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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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偽りの敗北

「ああ、しょうがない。もう好きにすればいい。だが、仲間に手を出すことは許さない」
 槙島は両手をあげ、無抵抗で応じる仕草をした。
 それに納得ができないのは狡噛だ。
 彼の知る槙島なら、簡単にあきらめたりはしない。
 命尽きるその瞬間まで足掻くだろう。
 槙島だが槙島ではない、狡噛は悟った。
「誰だ、おまえは……」
 しかし、その問いに返ってきたのは求める返答ではなく、体全体が痺れるという衝撃だった。

※※※

 ふたりが目覚めたのは、無機質な空間。
 そこに人の姿はないが、明らかに見られているという感じはする。
 たとえるなら、檻の中の動物になったような気分だった。
 先に目覚めたのは狡噛だった。
 ふたりは横に並ぶように拘束され置かれている。
 置かれているという状況が適切だから、そう表現するしかない。
 十字架に張り付けにされた状態で置かれているのだと気づいたのは、隣の槙島がそのようだったからで、自分も似たようなものなのだろうと思ったのだ。
 槙島は聞き慣れた声で呼ばれているような気がして、重い瞼を開く。
 意識が覚醒していくと次第に体に鈍い痛みを感じた。
 無抵抗だと意思表示をしたのだが、美沙子はそれを信じず、無理矢理拘束した。
 その中で、狡噛が崩れていく様をみたような気がする。
 地面に押しつけられ、数人に乗っかられ叩かれ、何かの一発が決定打になって意識が遠のいた。
 狡噛の崩れ方は不自然だった。
 薬かしびれか、その辺りで自由を奪ったのだろう。
 だとすれば、その効果が切れれば簡単に覚醒する。
 自分より先に意識が戻っても不思議ではないと槙島はとっさに判断した。

「狡噛……」
「……あ?」
「もう気づいているとは思いますが、ここはあなたがいた世界ではありません」
「……どういうことだ?」
「言葉そのままですよ。僕は、あなたを知っているが、僕の知っているあなたではない。それはあなたも気づいたのではないですか? たぶん、あなたがいた世界の槙島聖護はもっとかしこく、もっと強く、そして人を欺くことに長けていたのではありませんか?」
「……あんたは、そうじゃないっていうのか?」
「ええ。現に、正攻法ではあなたに勝てないと、最初の一撃で敗北を感じました」
「……たしかに、あんたは俺の知っている槙島聖護とはどこか違う。その姿、整形でもしたのか?」
「まさか! 生まれてこの方、そんなことをしたことはありませんよ。こちらの世界で、僕と狡噛は同志で、そして頼りになる友と言ってもいい関係性でした。あなたとそれを築こうとは思いませんが、この危機を脱するまで手を組みませんか?」
「俺に、悪事の荷担をしろと?」
「悪事……なにをもってして悪事と決めつけるのかはわかりませんが、少なくとも、この世界での僕は人が人らしく生きていくための世界を作ろうとしただけなのですけれどね」
「無関係の人間を巻き込んでか?」
「巻き込んだつもりはないですが、巻き込まれたと思う人はいるでしょうね。とにかく、ここをでるまででいいのです。協力しませんか? あなただって、このままでいいと思っているわけではないでしょう?」
「……それはそうだが……」
「では、こういえば同意してくれるでしょうか? 僕の仲間、チェ・グソンが常守朱を連れてくると。あなたにとって、常守朱はどういう人ですか? 少なくとも、あなたは知っている人物に危険が及ぶかもしれないとわかったら、無視できないでしょう?」
「常守を利用して脅すつもりか?」
「どう受け止めてくれても構いません。今の僕はあなたの力がほしい。それを手にするためなら、悪事と断定されたとしてもなりふり構っていられないのですよ」
「……わかった。だが、常守になにかしてみろ。別人だとしてもおまえが槙島聖護の姿をしているというだけで、俺はもう一度この手でおまえを殺す」
「……怖いね。いいよ、それで。では交渉成立ということで」
「なにか策があるのか?」
「……そうですね。とりあえず、体力温存します。無駄に抵抗せず、相手の機嫌をそこそことり、最低限の水と食料はいただく」
「もっとこうどでかい作戦でも考えているのかと思えば、地味だな。だが、悪くない。相手の機嫌はどうとる?」
「ターゲットは僕です。目的はクローン承認への賛同を得ることでしょうから、その件に関してはのらりくらりと対応するとして、問題はあなたです。僕への当て馬としてシビュラの世界から連れてきたのだと思いますが、だとするなら捕らえる必要はないのですよね。美沙子の真意が知りたいので、機嫌を損なわないようにしてください」
「……わかった。ところで、気づいていろんだろう?」
「ああ、見られているということですね。当然です」
「この会話が聞かれているってことは?」
「それはないです。監視カメラは四方に設置、出入り口の両側にひとつずつ、確認できていますか?」
「ああ……」
「稼働している時はランプが赤です。会話を聞いている、録音しているなどの時は、あそこ、天井の中心にあるライトの中にあるマイクが点滅します。今はそれがないので見られているだけです。そもそも会話の録音は交渉の時にしか使われないでしょう」
「ふん……、それを信じろと?」
「信じてもらうしかありません」
「まあ、いい。無事に脱出できれば、それが嘘か真かわかるのだからな」
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