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モンスター娘のいる日常~ローカルサイド交流談~

原作: その他 (原作:モンスター娘のいる日常) 作者: sarai
目次

「君をもっと知りたくて」

ピピピ…、ピピピ…、

 仁根「う~ん、ねむい…。」

翌朝、目覚ましのアラームと共に起床する。もう少し寝ていたい気持ちを押し殺し、ゆっくりと上体を起こす。目を擦りながら洗面所に向かおうと歩き始めたとき、ふと鼻孔をくすぐるいい香りが漂ってくる。

 仁根「うん、なんだ?」

匂いのする方を追うと、どうやら発生源はキッチンの方だと判明し、歩みをそちらに向ける。リビングの扉をゆっくりと開けると、昨日から同居人となったアラクネのシダカが、キッチンで手際よく調理をしていた。
シダカは鼻歌交じりに手慣れた様子で次々と料理を完成させていく。その優雅な姿に見とれ、思わず立ち尽くしてしまう仁根。

 シダカ「よし、こんなとこだろ。」

全て作り終えたのだろうか、腰に手を当て満足げに並べられた料理を眺める。その時、やっと立ち尽くしていた仁根の存在に気が付くシダカ。

 シダカ「なっ…!お前いつの間に、いたなら声くらい掛けろ!」

気分よく料理していた姿を見られたと思い、顔を赤らめ声を張ってしまう。

 仁根「あ、ああ、ごめんな。シダカおはよう。」

シダカの動揺する姿に、思わず見惚れていた仁根も動揺してしまう。

 シダカ『お、おはよう。…ほら、そんなとこ突っ立ってないで配膳でも手伝え、でなきゃ食わさんぞ。』

 仁根「え?俺の分の朝食も作ってくれたの?」

 シダカ『散々迷惑かけた同居人に作らないわけにはいかないだろ。あと冷蔵庫の食材、勝手に使わせてもらったぞ。』

 仁根「あ、いやそれは全然構わないんだけどさ。」

綺麗に盛りつけされた料理を、次々テーブルへと運んでいく。全ての配膳を終え、向かい合わせで席に着く。

 仁根「えと、それじゃあいただきます。」

 シダカ『はい、いただきます。』

盛られた料理に箸を伸ばし黙々と口へ運んでいく。

 仁根「うん…うん…ん!うまい!」

 シダカ『それはどうも。』

 仁根「シダカ料理上手いんだな、正直、亜人の食事ってどんなもんかと思ってたけど、意外と普通なんだな。」

 シダカ『ふふ…もっと原始的と思ってたか?生肉とか薬草とか、虫なんかを手掴みでむさぼってるとでも?』

 仁根「あ、いやいやそこまでは思ってないよ、気に障ったなら謝る。」

 シダカ『別に、この国に比べたら発展途上なのは確かだしな。ただここ数年、他種族間交流法の関係でこっちの情報を耳にしたり道具なんかも輸入してるから、多少は使い慣れてるんだ。』

 仁根「へ~。」

そんな会話をしながら、ふと仁根は思った。そういえば、自分は亜人の事ほとんど何も知らない事に。これから生活を共にする中で、文化の違いで相手を気づつけてしまったり、病気やケガなんかの時にどう対処しないといけないのかわからないとまずいのではないかと。
 
 仁根「なあ、シダカ。」

 シダカ『なんだ。』

 仁根「俺、もっとお前を知りたい。」

突然の仁根の一言に、飲んでいたお茶を吹き出す。

 シダカ『げほ!ごほ!…なんだ急に!』

 仁根「亜人に対して興味がなかったわけじゃないんだ、ただ正直ホストファミリーの試験を受けたのも、環境のいいこのマンションに住めるからってのが第一だったし、でもこうして実際共同生活をしていくと思うと、改めて亜人達の文化とか知らないと失礼かなって。」

 シダカ『そんな事、これからゆっくり知っていけばいいさ。私だって人間社会の一般常識なんて知らないからな。だからお互い様だ。そういうの込みで協力していけばいいんじゃないか。』

味噌汁を一口すすり、仁根の気持ちを察するようにやさしく答える。その落ち着いた姿に、頼りになる年上女性の風格を漂わせる。

 仁根「あ、姉御って呼んでいいっすか?」

 シダカ『断る。』


――――


朝食を済ませ、空になった皿を重ね片付けの準備をする。

 仁根「あ、片付けは俺がやるよ、シダカはゆっくりしといて。」

 シダカ『そうか?じゃあお願いしようか。』

仁根は食器を流しへ持っていき洗い物を始める。その間、シダカはテレビをつけ、ニュース番組に目を向ける。先程の優しい表情とは違い、真剣そのものだ。

 仁根「何見てるの?」

その様子に気づいた仁根はシダカに声をかける。

 シダカ『いや、『奴』についての情報が流れないか見ているんだ。』

 仁根「奴って、昨日言ってた君の故郷を襲撃した犯人。」

 シダカ『そうだ、あれだけの事をして、この人間社会に普通に溶け込んでるとは思えない。また何か事件を起こして報道でもしている可能性はある。』

 仁根「なるほど、それならテレビよりネットの方がより有力な情報が手に入るかもよ。」

 シダカ『ネット?』

 仁根「そう、インターネット。この世界は今、情報の糸が蜘蛛の巣のように張り巡らされているんだ。その文明の利器を使っていこうよ。」

その後、洗い物を済ませた仁根は、パソコンデスクに向かう。

 シダカ『これがそのインターネットか?』

 仁根「これはパソコン、これを使ってインターネットにつなぐんだよ。」

 シダカ『ほう、なんだかよくわからんが使ってみてくれ。』

 仁根「あいよ姉御。」

 シダカ『だからその呼び方やめろ。』

仁根はパソコンを起動し、シダカの村について検索をかけてみる。すると、いくつかの検索結果が出てきた。その中には、『奴』に関する情報もいくつかあるようだった。

 仁根「ほら、さっそく有力な情報が手に入りそうだよ。」

 シダカ『なに!本当か!?こんなあっさりわかるなんてすごいな。』

思わず体を乗り出し画面に喰い付くシダカ。

 仁根(う、近い近い!)

身を乗り出したはずみで、仁根の顔のすぐ横にシダカの豊満な胸がゆらりと揺れ頬に当たる。が、本人はそれを全く気にしてないようで、あえて仁根はその偶然に甘んじ何も言わずに堪能することにした。

 シダカ『うぅ、人の文字はまだよくわからないな。相棒、なんて書いてあるんだ?』

 仁根「…んあ?え、はいはい、ええとね、○○域アラクネ種の里、謎の襲撃に遭い複数名重軽傷を負う。犯人は別種の亜人である可能性、だってさ。」

 シダカ『やはり、犯人は他種族の亜人か。他にはなんて?』

 仁根「今、警察関係各所で調査を進めているらしいよ。ひょっとしたら意外と早く犯人が分かるかもね。」

 シダカ『できればこの手で捕まえたいところだがな。警察に捕まったら、直接犯行の動機を聞けるわけじゃないし。』

 仁根「確かに、動機はニュースや新聞に載ることもあるけど、全部が全部情報開示されるわけじゃないのが現状だからね。」

 シダカ『なにより、この手で復讐できない。』

 仁根「暴力はだめだよ、復讐じゃ、次の復讐しか生まないって偉い人も言ってるからね。」

 シダカ『…その通りだが、私の気持ちは変わらない。』

 仁根「とりあえず犯人が見つかった後の処遇をどうするかは置いといて、その正体と今どのあたりに潜んでるかはまだわからないな、もう少し情報収集する必要があるから本格的に行動するのはもう少し待ってて。」

 シダカ『悪いな、こんなことに付き合わせてしまって。』

 仁根「相棒なんだから当たり前、そういうの込みで協力し合う、でしょ。」

表情が暗くなっていたシダカの気持ちを慰めるように語り掛ける。それを察して、彼女も仁根に対し微笑みかける。

 仁根「やっぱり、シダカはしかめ面してるよりそっちの方が可愛いよ。」

 シダカ『…さっきの突然の一言といい、お前はもう少し発言に自覚を持った方がいいかもな。』

 仁根「うん、どゆこと?」

 シダカ『何でもない、こっちの話だ。』

仁根の素直な気持ちに正面から受け止められず、思わずそっぽを向くシダカ。その顔はほんのりと頬が桜色に染まっていた。


――――


午後、天気は清々しいほど晴れ渡っており、心地よい風が肌を伝ってくる。運動や散歩するには絶好の日和といえるだろう。そんな中、二人は気分転換もかねて町の商店街まで買い物に出かけることにした。
 
 仁根「シダカ、何か買いたいものある?」

 シダカ『そうだな、とりあえず適当に化粧道具でも揃えたいな。』

 仁根「よし、じゃあこの前見かけたスーパーで買い物するか。」

何気ない会話をしつつ歩いていると、次第に人数も増えてきた。最初は気にしていなかったが、すれ違う度人目がこちらに向けられているのを感じる。

 仁根「うん?なんか周りから変に見られてる気がする。」

 シダカ『それは、私が一緒だからだろうな。』 

 仁根「どうして?亜人なんか今どき珍しくないでしょ。」

 シダカ『種族的な問題だろうな。亜人が珍しくないとはいえ、種族によっては日昼姿を現さない奴もいる。夜行性やそもそも人目が好きじゃない奴とかな。アラクネも類に漏れずそういう生体だ。』

 仁根「ふ~ん、そういうもんなんだな。」

 シダカ『それになにより、私達アラクネはこの見た目だからな。より人から不快な眼差しを向けられるのが常だ。』

赤黒い薄地の甲殻で覆われた手や足をかざし、蜘蛛の部分をアピールするように見せるシダカ。

 仁根「第一印象で人の内面まで決めつけるのは人間の悪いとこだな。」

 シダカ『未知の存在を警戒するのは生き物として当然の反応だよ、何度も言っているが私達アラクネはそういう反応にはもう慣れてる。』

商店街にたどり着く二人。そのまま寄り道することなく仁根の見かけたスーパーへと足を運ぶ。

 「きゃー!泥棒!」
 
その時、女性の悲鳴が商店街に響き渡る。咄嗟に声のする方に目を向ける二人。すると、奥の方で倒れこんでいる女性と、こちらへ向かって走りこんでくる大柄の男性の姿があった。

 仁根「うわ、まじかよ!」

事の状況を察した仁根は、男性の前に立ちはだかり進路を妨害しようとする。男性は仁根のその行動を見るや着ていたジャンパーの内ポケットに手を入れ隠し持っていたナイフを取り出そうとした。

 シャッ!

その時男性は何かが体にまとわりつくのを感じた、内ポケットに差し込んだ手が動かなくなったのだ。視線を下に向けると、腕を中心に胸部周り一帯を蜘蛛の糸がまとわりついていた。その状況に驚愕し、思わず足を止める。

 仁根「え、あれは?!」

 男性「なな、なんだよこれ!!」

戸惑う男性をよそに次々と蜘蛛の糸が絡みつくいていく、やがて頭を除く体全体に蜘蛛の糸が巻き付き、身動きが取れなくなった男性はその場に倒れこんでしまった。

 シダカ『ふん、薄汚い下衆が。』

糸を仕掛けたのは勿論シダカだった。かざした掌から男性へ向かって一本蜘蛛の糸が伸びている。その後、糸を巻き取るように男性を自身の前まで引きづる。

 シダカ『盗ったもの、返してもらうぞ。』

 男性「畜生!この化け物が!気持ち悪いんだよ!」

身動きができない体を揺すりながら逆上し、罵声を浴びせる男性。シダカはそれを無視し、女性から盗んだ財布を取り出す。

 男性「おい!キモい手でさわんじゃねえ!菌がつくだろ!聞いてんのかよ化け物!」

シダカは女性のもとへ近づき取り出した財布を渡す。

 シダカ『はい。』

 女性「あ、ありがとうございます。」

 男性「ふざけんじゃねえぞ!なめやがって!お前顔覚えたからな!亜人風情が人間様にたてつきやがって!」

 シダカ『…さっきからごちゃごちゃとうるs…』

  ッガ!!!!

鈍い音が一帯に響く。振り返るとそこには地面に突っ伏して気絶している男性と握りしめた拳を振りぬいた様子の仁根の姿があった。

 シダカ『!』

 仁根「犯罪者が自惚れんな、豚箱で反省してろ。」

 シダカ『相棒…。』

  
 パチパチ…!


しんと静まりかえった空間に拍手の音が鳴る。音のする方を見ると小さい男の子がその小さな手で拍手をしていた。

 男の子「かっこいー。」

男の子の一言を境に、一部始終を見ていた観衆の拍手と歓声が一挙に鳴り響く。二人はどうしていいかわからずそそくさと後処理をすました後その場を後にした。


スーパーで買い物を済ませ、自宅へを帰る二人

 シダカ『さっきは驚いたな。』

 仁根「だね。でもさすがシダカ、見事な糸裁きだったね。滅茶苦茶かっこよかったよ、こうしゅしゅっと!」

 シダカ『別になんてことない、普通に動いただけだ。私達からすれば人間の動きなんてゆっくり過ぎなくらいだからな。』

 仁根「へ~そうなんだ、また一つ勉強になった♪」

 シダカ『それよりお前だよ。』

 仁根「おれ?」

 シダカ『相手の行動を予期せずに目の前に立つ馬鹿がいるか、凶器取り出そうとしてたんだぞ。私がいなければ刺されるところだった。』

 仁根「そうだったの?!取り押さえようと必死だったからな。」

 シダカ『はあ…この調子じゃ先が思いやられるな。』

額に手をかざし首を振るシダカ。

 仁根「ごめん。」

 シダカ『でもまぁその…よかったんじゃないか、あの行動とか、台詞とか。』

 仁根「ん、なんのこと?」

 シダカ『あのくず人間を殴った時だよ。相棒が動かなかったら、私が同じことしてた。』

 仁根「あぁ、あれも亜人の…いや、シダカの事悪く言ったのが許せなくて咄嗟にでた事だから。それにシダカが殴ってたら他種族間交流法違反にひっかかるしね。あんな奴のせいでシダカが犯罪者扱いになるなんておれは御免だ。」

 シダカ『…それが嬉しかったんだよ。』

 仁根「うん?なんて言った?」

 シダカ『なんでもないよ、バーカ。』

 仁根「はぁ!?バカってなんだよバカって。」

 シダカ『ふふ、悔しかったら私から買い物袋取り上げてみろ。』

 仁根「おっしゃ!見てろよ人間様の実力見せてやんよ!」

赤く灯る夕日の中、二人は仲良く帰路につく。 

 
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