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俺と彼女の退屈な日常

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第23話

「宮原から? ふふ、そうか、アイツは、また私をっ!」

「違う! あいつは言ってた。桐野を助けてくれって!」

「君に……君たちに何がわかるっ! 友人だと思っていた人間から、ある日突然無視される者の気持ちがっ! 学校から孤立していく者の気持ちがっ! わかってたまるかっ!」

「……っ! ……桐野……」

 いつもの桐野からは想像できない大声に驚いてしまう。

 桐野の顔は、いつもの冷静なものでは、ない。いつもの桐野からは想像できない表情。
 感情をむき出しにした、怒りと悲しみ――それらを感じるものだった。
 その瞳からは、ゆっくりと、大きな雫が零れ落ちる。
「みんな、私に無関心になっていった。クラスメイトも、親も……親友だと思っていた人間にさえも! 全員がだ!」
 桐野が、本心を語っていく。
 その言葉を聞き逃さないように、俺は意識を桐野へと向けた。
 ゴクリとツバを飲み込む。

「それからの日々は、辛いものだった。学校に行けば、私は存在しないことになっている。家に帰れば、両親は仕事が忙しいせいで、一人ぼっちだった!」
「…………」

「だから私は、世界に絶望した! だから私は、世界が退屈だった!」

 空を仰ぐようにして、声を張る桐野。
 その声は青空の下、響き渡る。

「……だから私は、非日常を求めたんだっ!」

「…………」

 どこかで聞いたことのある、思い。
 ああ、そうか。
 それは、昔の俺が思っていたことだ。
 昔の俺と、桐野は…………おんなじなんだ。

「……わかるさ、お前の思い。俺にはわかる」
 やっぱり、俺と桐野は似ていた。
 世界に絶望し、非日常を求めたところなんか、そっくりだ。
「俺も、お前と同じさ。孤独だった」
 両親の死。
 小学三年生だった俺に突きつけられた、突然の出来事。
 その結果、俺は家に閉じこもっていた。
 周囲の人を遠ざけるように。
 現実から逃避するかのように。
 世界から、目を背けるように。
 
「そうだとは思ったよ。この屋上から、君を初めて見た時から。だからこそ、私はあんなくだらない問いかけをしたんだろうね……」
 くっくっく、と苦笑する桐野。
「…………」
 そんな桐野を見て、俺と本当にそっくりだと思った。
 だからこそ、俺は決めた。
 以前宮原から頼まれた願いを、『桐野を救ってくれ』という願いを叶えるために、努力することを。
 どこまでできるかわからない。
 失敗して、さらに桐野を傷つけるかもしれない。
 でも俺は、桐野の笑顔が見たいから。
 だから、俺は――
「……なあ」
 いじめと、両親の死。
 原因は違う。
 だけど、辿ってきた道程は同じ。
 なら、きっと――
「桐野」
「……なんだい?」
「お前に、世界を見せてやるよ!」
 ――きっと、救われる方法も、同じはずだ。
「……世界を、見せる?」
「ああ。そうだ」
「……意味がわからないよ、真白」
「なあに、簡単なことだ」
 そう簡単なことなのだ。
 世界が、つまらない。
 そう思うのは、自分の殻に閉じこもっているからで。
 世界は、こんなにも楽しいものなのだ。
「俺が、お前の閉じこもってる殻をぶっ壊して、この広い世界を見せてやる!」
 過去に、俺がある人物から聞いた台詞。
 いざ言ってみると、かなり恥ずかしい。
「…………」
 桐野は、何も言わない。
 俺は、言葉を続ける。
「そうだな……まずは、もう一度ゲーセンに行こう。今度は、宮原や仙堂院に村上も一緒にだ。多分、面白いことになるだろうよ」
「…………」
「その後は、お前と宮原の仲直りだな。なあに、誤解が解ければ、すぐに親友に戻れるさ。俺が保障する」
「…………」
「その後は夏休みか。その頃には部活申請書もOKもらってる頃だろうし、部費使って旅行にでも行くか! そうだな、副会長さんと、名前は出てるけどまだ会ったことのない会長さんも誘おうか」
「…………」
「まあ、何が言いたいかっていうとだ」
 頬はぽりぽりと掻く。
 多分、俺の顔は真っ赤に染まっていることだろう。
 辺りが暗くてよかった。

「俺と、友達になってくれないか?」

 桐野の目の前まで近づき、手を差し出す。
 握手を求める仕草。
 よく、宮原がやっていたものだ。
「…………」
 俯いたまま、黙っている桐野。
 これで『ごめんなさい』とか言われた時は、俺はもうここから飛び降りよう。
 恥ずかしすぎる。
 そんな俺の懸念をよそに、桐野は顔を上げ、りんごのように顔を真っ赤に(至近距離だからわかった)しながら、

「きみは本当に、バカだな」
「なんだよ、バカって」
「……ふふ。よくもまぁ、そんな恥ずかしいセリフをつらつらと吐けるものだ」
「……うっせ。それで? どうする?」
「……そう、だな」

 桐野はゆっくりと、一歩俺に近づく。
 そして、

「……よろしく……お願いします……」

 そう言って、桐野の右手が、俺の右手を握った。
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