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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
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第四十五話    メッセージ・フロム……


 ビー!!ビー!!ビー!!

 あまりにもシャドウが入って来たために、重量オーバーとなったようだ。エレベーターは文句を垂れる猫みたいにしつこく鳴いて、何匹かのシャドウを追い出していた。そして、そのまま上昇を再開する。

 ジョーカーとモナは、息を潜めながら時間の経過を待つ……。

 ブブブ!

 ジョーカーのスマホが再び鳴った。ジョーカーはすぐにスマホを取り出して画面を見る。確認すべきだった。思った通り、そこには異世界ナビからのメッセージが表示されている。

 『吉永比奈子は病弱だった。病弱で、入院がちだった。お母さんが大好きだった。どうにか学校に通えるようになったが、人見知りが激しく、孤立した。弱々しい彼女は、からかいの対象にしかならなかった。運動も不得意で、勉強もあまり得意ではなかった。そして、生命力も乏しい……弱々しい者を嬲ることは、ヒトの本能でもあった』

 ……モナの表情が険しくなるのを、ジョーカーは見た。足下の下にウジャウジャといるシャドウたちのせいで、大声で感情をあらわにすることは出来ないが、心のなかに沸き立つ怒りの感情は十二分に伝わってくる。

 ……ゆるせねえな。病弱な子を、昔の聖心ミカエル学園の生徒たちは、いじめてバカにしていたってコトかよ……ッ。

 ジョーカーもその怒りは同じだが、このメッセージの真偽については考える余地も存在している……そんな風にも思っていた。

 異世界ナビ経由で伝わるメッセージは、誰からのものだろうか?……イゴール?力の成長を促す存在だったハズだ。彼が、現世に対して露骨に自分を手伝ってくれることはないだろう。異世界ナビと、怪盗の力を再び与えてくれただけでも十分すぎる助力だろう。

 ……このメッセージは、七不思議の幽霊そのものではないのだろうか?……身勝手で嫉妬染みた城ヶ崎シャーロットへの『罪状』を記すことが出来て、『吉永比奈子』という少女の物語を認識することが出来る人物は、当事者そのものではないのか?

 ……『自殺した吉永比奈子の幽霊』。それが、異世界ナビへメッセージを送信している人物の正体なのではないだろうか……。

 ……。

 ……。

 ……そうだとすれば、彼女は止めて欲しくもあるのだろうか?……城ヶ崎シャーロットの飛び降りを予告してくれたのだ。それは、止めて欲しいという願いなのかもしれない。

 あるいは……あまり考えたくはないことだが。城ヶ崎シャーロットの飛び降りを、ギャラリーに見せつけたいとでも言うのか……?

 ジョーカーは静かに深く考えることにした。異世界ナビを経由して来るメッセージ。それに秘められた意味は、邪悪なる者が見せた、さらに深い闇なのか……あるいは、そうではなく、わずかに残った善良さの現れなのだろうか……。

 ……異世界ナビが届けるメッセージ、それは自分たちを誘う罠である可能性も否定することは出来ない。

 判断するための材料は、今のところ存在していない。ジョーカーが悩む間もエレベーターの上昇は続いた。

 何度かエレベーターは止まり、シャドウたちが降りていく。だんだん、エレベーター内にいるシャドウの数が少なくなっていく。そして……ついに最上階へと到着するのだ。残っていた二匹のシャドウが、エレベーターから降りていく。

 それを見計らい、ジョーカーとモナも身を隠していた天井から飛び降りて、そのエレベーターから脱出した。

『ジョーカー、城ヶ崎が飛び降りるっていう予告までは、あとどれぐらいだ?』

「14分だ」

『……10分近くもエレベーターが昇り続けていたわけだ。相当に空間が歪んでいるな……エレベーターを選んだのは、ナイス判断だった。あれだけの高さを歩きで踏破するのは、ムリがありすぎたな』

「ああ。急ぐぞ。階段がある……それを昇れば、屋上に着くはずだ」

『うん。急ごう。1階分が、とんでもなく長くかかることだってあり得そうだからな』

 不安を感じつつも、いや、だからこそ、ジョーカーとモナは急ぎ足となって、エレベーターの隣りにある階段を昇り始めていた。

 階段を昇っていけばいくほどに、周囲の壁紙が古くなっていく。コンクリートの部分が剥き出しになっている場所さえ見つかった。そして、そのコンクリート部分には、大きな亀裂が走っている。

『……ここに来て、禍々しさを強く感じるようになっているな……ッ』

「……ここの『主』が近いのかもしれない。油断はするなよ、モナ」

『わかっている。優先順位は、心得ているつもりだぜ。もしも、死んだ子の幽霊が、この状況の犯人で……戦うことになったとしても、戦える。大事なのは、死者よりも、今を生きているヤツの方だからな……城ヶ崎シャーロットの命を、最優先に考える』

「そうだ。城ヶ崎を、助けてやろう。他のことは、今は考えなくていいんだ」

 自分にも言い聞かせるための言葉だった。ヒトは、それほど単純な動物ではない。憐れな自殺者の幽霊と戦う?……そんな行為に抵抗がないわけではない。ジョーカーとて、その抵抗に心は囚われている。

 だからこそ、必要なのだ。城ヶ崎シャーロットを救出する。彼女の命を守り抜く。そのためには、どんな敵だとしても、倒す。その覚悟が、怪盗たちには必要だった。
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