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となり

原作: その他 (原作:ハイキュー‼︎) 作者: haru
目次

となり(秋・冬)


夜。日ごとに冷たくなる風に秋の訪れを感じる。
「あかーし!肉まん食って帰ろうぜー」
こんな何気ない一言も、来年は聞けない。

春高を控え、部活はますます気合が入っている。当然のように、木兎さんとの自主練は下校時間ギリギリ。と言うか、若干過ぎている…いつもすみません、守衛さん…うちの木兎さんのせいです。
木葉さんや鷲尾さん達レギュラーメンバーもだいぶ遅くまで残ってくれているけど、部誌を書いたり鍵を返しに行ったりしていると、結局最後まで残るのは俺と木兎さん2人だけになることが多い。
「木兎さん…先に帰ってもいいんですよ」
「えー?あかーし1人になっちゃったら淋しいだろー?」
「…いや、そもそも部誌書くのあんたの仕事だろ」
「うっ…だって俺あかーしみたいに全体のこと見れてないし…そんな風に細かく書けねーもん…」
“もん”ってなんだ。“もん”って。
いや、まぁ俺の修学旅行中は木兎さんが頑張って部誌を書いてくれてたみたいなのだが、見事に全部ひらがなだったしな…しかも一行文。今どきの小学生の日記の方が出来がいいだろう。木兎さんが主将になった時点で部誌を書くのは俺の仕事だって諦めはついてたから。これはちょっとしたいじわるなのだが。
「あかーし…ごめ〜ん…」
まるで怒られた子どもだ。ほんと素直な人だな。
「木兎さんに頭を使う作業は期待してませんので」
「ひどくない⁉︎」
実はこんなやり取りすら楽しくて、でも来年には部誌を書く俺の目の前に木兎さんはいないんだって思うとなんだか淋しくて、少しだけ部誌をゆっくり書いてみたりする。
すみません、守衛さん。やっぱり木兎さんと俺のせいです。


俺は夏が一番好きだけど、実は冬もけっこー好きなんだ。好きになったのは最近だけど。
だって、寒がりなあかーしに堂々とくっつけるから。

春高はもうすぐ。チームの雰囲気も上々、俺は相変わらず最強―!!!あとは全部勝つだけ。
「あかーし、寒い?」
「いや、寒いでしょ。もう12月っすよ。それなのにあんたはマフラーだけとかバカっすか」
あかーし寒くてイライラしてる。かわいいなぁ。
「あかーしは、もこもこしてんな!」
ダッフルコートとチェックのマフラー、に顔をうずめてる。かわいいなぁ。
「木兎さんは風邪引かなそうで良いですね」
「遠回しにバカって言うなー!」
「すごい、分かったんですね」
「木兎さんそろそろ泣くよ⁉︎」
あっ。笑った。
最近あかーしはふとした瞬間に淋しそうな、不安そうな顔をすることがある。お前のことだから、きっとこれからのことを色々考えちゃったりしてるんだろ。部誌を書く時考えるフリしていつもより時間をかけたり、2人で帰る時に歩くスピードが少しだけゆっくりになったり。行動は分かりやすいのに、言葉には絶対しない。でも俺は分かってるから。
「あかーし手冷てぇ!」
って俺の左側を歩いていた赤葦の右手を取る。
「ちょっ…!木兎さん…っ!」
「大丈夫だって!暗いし誰も見てねーよ。俺があっためてやろう♪」
シブシブといった顔でも手を振りほどかないのは、人通りの少ない道だからと、寒い寒い冬のおかげかな。そーゆーことにしといてやろう。
大丈夫だよ。あかーし。だいじょーぶ。



満開の桜。澄んだ青空。
一年前のあの日と同じ光景。

今日は木兎さん達3年生の卒業式だ。
学園内でも有名人だった木兎さんの制服は見事なまでにボロボロで、ついさっきまで記念写真だなんだと引っ張りだこだった。部室に忘れ物した!と言う木兎さんに付き合わされた後、珍しく黙り込んだままの木兎さんの隣を歩く。
卒業おめでとうございます。とか、今までありがとうございました。とか、大学でも頑張って下さいね。とか言わなきゃいけないことはたくさんあるのに、どれもが他人行儀で言葉に出来なかった。
「あかーし全然泣かなかったなー。泣き顔待ち受けにしようと思ったのにー」
「悪趣味ですね。もしそんな写真取られたら全力で消しにいきます。」
「こわっ!俺ごと消されそうな勢い‼︎」

春風に桜の花びらが舞った。

「…木兎さん、今まで…」
「でも別にこれで終わりってわけじゃないしなぁー。LINEもするし、電話もするしー。あっ、オフの日合ったらどっか遊びに行こーうぅぅぇぇぇ⁉︎⁉︎あかーし⁉︎何で泣いてるの⁉︎えっ今⁉︎」
「いや…あの…すみません…」
あんたが。まるで明日の練習メニューでも決めるかのように、当たり前にこれからのことを話すから。でも…
「ねぇ、あかーし。これからお前がどこの大学に行っても、バレー続けても続けなくても、いや…まぁバレーはできれば一緒にやっていきたいけど…将来どんな仕事に就いても、俺の隣にはあかーしが必要だし、お前の隣に俺はいたい。」
俺の涙を指で拭いながら、木兎さんは続けた。
「だからさ。もう一度、でもこれで最後。」
「あかーしもそろそろ覚悟決めて?」
あぁ…そうか。あんたはもう一年前のあの時から…。
「本当、かっこいっすね…あんた」
「えっ⁉︎?あかーし今なんて⁉︎デレた⁉︎あかーしがデレたぁぁ‼︎」
はっ!録音…録音したかった…!なんて騒いでるあの人は全くキマらないけど、木兎光太郎を初めて見たあの時から、高校3年間どころか俺の何十年先の未来までこの人に握られてしまったと思うのも悪くない。

「木兎さん、これからもよろしくお願いします」
「おう!これからも、ずっと、よろしくな!あかーし‼︎」

この先も、ずっと、この人と隣を歩いていく。
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