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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
目次

交換条件

「狡噛さんの確保。それはこの近くで目撃があったということ?」
「いや、ないね。なかなかうまく追跡を巻いているようだ。だが、かつての仲間が追いかければもしかしたらとは思わないかね?」
「どうかしら? 簡単に捕まえられるとも思えないけど?」
「だとしても、条件は飲んでもらうしかないね。代わりに、行動範囲に上限はつけない。元に戻る方法がこの区間だけとは限らないだろう? 他国への調査にも全面的に協力をする代わりに、ついでに逃亡犯狡噛を確保しろというだけのことだ」
「……わかったわ。だけど、目的の優先は来訪者を返すこと。狡噛さんの確保はそのついでってことでいいわね?」
「いいだろう」

※※※

「お待たせ、上の許可を取ってきたわ」
 朱がみなが待つ分析室に姿を見せたのは、宜野座と分かれてから数十分程度だった。
「思ったより早かったな。上があっさり許可するとも思えないんだが」
 と、宜野座はかつて自分が監視官だった頃の経験からそう口にした。
「あっさり許可してくれたおかげで、別の用事を押しつけられたけれど」
「ちょっと先輩、どういうことですか? もうこれ以上の厄介ごとは無理です!」
 と霜月が反論する。
 思ったことは言わなきゃ気が済まない彼女の言動にいちいち気にしていては先に進めない。
 朱は霜月の愚痴を聞き流し、話を進めた。
「まず、行動範囲の上限はなしということを許可してもらいました。ただし、期限は一ヶ月です。その間に彼らを元の世界に戻します。該当スキャンに引っかかっても、縢秀星、狡噛慎也、征陸智己に関してはスルーしてくれるよう頼み、了承してもらえました。代わりに、行動範囲の上限をなくすことを条件に、逃亡中の狡噛さんの確保を命じられました」
 場に緊張が走る。
 彼がどういう思いで犯罪者になったのか、逃亡し続けているのか、それをわかっている者たちにとって、彼を追いかけ確保することは簡単に従えるものでもない。
「狡噛さんの確保も簡単にはいかないでしょう。ただ、見つけ次第射殺とは言われませんでしたので、行動範囲の上限がない、他国への捜査も協力するとのことなので、建前だと思います。おそらく上としては逃亡者捜査のための入国とするのでしょう。別世界からの来訪者など言えませんから。また、このことは他言無用、一係だけで行います。そのため、三人の見た目を誤魔化す必要があります。ホロを使って誤魔化そうと思います。三人のホロ制作を雛河くんにお願いしたいのだけど、できるわね?」
「……うん、できる。どんなホロをつくればいい?」
「そうね、親子のような……というのは無理? できれば縢くんは女の子、狡噛さんか征陸さんのどちらかを女性ホロにしたい」
「うん、わかった」
「じゃあ、次。話を聞いてもらっていたからだいたいの素性はわかると思う。そこで縢くんには護衛をつけます。女の子のホロをお願いしたので、六合塚さんにお願いします。また家族という設定にしますので、全体の護衛を須郷さんに」
 六合塚と須郷が頷く。
「唐之杜さんには引き続きデータの管理と検索を。彼ら三人が外にでるときは私か霜月監視官が同行します。宜野座さんには狡噛さんの捜索をしている素振りを見せながら、三人の証言の裏付けを私と一緒にしてもらいます」
「問題ない。とりあえず、ホロができるまでは厳重管理だな。それは須郷に任せるのか?」
「そうですね。今の内の意思の疎通でもしていてもらえればと。ではそれぞれ行動に移ってください」
 それぞれが与えられた任務を遂行するために分析室を出て行くと、残ったのは朱と唐之杜だけになった。
「ねえ、朱ちゃん。東金財団の話は驚いたけど、慎也くんの組織ってなんだと思う? 彼らが来るのは困るってことらしいけど。あの様子だと、私たちの知っている人って感じよね」
「唐之杜さんも思いましたか」
「もちろんよ」
「私、なんとなく直感で思ってしまったんですよね、狡噛さんの組織のトップは誰だろうって。たぶん、あの人じゃないかなって。似ていますよね、あのふたり。もし別の世界で別の立場だったら、最強のふたりになったんじゃないかなって。ああ、これは私の勝手な思いつきなんで」
「いいんじゃない? 実は私もそんな感じだったから。だとしたら、彼らがこっちに来るのは好ましくはないわね。朱ちゃんとしては特に」
「ええ……」
「了解。お姉さん、ちょっと久々に本気出して頑張っちゃうから、朱ちゃんはあまりひとりで抱え込まないこと。わかった?」
「はい……」
「よし、いい子。じゃあ、あまり無理はしないで」
「はい。唐之杜さんも……」
 分析室をでると、壁にもたれ掛かるようにして宜野座がそこにいた。
「遅かったな。大丈夫か?」
「はい。宜野座さんは心配しすぎですよ?」
「心配くらいさせてくれ。で、どうする?」
「そうですね。一応、建前として国交のある国に逃亡犯がいないか連絡してみましょう。国交がある国も限られていますから、そう時間はかからないと思います」
「わかった、そっちは俺がやるから、おまえは少し仮眠をとれ」
「でも」
「唐之杜にも言われただろう、無理はするなと。ほんの数分、横になるだけでいい。今、おまえに倒れられると、一番困るのはあの三人だ。霜月監視官が率先して彼らのために動くとは思えない」
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