いつかないのに、最近知り合った俺に、桐野が行きそうな場所なんて思い浮かぶわけが――
「……っ!!」
ちょっと待て。
桐野が行きそうな場所。
それは、もしかして桐野の好きな場所ってことになるんじゃないか?
「…………」
よく思い出せ。
確か、前に桐野が『好きな場所』を言っていたはずだ。
「……っ!!」
一つ、心当たりがあった。
桐野の、行きそうな場所。
「……っし!」
立ち上がり、俺は公園を出て坂道を勢いよく駆け上る。
目的地は、俺と桐野が出会った場所。
そう、屋上だ。
☆
「よっこらせっと」
と、精一杯努力しながら校門をよじ登り、校舎内に入れるところを探す。
「……わお」
なんということでしょう。
普通に正面玄関が開いてました。
この学校のセキュリティは大丈夫なのか?
ちょっと、いや、かなり心配になってくる。
まあ、今はそれがありがたいんだが。
そこから、薄暗い校内に入る。ちゃんと上履きに履き替えるのも忘れない。
躓かないように手すりを持ちながらゆっくり階段を上る。
最上階にある鉄製の扉の前までたどり着くと、俺はそこで、深く深呼吸をした。
「……ふぅ」
ここに桐野がいるか、わからない。
でも、俺には確信があった。
桐野はここにいるという、確信が。
「…………」
ドアノブに手を置き、静かに扉を開ける。
月明かりに照らされた屋上。
フェンスに寄りかかりながら、つややかな長い髪を風に靡かせる、一人の少女の姿。
「……桐野」
「……君なら、ここに来ると思っていたよ」
妖艶さを感じるような笑みを浮かべて、俺のことを見る桐野。
「……こっちを向いてたってことは、俺が来るって分かってたのか?」
「ああ。君が必死に校門をよじ登っているところが見えたからね」
「……っ。うるせえ」
なんだか恥ずかしい気分になり、顔を背ける。
「……んで? なんで家出なんてしたんだよ」
「……ちょっと、ね」
「……この前、不思議探索の時に呟いてたことが関係あるのか?」
「この前? ……っ!?」
ぴくりと桐野の身体が動いた。
『私は、その仲間の中に入っているのかな……』
寂しそうな表情て、そう呟いた桐野。
「聞いていたのか……」
「ああ。たまたま、な」
「そう。……うん。関係ないこともないよ」
「はぁ……。言っとくけどな、お前もその仲間の中に入ってるからな」
「…………」
俯く桐野。
しばらくの間、辺りが静寂に包まれる。
そして、桐野はゆっくりと口を開いた。
「仲間、友達……そんなもの、私にはできるわけがないんだ。五年前、私は散々そのことを思い知った」
桐野が言う、五年前。
多分、宮原から聞いた、クラスメイトからのいじめがあった時のことだろう。
「……そのことは、宮原から聞いた」
言うべきか悩んだが、俺は結局言うことにした。
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