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おとぎの国へようこそ!

原作: その他 (原作:薄桜鬼) 作者: 澪音(れいん)
目次

新たに始動

※今回から会話文のみではなくなります

沖田「土方さんもう二度と演劇はしないって豪語してなかったっけ?」

屯所内副長室、そこで書き物をしていた土方は突然聞こえた自分以外の声に驚きながら相手が誰だか分かり呆れた顔をした。彼がこうして無断で部屋に入ってくることなど、今に始まったことではなかった。むしろ、声をかけるようにと注意した方が負け、次の日にはもっと困らせるような形での入室を考えて来るだろう。ならば被害が最小限の今の方が土方にとってはまだマシであった。

土方「何故かあの桃太郎の劇がえらく気に入られたらしくてな。町おこしのお偉いさんから次もぜひ、なんて聞いて来た近藤さんが受けたらしい」

あの日以降、どこか街の人間とも距離があいた最早事件となったあの演劇。
修理費全額を負担することになったおかげで土方はその負担額を少しでも和らげようと街中を駆け回ったのはまだ記憶に新しい。だが、事が終息し落ち着きを取り戻した時、近藤宛の来客があった。
一部では子供に対して悪影響だの、子供が棒きれを持って暴れるだの苦情が殺到してはいたが、それ以外の大人たちからはむしろ感謝されたらしい。
それもこれも、彼らの演劇を見たおかげだと口をそろえて言うと、言うのだ。
あの演劇以来、子供たちはそれは見違えるように家事手伝いに励み、勉学に励みだしたという。
理由を聞けば「悪い子だったらあのお兄ちゃんのように家を追い出される」なんて言われ、それを聞いた藤堂は一人静かに膝から崩れ落ちた。彼もまたあの演劇の被害者である。

沖田「へぇ、あの演劇がねぇ。土方さんは反対しなかったんだ?」

土方「今回の演劇はどんなに舞台を壊されても新選組への賠償請求はしないと要求が通ったからな。」

演劇を断る、と言って突っぱねた土方にお偉いさんは何とか説得しようと試みた結果出た提案がそれだった。それまで「断る」の一点張りだった土方の心が靡いた。
そこからは新選組にとっての好条件のみの交渉に、演劇を続けたい近藤からの輝かんばかりの視線に折れた土方は、もう二度とするかと決めていた演劇をもう一度、受ける事にした。

沖田「相変わらず汚い大人だね、土方さんって」

土方「バカヤロウ。前回どれだけ被害届や苦情が来たと思ってやがる。」

沖田「じゃあ今回もその亭でいきます?」

土方「もう二度とお前に配役は任せねぇよ」

沖田「えー、まあ別にいいですけど。」



近藤「前回は桃太郎で好評だったが、今回もやはり子供に分かりやすい話の方がいいだろうか」

広間で集められた面々は、近藤と土方の口から再び演劇をすると聞き口元を引きつらせた。
それに何もわからず首を傾げたのは雪村のみ。おばあさん役から逃げた山南や、語り部としてあの惨事で土方たちの間に挟まれ苦労した斎藤や、裏方として音響や舞台設置に回っていた原田と永倉もまた、演劇が終わった後を知っている為苦笑いするしかできずにいた。」

土方「山南さん…頼むから途中で降りないでくれよ…」

山南「私は沖田君から、私にぴったりの配役があるからと言われただけなのです。思えばあの時確認すればよかったのですがね。当日言われるままに舞台裏に向かえばやる役はおばあさんの役、しかも割烹着やら頭には手ぬぐいまで負けと言うんですよ。逃げるしかないじゃないですか」

土方「そのせいで俺がその恰好させられたんだぞ」

山南「それは……災難でしたね」

あの日、劇中には描かれなかったが舞台袖から現れた割烹着に手ぬぐいを頭に巻いた、それも髪を可愛らしくまとめ上げられていた土方に、子供たちからは笑い声が上がった。

土方「とにかくだ、近藤さん。雪村抜きの俺たちでやるんなら男が主役の作品にしてくれ」

近藤「言ってなかったか?今のところ候補で上がってきているのは「赤ずきんちゃん」と「親指姫」だ。」

土方「何で寄りにもよって女が主人公の演劇ばかり選んでくるんだ…?「赤ずきんちゃん」なんてあれ猟師以外全員女だろうが。新選組がやる劇じゃねぇ。」

近藤「困ったなぁ…これはお偉いさんからの意見なんだが。子供でも分かりやすい童話と言えばそれくらいだろうとのことだ。それか南蛮のものにするか?」

沖田「南蛮のものだと何があるんです?」

近藤「向こうでは「グリム童話」というものが主流らしいぞ。それなら男役も多少あるだろう。だが日本の童話と違って、いちから覚える事になるが…」

沖田「へぇ、いちから覚えるんですね。もう当日まで長くないのに」

土方「わかった!…2つの候補のどっちかでいい。ただ俺はもう女役だけはしねぇ。それだけは譲らねぇからな」

沖田「わかってますって。ねー近藤さん」

近藤「いやぁよかった!私は台本の方考えてみるから、総司、また配役の方頼むぞ。もとはと言えばあの配役を考えてくれた総司の功績だからな。」

土方「な…っ!?近藤さん、そりゃ」

沖田「近藤さんに褒められちゃやるしかないですよね。頑張って考えますね、僕」

それは、いい笑顔で土方の方を見ながら言った沖田に、土方は顔が青ざめた。
彼が自身に対してそのような笑顔を向ける時は、毎回ろくなことがないからだ。

どうする土方、どうする!


つづく
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