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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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親の責任

 朱はひと呼吸して、頭の中を研ぎ澄ませる。
「あなたのお父様は、あなたがどんな子供であっても愛していた。それは最愛の人が残してくれた唯一の存在だったから。あなたと共に生きることを選ぶために、意に添わない結婚をし子供を作った。それで自分のするべきことが終わったはずだった。危険な子供を部屋に閉じこめ、生まれて間もない赤子を乳母に託し夫妻で外出をする。不自然ではないけれど、閉じこめなくてはならないほどの子がいる限られた空間であれば、不自然であると私は思う。愛のない結婚、子を奪われても縢家に居座り続けたあなたの義母の真意はわからない。だけど、たぶん、後妻があなたをよく思わず、また敵視していることを知りながら、気づかないふりをしていた。いつかあなたが手を下すだろうと思ったから。時間はかかったけれど、邪魔な後妻が亡くなり、あなたとの生活を手に入れることができた。もしかしたら、あなたの本当のお母さんを迎えにいくつもりだったのかもしれない。けれど、想定外なことが起きた。あなたの中の闇の部分が完全に開花してしまったこと。お父様は考えた。どうにかしてあなたとの生活を続けることができないだろうか。大事なのは器である肉体か、それとも精神・心・思考など目に見えないものなのか。行き着いたこたえが、縢家の血を引き継いだ別の肉体、クローンへの脳の移植だった。あなたがつくった子供ということで、幼児の肉体にあなたの脳を移植、姿は変わってもたぶん、あなたの面影は残っていたのでしょう。仕草、口調など。あなたは若返り、別の体を手に入れ、人生をリセットした。けれど、お父様はどうだったでしょう。人間の寿命には限界があります。あなたの住んでいた世界での寿命は年々延び、今では平均は百二十年ほどらしいですね。すでに神が定めた年齢を越え始める人も出てきていると聞きました。その昔、神は人の寿命を百二十年と定めたそうです。医学の発展、健康志向の高まりなどが原因とされていますが、そもそも、こちらの東金財団の持つ医学知識がなければ、人の寿命は百歳前後であったとの意見も。別世界の介入は時として悪魔を作り出してしまうのかもしれません。自分が百二十歳まで生きていられたとして、それは健康でいられるだろうかなど、気になりだしたらきりがありません。あなたのお父様も若返りを希望された。けれど、クローンを造るにはもうひとりの自分が必要になる。なぜ自分の体からクローンを造らないのか、それにはいろいろ推測もできますが、おそらく、いつかは自分の体に戻るつもりでいたのかもしれません。だから、あなたの本当の体もどこかに保管されていますよね?」
「……どうかな」
「知らないという顔ではありませんね。今は語る気がないという顔です。では私の話を続けます。あなたのお父様は別の世界の自分がどんな生活をしているのかを調べたと思います。実際、この世界でのあなたのお父様は存在していません。つまり、これから生まれるのかもしれませんし、シビュラ導入の際、なにかがありいなくなったのかもしれません。他国に出てしまえば捜すのは困難ですから……。また見つけられたとしても厄介な立場であったりしたのでしょう。同一であるが別人、別世界の自分の捕獲は厳しいと悟ったお父様は、別の体に入り時期を待つことを選びました。ちょうど、こちらの世界の東金財団では非公式でありますが、他人の脳をあわせた手術が成功したという記録があります。そのためにあなたとともにこちらの世界にきた。あなたはここ最近、突然この世界に飛ばされたのではなく、少なくとも数ヶ月前、まだ他人の体に入り込む前のお父様とやってきた。あえて街頭スキャンにひっかかり公安を呼んだのは、注目を自分に向けるためと、あなた方親子が元の世界に戻ったあとのことのための布石のためです。あなた方は捜していたんです。命令に忠実で頭がキレ、肉体的にも精神的にも屈強な戦士。できれば、自分の世界にいる誰かと入れ替えることが可能な存在。そこで薦められたのが、狡噛慎也です。ですが、狡噛さんは逃亡中で居場所がわかりません。私たちをその捜索に当たらせる理由づけのために、別世界の人間であると告白する必要があり、またひとりでは信憑性がないので征陸さんを無理矢理飛ばした。狡噛さんに至っても同じ。入れ替えをするのなら下準備は大事ですから。けれど、その情報が漏れ、チェ・グソンが狡噛さんより前に潜入していたのは想定外。さらに、私たちが結束していくのも、ある程度は想定内だけど行き過ぎも困る。だから私を拉致して事件を拡大した」
「へえ、おもしろいね。じゃあさ、なんで父さんは東金朔夜の体を選んだのかな?」
「そうですね。いろいろと考えられるのですが……それぞれの思惑があり、相手を出し抜いてやろう……と、お互いに画策したからではないでしょうか?」
「どういうこと?」
「縢家にとって、いつかは東金財団が邪魔になる。そして東金財団としては、シビュラの支配下で思うように動けなくなることを懸念、あなたたちの住む世界への完全移住を計画しはじめた。だけど、いつまでも縢家のいいなりというのもしゃくに触る。乗っ取ってやろう……とか?」
「ふ~ん、ありえなくもないね。東金朔夜を再び造った本当の目的ってさ……」
「兵器、ですよね?」
「正解」
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