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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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東金財団

「お~怖っ!」
「茶化すな!」
「まあ、そう怖い顔しなくても、人の命がかかっているんだ、こっちも出し惜しみはしない。そうだろう、コウ」
「ああ。それで、どこから話す?」
「そうだな。ここは東金朔夜のことからいこうか」
 問題ないと狡噛が頷くと、征陸は面々の顔を見渡した。
 朱以外の一係全員が揃っていると宜野座に説明され、頷く。
 それから自身の記憶を確認するかのように話し出した。
「こっちの東金朔夜は亡くなっているな?」
「ああ。そこの霜月監視官がドミネーターで裁いた」と、宜野座。
「それはすごい犯罪計数だっただろう」
「そのようだな。それが?」
「そう急くな。並行線状にいくつもの世界が存在している。我々はパラレルワールドと呼んでいる。俺たちの世界の東金朔夜もすでにいない人物だ」
「……な、なんだって?」
 めずらしく声をあげたのは須郷。
「では、あの場にいた東金朔夜は……?」
 と、征陸に問う。
「パラレルワールドを行き来できる技術を持っているのは、知る限り、俺たちの世界だけだ。ゆえに、別の世界の東金朔夜がこっちにきているとは考えにくい。いや、まずありえない。ではなぜ死んだはずの東金朔夜が存在しているのか。こっちの世界の東金財団の医療技術を得た……というのが最有力だ。なんのために、簡単なことだ。どうしても東金朔夜が必要だった。それも、桁外れの犯罪体質の……。こちらからも訊きたい。東金朔夜、あれはなんだ?」
 訊かれても答えられる者はいない。
 なぜなら、彼の存在理由を不思議と思ったことがないからだ。
 だが、唯一、朱は疑問を抱いた。
 なぜ疑問を抱いたのか、本人がいないのでわからないが、調査依頼を頼まれた唐之杜なら知っているのではないか。
 みなの視線が集まる。
 そんな中、美佳だけは視線を逸らし、存在感をできるだけ消す。
「東金朔夜は自然に反して出来上がった子なのよ」
「自然に反する?」
 代表して宜野座が質問を返す。
「言葉そのままよ。自然に反する、ようするに人がどうやって新しい命をこの世にもたらすかっていう自然に反しているの。つまりね、意図的に作られた子なの。ああ、作るってモノをつくるような感覚の方ね」
 それだけで征陸と狡噛はわかったようだった。
 唐之杜が言いにくそうにしているのを察し、征陸が代弁をする。
「つまり、遺伝子操作でできた子ってことか?」
「まあ、それに近いかな」
「そうか。ならば、成功例ができるまで失敗もあったし、サンプルの保管もしているはずだな。成功したとはいえ、成長するとは限らない。目的半ばで何かあったときの保険はかけているだろう」
「まさに、その通り。なんだと思う」
「思うってどういうことだ?」
「だから、閲覧権限がかけられててね。まあ、そういうことだから、知られたくないことがあるんだろうなって」
「まあ、そうだろうな。そうだと仮定すれば、謎は簡単に解けるな、コウ」
「ああ、そうだな。死んだはずの東金朔夜のレプリカ。タブーを犯しやがったんだ、あいつら! だが、なぜ気づけなかった?」
「それはあれだろう、こっちの東金と繋がっているなら、ホロでごまかす技術も施してもらっていたんじゃないか? ただな、あの顔に見覚えはない。そんないくつもホロを持てるものなのか?」
 と、征陸は雛河をみた。
「簡単なものなら、応用でどうにかできる、と思う。だけど、何重にもレイヤーをかけて重ねていくのは無理。それなりの技術と知識が必要。それに、何かエラーが出たとき、メンテナンスできる人が必要」
「となると、頻繁にこっちに来ていた可能性はあるな。こっちは街頭スキャンで色相チェックというのをやっているんだろう? ひっかからないってことは……」
「ありえない」と宜野座が断言する。
「だが、まれに特異体質という人もいて、シビュラが感知できない人もいる」
 と、付け加えた。
「とっつあん、正攻法でやっているとは限らない。こっちの誰かを拉致ないし監禁して入れ替わるってことも平気でするんじゃないか?」
「コウ、それはリスクが大きすぎる。被害者が訴えたら終わりだ。仮に消してしまったとしても、身内が問題視して警察に届けを出すだろう。その辺はどうなんだ?」
 征陸の視線の先には宜野座がいた。
 朱と多く行動を共にしていそうな宜野座なら答えられるかもしれないと賭けてのふりだ。
 そうだとわかった宜野座は軽く息を吐く。
「犯罪幇助にもなりかねないが、まあ参考程度に。知られずに消し、それがシビュラに知られずにことが済むことは可能だ。再開発予定地から除外された過去の産物をみただろう。あそこには潜在犯であったり、シビュラのやり方に異を唱えている者、また賛同しつつも逃げ出した者たちが集まっている。自由と引き替えに入れ替わらないかと持ちかけることもできる。無法地帯だからな」
「別の世界に飛ばし、そこで消したとしてもその世界の秩序によっては身元不明で処理されて終わりってことか」
「ちょっと待って。それだとさ……協力者が必要よね? たとえばだけど、それなりの権力者とか? まさか、シビュラが黙認なんて……」
 と言っている最中、怖くなった唐之杜が口を閉ざすが、聞いていた者たちの中にはピンときた者もいた。
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