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イナズマイレブンX -Another episode-

原作: その他 (原作:イナズマイレブン) 作者: ゆりっぺ
目次

伝染する闘志

背後から少林や宍戸が迫っているのを察した努は、ファーサイドの長男・勝にボールを預けた。

「チッ、熱血キャプテン君の檄が効いたか。みたいなァ?」

勝も雷門守備陣の見違えるような動きに舌を巻いた。
ボールがタッチラインを割って、スローインで試合が再開されるまで、30秒かかっていない。その短時間で態勢を立て直すとは。「どんなカリスマだよ」と愚痴りながら、突っ込んでくる栗松とマッチアップする。
急に動きが良くなると思っていなかった為、栗松を交わす余裕が無く。気が付けばコーナーに追い遣られていた。
背後にはコーナーフラッグがあるのみで、退路は断たれている。正面の栗松を抜き去る以外に突破口はない。此処で勝、一計を案じる。

「(癪だが、コーナーキックに逃げるか…)」

栗松の足に当ててボールアウト、そこからのコーナーキック。ショートコーナーでボールを確実に繋ぎ、間隙を突いて4トップの誰かがシュートに持ち込む。
サングラスの奥で、勝の目つきが鋭くなる。だが彼が足を振り上げようとした瞬間、栗松の果敢なスタンディングタックルが襲った。

「甘ぇぜ一年坊主!みたいなぁ!」

突然の栗松のタックルや、自身の目論見が外れたことに然程動揺せず、勝が彼の頭上越しにボールを放る。
流石全国区のプレイヤーだけあって、シュートだけでなく、アクシデントに対する処理も早い。
勝が放ったロブパスは屋形が拾う。少林や宍戸を振り切り、雷門MFとDFの中間に構え、絶好の位置取りでボールを貰った。

「ゴールに一番近いのは、友さんか。」

重そうな瞼の奥で、屋形の瞳が4人のFWを捉える。
先程自分へパスを出した勝は、既に栗松を振り切っている。此処から勝に折り返し、シュートに転じても良いが、勝の正面には円堂が立ちはだかっている。
ゴールのすぐ前にいる、友にパスを出すのが得策か。
しかし、友の隣には壁山がいて、簡単にはシュートを撃てそうにない。今一番ボールを失う可能性が低いのは…

「まあ、無理に最短距離を狙わなくても、『急がば回れ』って諺もあるもんな。」

屋形、敢えてゴールから最も遠い位置にいる豪炎寺にパスを出す。彼は度重なる壁山のブロックを避ける為、エリア外へと下がっていた。
高めのボール。豪炎寺が『ファイアトルネード』や『爆熱スクリュー』を撃ち易いように、敢えて空中にパスを放つ。
豪炎寺のシュートの特徴を理解した、絶好のパスだ。味方の能力を活かすパスセンス。屋形 直人。一年生ながら木戸川のレジスタに抜擢された実力は、伊達では無い。

「ナイスパスだ、直人…!」

司令塔の意図を察し、左足に炎を纏って飛び上がる。彼を守るように、炎の渦が体に纏わりついていく。これは『爆熱スクリュー』の態勢。
腕を振り被って勢いをつけ、炎を振り払いながらシュートに入ろうとする。
が、彼以外にこのボールに反応した選手が、雷門にもいた。

「おりゃあああっ!!」

東だ。彼は少し離れた位置にいながらも、屋形からパスが出るや否や、誰より早くボールに向かって走り、飛び上がっていた。

「東!?」

クールな豪炎寺も、これには頓狂な声を上げた。

「豪炎寺、サッカーの実力も経験も、お前の方が断然上だ。でもな…身長は俺の方があるんだよッ!!」

がむしゃらで、出鱈目で、華麗さとはおよそ無縁なディフェンス。だが、気合の籠ったジャンプは豪炎寺より先にボールに届き、決死の表情のヘディングは、ボールを遥か前方へと弾き飛ばした。

「良いぞ東!その調子でガンガン行け!!」

着地した東の背中に、円堂の賞賛の声が被さる。振り返った東は、無言で幼馴染にサムズアップした。

「(すげえよ、円堂。さっきまで体が硬くて、思うように動かなかったのにさ。お前に励まされると、俺でも何だか戦えそうな気がしてくるんだよ。)」

今日の対戦相手は、あの豪炎寺のいる強豪チーム。
戦う前から緊張して、体が強張って、手足の感覚がないくらいだった。血液まで縮こまって、全身を巡ることを拒否してしまったかのようだった。
でも今は違う。円堂の決死のセービングと、仲間への激励を受け、何故か体が軽くなったのだ。
女子にモテたいから、サッカーを始めた。円堂に励まされたから、勇気が湧いた。東自身も、単純だな、と自嘲する。だがその単純さが、今は凄く有り難い。
少なくともこれで、緊張という鎖から解放された。雷門ゴールを守るセンターバックとして、戦う決意が固まった…


「ヒュー!東の奴、中々やるじゃないか。」

壁山に続き、新入りの東までもがファインプレーを見せた。土門が口笛を吹く。
土門らがレンタル移籍するタイミングで新加入した為、土門はクラスメートとしての東の姿しか知らない。これまでの試合でも、目立った活躍はしていなかった。
方や豪炎寺は、フットボールフロンティアでの全国優勝、イナズマキャラバンでのエイリア学園征伐で、その実力は土門もよく知っている。
土門も全幅の信頼を置いていたストライカーが、止められた。たとえまぐれだとしても、東のプレーを賞賛せざるを得なかった。
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