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イナズマイレブンX -Another episode-

原作: その他 (原作:イナズマイレブン) 作者: ゆりっぺ
目次

円堂のキャプテンシー

「そ、そんな…」

壁山が大きな口を開けて絶句する。驚愕する彼の頭上を、ボールが飛び越えていく。例え焔の勢いが弱まり、事実上相手の必殺技を破ろうとも、ボールがゴールラインを越えてしまっては、相手のオフェンスを止めたことにはならない。
悔しげに太ももを殴りつける壁山の背中に、熱い声が被さる。

「まだだ壁山!まだ諦めちゃ駄目だ!!」

熱血キャプテンが、壁山の背丈よりも飛び上がっている。

「まだ点を奪われた訳じゃない!お前の頑張りは、絶対無駄にしねえぞ!!」

ゴール左斜め上に向かって放物線を描く球体。咄嗟のことで、円堂も必殺技を出す余裕はなかった。しかし、後輩の頑張りをふいにし、先制点を献上してしまっては、チームの志気に関わる。
チームを支える大黒柱として、そんなことは絶対に出来なかった。

「届けええ!!」

左手を目いっぱい広げる。ボールに触れるまで、ほんの数センチ。普段生活しているうちは、全く気にしない長さ。2から3センチだろうか。だが今は、その僅かな距離がもどかしい。
肘が外れそうな勢いで左腕を伸ばす。中指の先が、辛うじてボールに触れる。続けて、中指の第一関節に、球体の重みを感じる。中指に力をこめ、指の腹に乗ったそれを、前に弾き出す。
ポストに体を打ち付けながらも、どうにかボールを掻き出した。

「良いぞ、円堂!」

ベンチから半田が賞賛の声を送る。円堂のフォローで、味方の志気も上がる。
が、窮地はまだ続いている。右サイドからエリア内に斬り込んできた努が、ボールを携えて飛び上がった。
努の『バックトルネード』が、またしても雷門ゴールに放たれた。今試合ファーストシュートを放ち、これまでも虎視眈々とチャンスを窺ってきたプレイヤーだ。三兄弟の中では末っ子ながら、貪欲にゴールを狙う意気込みは兄二人にも劣らない。
態勢を立て直した円堂は、両手に熱いエネルギーを込めると、向かってくるシュートに対して、横からパンチングを見舞った。

「『超・熱血パンチ』ッ!!」

両手で放つ変則的な『熱血パンチ』で、ボールをピッチ外に弾き飛ばす。ボールはタッチラインを割り、ゲームが中断される。


「無難な判断ね。ゲームが止まれば、木戸川の攻撃も断ち切れる。それに僅かだけど、態勢を整える時間も出来るもの」

反撃に転じるのではなく、試合を中断させることを選んだ円堂を、百合香は素直に評価した。
木戸川の組織的な守備からのカウンターで、雷門の守備陣はズタズタにされた。そこに付け入る様に襲い掛かる木戸川自慢の攻撃陣の前には、先制点を奪われるのは時間の問題だった。
それを防ぐ為にも、此処は一旦流れを止めるのが得策なのだ。


「止めたあああ!!キーパー円堂、木戸川4トップの猛攻を、見事にシャットアウト!!雷門の守護神此処に在りだあ!!」

実況の角馬の、マイクを握る手に力が入る。観客達も、好セーブを連発する円堂のプレイに、歓声を上げた。
だが、ピッチ上の雷門イレブンは、一連のプレーを体験したことで、木戸川の恐ろしさに顔を強張らせていた。

「手強いな…木戸川は。」

風丸が冷や汗を拭い、誰ともなしに呟いたが、言葉を返す者は誰もいなかった。栗松は俯き、東は眉間に皺を寄せ、壁山に至っては、今にも泣きそうになっていた。
スローインの為にきびきびとピッチに散らばる木戸川とは対照的に、雷門の守備陣には敗色ムードが漂っていた。

「どうしたどうした!みんな、まだ試合は始まったばかりだぞ!!」

そんな守備陣を奮い立たせるように、円堂がパンパンと両手を叩いて声を張り上げた。

「風丸、普段の冷静さはどうしたんだ!?他のみんなだって、いつものプレーが出来てないぞ。相手が豪炎寺だろうと他のチームだろうと、やることは変わらないだろ。」

風丸をはじめ、他の守備陣の顔をゆっくりと見回し、円堂は明るい顔で声を投げ掛ける。

「焦ったり怖がったりしなくていい。普段通り、落ち着いてプレイしよう。それでも相手を止められなかったら、最後は俺に任せろ。俺が、このゴールを守り抜くからさ!」

「「キャプテン…」」

円堂の頼もしさに感極まったか、一年生コンビは目に涙を浮かべて彼の言葉に聞き入っていた。
風丸も、ホッとしたように目を閉じている。

「あー、試合始めても良いかな?」

ゴール前でやり取りをする円堂達に痺れを切らしたか、ボールを小脇に抱えた茂木が声を張り上げた。
これ以上の時間の浪費は、遅延行為になる。円堂を中心に、守備陣がピッチに散らばった。
木戸川のスローインで試合再開。緩やかに放られたボールは努が胸トラップし、すぐにゴールに向かって向き直るが…

「あれ、こいつら動きが良くなってやがるな…」

努のシュートコース上に、風丸と壁山が。努から見て左斜め前の二男にボールを預けようとするも、彼の眼前にも東が、そして壁山の半身が立ち塞がっていた。
壁山の巨体が、二人分のシュートコースを遮っている。その上、豪炎寺にもがっちりマークに付き、簡単に飛ばせまいとしている。
先程の豪炎寺のシュートに対する反応もそうだが、この巨漢DFのポジショニングは絶妙である。そして彼だけでなく、他のDFも的確にコースを消し、安易にシュートに持ち込ませない。
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