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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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偽りの敗北 その五

「それで、そのチェ・グソンは?」
「発信器はちゃんと動いているわ」
 朱はパソコンを開き、チェ・グソンの動きを確認する。
「でも……」
 と見取り図を立体に切り替えて見ると、不思議な動きをしていた。
「平面で見ると間違いなく動いているけど、立体で見ると不思議な動きをしている。ここ、壁で仕切られているのに、通り抜けている。ほら、また……」
「確かに不思議な動きですね。遮断されるのでそう見えるのでは?」
「それだったら画面からわずかでも消えるのでは?」
「言われてみれば……」
「隠し扉……」
「考えられます。我々の世界ではホロでめくらましをしますが、こちらの世界では建物そのものに施す傾向があるようです」
「隠し扉だと仕掛けがありそうね。早く追いつかないと私たちだけでは解けないかもしれない!」
「急ぎましょう!」

※※※

 朱たちがチェ・グソンのあとを追いかけていた頃、チェ・グソンはいくつもの隠し扉を通って見取り図にはない場所に連れられていた。
 細かく覚えていたわけではないが、だいたい怪しい部屋を造るといえば地下が相場だろう。
 彼は地下の見取り図だけはほぼ確実に記憶に刻み込んでいた。
 隠し扉じたい、なにかトリックがあるわけでもなく通ることができていた。
 扉の場所さえわかれば、朱たちでもなんとか切り抜けて来られるだろう。
 だとすれば、あとは時間稼ぎをすればいい。
 槙島と狡噛の無事を確認さえすれば……

 そして、いよいよふたりと対面することになる。

 その空間にいたのは槙島と狡噛だけだった。
 ふたりは十字架に張り付けされるように拘束されている。
 それはまるで、自分たちこそが神であると美沙子が主張しているようであった。
 張り付けにされたといえば、ナザレのイエスを思い出す者がもっとも多いだろう。
 張り付けにされたイエスは死に、そして三日目に復活している。
 その後、神の右の座につくわけだが……
「悪趣味ですね」
 美沙子の機嫌をとり時間稼ぎをするつもりが、あまりの悪趣味さに思わず本音がこぼれる。
「まるであなたが神で、あのふたりが屈してくれれば自分の側で飼い慣らしてしまおうとでも考えているのですか?」
「あら、おもしろい解釈ね。そこまで深読みされるとは思わなかったわ。ただ、両手を縛るだけでは安心できなかっただけのことよ」
 拘束の仕方では簡単に解かれてしまう、それは確かにあるだろう。
 もっともらしいことを言っているが、美沙子はそういう面で慎重になる女ではない。
「ふたりを返してほしいと言ったら?」
「では、ふたりを説得なさい」
「槙島さんはわかりますが、狡噛さんの方はわかりませんね。彼、こっちの狡噛さんではないですよね?」
「あら、わかるの?」
「もちろんです。似ていて……いえ、同一であっても別人です。私と彼は顔見知り程度の浅い関係ではありませんから」
「そう……じゃあ、あの狡噛がどうなろうと関係ないでしょう? 槙島を説得なさい。交渉はそれからよ」
 チェ・グソンは後ろ手に縛られ、そのままゴミを放るような感じに部屋の中心部へと追いやられる。
 寝転がってしまった体を起こすと同時に、扉が閉じられる音がした。

「やあ、チェ・グソン。キミならきっと僕の居場所を突き止めてくれると信じていたけれど、これはどういうことかな?」
 つまり、なんで捕まるようなヘマをしたのかと槙島は言っているのだ。
「いやですね、槙島さん。私がなにも策を講じずに乗り込むとでも?」
 といいながら、辺りを見回す。
「盗聴なら大丈夫ですよ。すでに僕たちが話していてもそれを咎めるようなことはされていません」
「そうですか……おふたりとも、無事でなによりです」
 狡噛の方は、無事であるものかという顔で、チェ・グソンをみた。
 狡噛にしてみればとても不思議な感覚だった。
 時間が戻ったような、いや、そうではなく、別次元の可能性を追体験しているような。
「ええと、シビュラ世界の狡噛さん。いろいろあるでしょうが、ここは黙って我々に従っていただけないでしょうかね」
 それに対し、狡噛は小さく頷くだけだった。
「ありがとうございます。ええと、最悪の場合、警察が乗り込んでくることになっていますので、その最悪な事態だけは避けたいのです」
「警察? キミにしては珍しいね。警察に持ちかけたのかい?」
「いろいろとありましてね。とりあえず、ここを出ましたらご報告したいことが多々あります。そして、ふたりほど保護していただきたいのです」
「もしかして、同行しているのかな、あちらの世界の……キミが連れてくるとなると誰かな。執行官あたり……」
「ああ、まあ、それは追々わかることですので。それで、そちらはどう考えています? 逃走もですが、東金の動きなど」
「ああ、至って簡単なことだったよ。そして愚かとしか言いようがないね。僕はまあ、クローンに賛同しろというものだったけれどね、この狡噛をこちらに連れてきたのは、この狡噛のクローンをつくるためらしいよ。こっちの狡噛はあっちの世界でのたれ死にしてしまえみたいな感じで、人の命をなんだと思っているのか」
「狡噛のクローンですか。こちらの狡噛でダメな理由は?」
「同一であっても別人。置かれた環境下で違ってくる。この狡噛は幾多の試練をくぐり抜け狂犬そのもの。そういう狡噛を所望のようだよ。まったくもって汚らわしい行為だよ」
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