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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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偽りの敗北 その二

「そういうところは、狡噛らしいね。育つ環境で変わるというが、根底にある資質や考え方には大差がないらしい。興味深いね。ところで……」
 と、槙島は彼がどうしてこちらに来たのか、その経緯を訪ねようとしたが、美沙子の登場で挫かれる。
 彼女の登場前に聞けていたら、交渉に使えると思ったのだが……
 誰かが手引きをしているのは確実で、その誰かのヒントがほしかった。
 こうなる前に、チェ・グソンと連絡が取れていたらと悔いる。
 せめて、狡噛を連れ帰る前に一度帰還する必要性があることを作戦に盛り込んでおかなかったことを後悔した。

「なんの相談かしら? ここから脱出する相談なら、無駄な労力よ」
「もちろん、そんな無駄なことはしませんよ。あなたと僕の間柄じゃないですか。東金がどういう組織か、知らないわけじゃないですから」
「ええ、そうね。だけど、あなたは抜け目がない男だから、信用に欠けるのよ。だから、拘束は解かない」
「そう判断なさると思っていました。あなたが直接尋問するんですか? ああ、尋問ではなく拷問といった方がいいのかな。先に言っておきますが、この狡噛を拷問したところで、僕の気持ちは揺らぎませんよ?」
「ふっふふふ……、そんなことわかっているわ。その狡噛はそんなことをするためにあちらから無理矢理こちらに来させたわけではないから。それとも、まだ目的がわからないほど平和ボケでもしたのかしら?」
 平和ボケ……その言葉が大きなヒントなのだと槙島は思った。
 自分を説得させるための道具ではないというなら、それは東金自体に利益があることになる。
 狡噛を拉致って得をすることはなんだ? と考えを巡らす。
 東金の要求は一貫してクローンの正当性を認めさせ、国をあげて推奨していくことだ。
 現に、人間のクローン化は実現し、あらゆる分析調査なども進んでいることだろう。
 ただ、誰のクローンを作ったかがわからない。
 この世界で知られずに育てることは可能かもしれないが、絶対ではない。
 ではどう隠すか……
 別の世界で……ああ、そういうことか、と槙島は納得する。
 なぜ、シュビラの世界が選ばれたのかも納得できる部分もある。
 しかし、すでにいない者が生きているように生活するのには不向きな世界のはずだが……しかし、あれをうまく活用し、そしてあれを実用化していたなら可能かもしれない。
 そもそも凡人のクローンを量産化したところでなんの意味もない。
 優れた能力を持つ者のクローンであればこその実用性、そして認可させやすいはず。
「……まさかと思うが、狡噛のクローンを作るつもりですか?」
「ふっふふふ……」
「その笑いが答えですか。こちらの狡噛ではなく、この狡噛でなくてはならない理由がわからない。そもそも、どの狡噛の細胞サンプルを保管しても、変わらないのでは?」
「理論上はね。でも、同じなのに能力に差がでるのはなぜ? 育つ環境と言われているけれど、それだけ? 同一の中でもより優れた細胞から作った方が、その能力を引き継ぐ可能性が高い。それを確かめるためにも、あなたの狡噛慎也にはあちらで生きてもらい、その経過を見させていただくわ。そしてこの狡噛慎也はこれからの狡噛クローンの素材、始祖とでもいえばいいのかしら? そうなってもらう予定よ」
「東金美沙子、それをする意味がわからない。まだ絶滅種の保全のためとでもいえば、世論の同意も得られやすかっただろうに」
「偽善なことを言ったところで綻びがでたらとりつくろうのが大変なのよ。遠回りをしなくてもいいくらいの後ろ盾、そして権力はある。あとはあなたの協力があれば……あちらの槙島聖護ほどではないけれど、あなたもなかなかの逸材よ。うちの朔夜ほどではないと思うけれど。あなただって槙島聖護の始祖となれるのだから、名誉なことよ」
「始祖……そんなものに意味はない。今を懸命に生きることこそが宝だと思いませんか?」
「そういうのは時代遅れ。青臭いとも言うわね。まあ、時間はたっぷりあるのだし、気長に行きましょうか。ただ、あなたたちの体力がいつまで持つか……」
 それだけを言うと、美沙子は部屋を出ていく。

「おい……!」
 完全に美沙子の気配が消えると、黙っていた狡噛が声を発する。
「なにがどうなっている? おまえ、また人をただの駒のように……」
「やめてください。僕はあなたの知る槙島ではありません」
「だったら、わかりやすく説明をしろ」
「わかりやすく……ですか。難しい注文ですね。ざっくりといえば、この世界は並行線状にいくつもの世界が存在し、それぞれの世界に同一人物が存在している。しかし、その人物の年代や置かれている環境は様々で、たまたま同じであることもあるが、それはたまたまであるとしかいえない。それぞれの世界に干渉しない、関わらないのが鉄則なのですが、どの世界にも良い点悪い点はあり、良い点は真似したくなるのが人の性というものです。人は欲張りですからね。今ある満足で満たされることはない生き物です。簡単にいえば、シビュラの世界のあなたと、この世界の狡噛は同一であって別人です。あなたは槙島と対峙したが、こちらでは僕と狡噛は同志です。僕の知る限りですが、こちらとあちらの征陸智己は刑事という立場で、偶然一致、縢秀星はおほっちゃまでまだ幼児、いや児童くらいの年代だったかな。常守朱はどうだったかな……六合塚弥生、これはこちらではかなりの有名人でね。彼女がこっちに来てしまうのはいただけない。ああ、有名人って悪名ではなくよい意味での有名人だよ」
「夢物語。なにかの本で読んだようなパラレルワールドってやつか? それが存在する?」
「なんだ、パラレルワールドを知っているのか。ならば話は早いかな」
「行き来できるなんて話、信じられるか」
「でも、実際に、あなたは来ているでしょう?」
「……っう」
「ああ、でも。行き来できるのは僕の知る限り、この世界だけですよ」
「そういう問題ではない!」
「ああ、そんな大声をだしたら体力消耗しますよ」
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