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ずっとずっと

原作: その他 (原作:ハイキュー) 作者: ノムさん
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プロローグ

いつ頃からだっただろうか、及川の様子がおかしくなった。
元々バレーに夢中だったのは俺も、国見も金田一も承知のことだ。だが、恐らく、そう恐らくではあるが、影山飛雄という後輩が入部してきた頃からだろう、あいつの様子がおかしくなったのは。だろうとは言いつつも、これはほとんど確信に近い予想だ。
「バレーの神様に愛されたようなやつだ」と何も知らない人間が囁くたびに、及川はどんどん変わっていった。及川は愛されていたのではなく一方通行の恋で、実際は影山のような人間がギフトを持った人間なのだーーーそう及川が理解した。そして、一番近くで及川を見ていた俺も、それは漠然と理解ができた。そう、「天才だと思われていた」及川は決して「天才」ではなかったのだ。これは常人である俺には測り知ることもできないようなことだが、それでもあいつが何を恐れ、なぜ焦っているのかは理解することができた。他の奴らが「なんか最近の及川さん怖いよな」と思って距離を置いている間も、俺はずっとずっと隣にいて、最高の相棒でい続けた。そうしないと壊れてしまう気がしたし、こんな及川を支えられるのは俺しかいないと思った。

それに、あの日に二人が出逢った時からの及川はまるで坂を転げ落ちているかのようで、正直なところ見ていられなかったんだ。及川はまず、人に当たるのではなく自分を痛めつけ出した。傷のようなものではなく、長期的に蝕む方向へと。

「おい、及川」
「あぁ、岩ちゃん。どうしたの?」
「今日の練習はここで終わりだ」
「・・・あと10分で切り上げるよ。先に帰ってて」
「そう言って切り上げたことないだろうが」
「ちゃんと切り上げるから」

いつもこうだ。あれから及川は何かに追われるように(影山にか、バレーにか)オーバーワークを積み重ねっていってる。朝と夕方からの部活の他に、昼や夜に。昼に部活が終わる日でも、及川は夜まで練習した。あいつの体は、これから先の栄華を前借りする形でそのオーバーワークについて行った。

「おい。オーバーワークだ。いつも言ってるだろ。もう今日は終わりだ」
「これくらいで何言ってんのさ〜!」

大丈夫大丈夫、それよりトスあげるからさ、打ってよ!と言って及川は引きつった笑みを浮かべた。引きつったように見えるのは俺だからだろうが。何で俺にすら、そうやって。
なんかムカついて、手近にあったボールを拾い後頭部に向かって投げる。これもいつものことだった。

「いたい!暴力男め!それだからモテないんだよ!?」
「うるせぇ、帰るぞ」

明日の朝練のため、と言いながらコートをそのままにして、とりあえず及川を体育館から引きずりだすまでがいつもの日課だった。明日の練習が休みの時は、後輩に片付けを頼んだこともある。情けなくはあったが、及川が正常に生きることが俺の最大優先事項だった。そして、それはある程度うまく行っているようにも思えた。

それなのに、それなのにーーー

ーーーくるな、くるな、こっちにーーーくるな!

いつものように及川がオーバーワークをしている時、渦中の影山が体育館に姿を現した。
そしてあろうことか、様子のおかしい及川に、「サーブを教えてくれ」と言い出したのだ。
それくらいはいつものことだ。及川のサーブは県内でも有名で、そのサーブを教えてもらいたいがためにここ北一に入学したという新入生もいたほどだ。だが、相手が影山で、そしてタイミングが悪かった。こいつを追い詰めていたもう一つの影である牛島と接触し、拍車をかけて追い詰められていたのだ。二人の天才に前からも後ろからも追い詰められ、及川は爆発した。それは当然のことのようにも思えた。ここ最近の時限爆弾のようなものだったからだ。
及川は近づいてきた影山を殴りかけてーーーーそこをたまたま見ていた俺が止めた。
怒鳴りつけてその場を止めた。

止まってくれてよかった。お前が目指す場所はこんなところじゃないから。こんな、牛島と影山に追い詰められて終わるような場所じゃないだろう。
影山が殴られなかったことよりも、及川が殴らなかったことの方にほっとしている俺も、大概こいつの才能に魅せられているようだ。

その日の帰り道に及川と話した。一度は冷静になった俺も、及川につられるように涙が出た。お男二人が道端で泣いている光景は何度も通行人をギョッとさせたが、それで冷静になれる俺らではなかった。

「及川、あれはねーべや」
「・・・うん。けど、」
「少なくとも。少なくとも俺は、お前が恐れている物の正体がわかる。だから」

だからーーー支えさせてくれよ。
頼むよ。俺らは相棒だろうが。ずっとそうやってプレイしてきたんだろうが。
なあ、頼むから。

この気持ちが相棒から来ているものだとこの頃の俺は信じていた。
普通の幼なじみや相棒が持つ気持ちと異なるものだなんて思いもせず、純粋に「一生こいつを支えていきたい」と思っていた。そしてそんなプロポーズみたいなものを恥ずかしげもなく本人に伝えてしまったのだった。
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