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原作: その他 (原作:キングオブプリズム) 作者: iou
目次

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「またな。」


アイツの顔が浮かんだ。
まただ。
また、胸が熱くなる。





なんだ、この気持ちは。



プロテインを飲んで、器具を軋ませる。
いつもの鍛錬と変わらない日々を今日も過ごしている。

俺の肉体も心も何にも揺さぶられないはずだ。


なのに、どうして。


アレクは頭にちらつく白髪の顔を思い出していた。
仁科カヅキ。


プリズムバトルで負けたのは初めてだった。
そして、こんなにも気持ちが熱くなったのも。





戦いに負けた悔しさ、憎い相手のはずなのに
この鼓動の高鳴りは何を意図しているのか。

アレクの心はまだ幼く、
いくら汗を流してもその疑問には追いつくことはできなかった。


どうしてだ。会いに行かなくてはいけない気がする。

「仁科カヅキ」

何故だ。


憎い相手のはずなのに、
何故、こんなにもあって確かめたいと思うのか。



アレクはかかっていたシャツを手にし羽織ると
重い鉄の扉を開けた。


そうだ、行かなければならない。



俺は、行ってアイツを懲らしめてやらなくてはいけないのだ。

あの、チャラチャラとした、
憎き仁科カヅキを。



___________________________







いつもの高架線に行くと、
人の声が聞こえた。



なんだ?こんな朝早くに、プリズムバトルでもしているのか?


アレクは自分でもなぜかわからないが、こみ上げる淡い期待を抑えながら、
高架線の下へ足早へと降りた。




アイツがいたら、どうしてやろう。

そうだ、もうすぐクリスマスだ。



高架線の下で声のする方へと目を向けると、
そこには案の定、仁科カヅキがいた。

思わず、見つけた姿に声をあげそうになったが、
入れそうにない雰囲気に口をつぐんだ。


楽しげに話している。


学ランを来た少年と仁科カヅキだ。





胸がざわつく。
問題ない筈だ。何も、俺には関係ない。

けど、俺だけじゃなかった。
そうだ、アイツには





俺はつくづくついていない。


ハッとアレクはした。

何故、そんなことを思うのか。
ついていない?

何故だ?

ちょうどいいではないか、
まとめて地獄を見せてやる。


アレクは人影まで走った。
さっきとは別の熱い感情を胸に抱いて。



________________________


「仁科カヅキ」



「よう。アレクじゃねぇか」


掛けられて声に一瞬胸がざわついた。
細い腰に褐色の肌。





「おまえ・・」と、隣には白い肌の香賀美タイガが睨んでいる。



虎のして子のような小さなタイガに、アレクはニヤリと笑って見せた。

「二人まとめて相手してやる。」


勝負しろ!と叫ぶと、タイガは上等だ!とまくし立てる。
一気に場が殺気立つ

が、

「何言ってんだ?今日はこの辺のハンバーガー屋に行こうと思ってんだよ。
お前も一緒にどうだ?」


ピリピリとした緊張感のある男同士の戦いの空気をぶち破るかのように
あっけらかんとした口調で俺に笑顔を向ける仁科カヅキ。
「今日楽しみにしてたんだよ」
ケラケラと笑う顔はまるで太陽のようだ。

何も知らずに。

「行くわけないだろう。」

「え?行かないのか?」

カヅキは目をまん丸くし、アレクをじっと見た。
思わずアレクの顔が赤くなりそうだったが、
タイガもカヅキに突っ込むように言葉を放つ

「カヅキさん、なんでコイツまで呼ぶんすか」

「飯は大勢のほうが楽しいからだろ?な、アレク」


アレクは自分の顔が赤くなるのを感じた。

「い、行くわけがないだろう!」

「え?行かないのか?」

気付けばカヅキはアレクに距離を詰める。

「い、行かない!」

焦ってカヅキから目をそらすと
寂しそうな顔でカヅキは口を開いた

「そっかぁそれはざんね」

「プリズムバトルをしないならお前に様はない!じゃぁな」



カヅキの言葉をさえぎっては、
その寂しそうな表情を可愛い都さえ思ってしまう。
自分の頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。
そんなはずは、ない。

アレクはこれ以上感化されないように、踵を翻して高架線を後にする。
走るが、仁科カヅキの視線を背中に感じる。



な、なんだ、この気持ち。

気持ち悪い。


走っている以上に動悸が早くなる。
恥ずかしい。
なんだ、なんなんだ、この気持ち。



遠く離れて後ろを振り返ると、そこにはすでに人影はなかった。

俺は、友達が欲しくて寂しくてあいつに会いに来たわけではない。
戦いに来たのだ、あくまで。
でも、なんだ、それとはまた違う感情を感じる。

なんなんだ、これは、
この気持ちは。


_____________________________















時は過ぎて、冬になった。
もうすぐクリスマスだ。


この季節は家に帰るかしていたが、
今年は一人で忍耐しようと思った。


アレクは、母親へのプレゼントを買いに街へ出かけることにした。

アクセサリーショップには、ギラギラとした商品が並び
街には、ネオンが広がっていた。

冬だ、やはり寒い。
カップルがすれ違って幸せそうに微笑みあっている。

俺には、縁遠いものだな・・・。
アレクが心の中でつぶやくと、
目の前に異様な光景が見えた。

見覚えのある、顔だ。




仁科、カヅキ。






手をつないで、人ごみの中に消えていく姿。


咄嗟に追いかけようとするが、
足が歩道に張り付いて離れない。


口を開けるが声が出ない。

見てはいけないものを見てしまった。

笑って居た。確かに、
優しく微笑みかけていた
街中のカップルのように。






心臓が冷やつく感覚を覚えた。





見てしまった。






見たくなかった。










寒い筈なのに、
ひやりと冷たい汗が出る。

俺の今の姿は隠せているだろうか。

向こうには気づかれていないだろうか。







追いかけるか?




追いかける?

なぜ?










俺が追いかける義理はない。















アレクは、人ごみをぬって、
元来た道を真っすぐに俯いて歩いた。
冷たい心臓を持ったまま。



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