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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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偽りの敗北 その四

「つまり、協力者があちらにいると?」
 チェ・グソンの話を聞き、朱が聞き返す。
「かなりの確率で。そうでなければ説明できないことが多すぎます」
「しかしだな……」と征陸。
「協力者っていうのは、どちらだろうな」
「問題はそこです。協力者との連絡方法も不明確です。どちらかが行き来しなくては成り立たないのが現状なのですが、もっと進んだ方法が確率されているとなれば、それはそれで問題です。東金にそこまでのなにかがあるとは思えません」
「どちらにしろ、東金美沙子は我々がここにいるとは思っていないわけだな」
「はい。自信をもって言えます」
「ならいい。じゃあ、はじめるとするか」
 征陸のそのひと言で、それぞれに緊張が走った。
 緊張感はほどよく、研ぎ澄まされた感覚がよい刺激になってきている。
「行けます」
 朱はほどよい緊張感から頭がはっきりとして冷静にものごとを見極められる自信がつく。
「監視官、自分も行けます」
 須郷もほどよい緊張感から邪念が消え去り、視野や思考が広がっていく感覚になった。
「よし、じゃあチェ・グソンがいいタイミングで動こうか。三人が動いたのち、俺も動く」
 征陸はこの作戦の始動タイミングを、囮となるチェ・グソンに預けた。

 チェ・グソンが動いたのは、そのすぐあとだった。
 朱たちは、チェ・グソンが飲み込んだ小型発信器の動きを持ち出していたパソコンで追跡する。
 チェ・グソンによって見取り図を取り込みされたデータに発信器が点滅、確実に中に入ったのを確認したのち、朱と須郷が動いた。
「嬢ちゃんたち、無理はするなよ」
 征陸はその言葉でふたりを見送り、所属している警察の部署に無事に戻っていること、大まかな事件の全容などを説明、協力を要請した。

※※※

 チェ・グソンは見た目を偽ることなく、東金財団のビル入り口にたち、監視カメラにすべてを晒した。
 すぐに警備の者が押し寄せ、東金美沙子が姿を現す。
「チェ・グソン。あなた、どこに雲隠れしていたの?」
 征陸たちより前に別世界に入り込んでいたとは思っていないらしいが、ここ最近姿が見えない程度には感じていたのだろう。
 とくに調べもしなかったのは、美沙子の目的にチェ・グソンの重要性が限りなく薄かったからに相違ない。
「雲隠れとはあんまりな言い方ですね。私は槙島さんの右腕、そもそも表だって活動するのはしょうに合わない質でしてね。いつも裏方に徹していたと思っていますが?」
「それはそうね。それで、裏方に徹していたあなたがこうしてここに来たのはなぜ?」
「もちろん、槙島さんを返して頂くためですよ。いるのですよね、ここに。ああ、嘘はつかないでくださいね。私は知っていますから。別世界の狡噛さんもここにいるということを」
 槙島だけの時と違い、狡噛の名を出したとたん、顔色が変わる。
「それをどこで? と聞きたい顔ですね。お答えしますよ。非常階段の監視カメラです。あなたは映らないように立っていたようですが、槙島さんの瞳にはしっかりとあなたが映っていました」
「……そう。さすがといっておきましょうか。でも、あそこの者たちは全員……」
「ええ。戻ったらもぬけのからでしたからね、驚きました。ほかの面々はどうしたんですか?」
「監視カメラをみたのではないのか?」
「いろいろ手を加えて頂いたようで。なのになぜ非常階段の映像には細工をしなかったのでしょう? いえ、違いますね。そんなミスをするはずがない。槙島さんが通るであろう隠し通路、いわゆるあなた方も使った非常階段の監視カメラの映像は細工されても一定時間経過すると復旧するプログラムを埋め込んでおいたのですよ。ちなみに、次回はそれを見越してと考えても無駄ですよ。念には念を……いろいろとトラップも仕込んでありますので」
 次第に鬼の形相になっていく美沙子。
 しかし、揺るがない。
「なんとでも言っていればいい。おまえがここに来た時点で、おまえの敗北は決まっているのだ。槙島聖護に合わせよう」
「是非、そうしてください」
「強がりは損だと思わない?」
「どうでしょう。ただひとつ、私がなにも策を講じずにのこのこやってきたと思っているのでしたら、浅はかだと言って差し上げたいですね」
「負け惜しみか……」
「どう思おうと勝手です」
 こうして予定通りチェ・グソンは東金美沙子の手に落ちる。
 気づかれずに槙島たちと合流できれば第二関門突破になる。

 そして朱たちは……

※※※

「監視官……」
 須郷に呼ばれ、朱が立ち止まる。
「須郷さん。せめて常守と呼んでください」
「……っう、すみません。あらためて、常守さん」
「はい?」
「どういう設定で乗り込むつもりですか?」
「この偽通行証はゲスト用だと言っていました。部外者が入っても疑われない設定がいいかもしれませんね。たとえば、学生」
「が、学生ですか?」
「今のあなたは学生だといえば学生に見えるわよ。大きな組織は常に募集していることがあるとチェ・グソンが言っていました。それに賭けましょう。館内をさまよっても迷ったと言えば何回かはごまかせると思うし」
 となり、ふたりは学生として乗り込むことにした。
 入り口には警備員が数名立ち、また通行証を通す機械が設置され、朱が見ているわずかな時間でも接触不良などで止められている人がいるが、通行証を見せることで通されている。
 朱たちも前を歩く人に続いて通行証で中に入る。
 ちょっと……と呼び止められたが、○○の募集応募かな? 場所は○○階の○室だよと親切に教えてくれた。
「常守さんの言っていた通りでしたね」
「私がというよりは、チェ・グソンの情報のおかげね」
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