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昔々、瀬戸内のある島におじいさんとおばあさんが住んでいた。
二人は慎ましいながらも正直に気立てよく暮らす、仲睦まじい夫婦だと、集落の中では少し有名なおしどり夫婦であった。
じいさんは毎日欠かすことなく朝から山へ芝刈りに行くのが習慣だった。朝は山へ芝刈りに行き夕方になると、老人一人で集めたとは思えないほどの芝を持って帰ってくる。婆さんは婆さんで、庭で畑を作りつつ、近くの川で洗濯をし、夜のご飯を作るといった家の仕事をしていた。
そして、その日もまた普段と変わらぬ一日となるはずだったのだ。
――ばあさんが川で洗濯をしている最中に巨大な桃が流れてこなければ。
「ふう……、なかなか重いもんだねぇ」
畑仕事などで鍛えているとは言えやはりそこは老人。巨大な桃を持って帰ろうと決意し、帰路に着いたはいいものの、やはり想像以上に大変であった。
「それにしても大きい桃じゃねぇ……」
改めてその大きさに感心していたちょうどその時にじいさんが帰ってきた。今日は帰りが珍しく早い。
「ただいま帰った、いやぁ今日は芝がほとんど見つからんかったわい」
「おやおや……、まぁそういう日もありますよ」
落ち込むじいさんを慰めるばあさん。だが、ちょうどそこで今日は慰めるのにちょうどいい土産品があることを思い出した。
「それよりじいさん!じいさん桃が大好物でしたでしょう?」
「ん?あぁー、そうだが?」
「ちょっとこれを見てくださいよっ」
じいさんの背中を軽く押し、桃があるところまで案内する。
さすがに桃好きのじいさんも猪よりも大きい奇妙な桃というのは見たことがないらしく、桃を見たとたん、目を丸くして口をあんぐりと開けた。
「な、なんじゃあこれは!?」
「ねぇ?驚いたでしょう?洗濯中、川を流れていたのですよ」
「なんと珍妙な話じゃな……」
恐る恐る近づくおじいさん。顔を近づけてみれば桃特有の甘い匂いがしてきてじいさんはゴクリと唾を飲み込む。ばあさんはそれを見逃さなかった。
「さっそく食べてみますか?」
「あ?あぁ、そうだな。腐らぬうちにたべぬと」
冷蔵庫などこの時代にはまだない。それに桃好きなじいさんが目の前に巨大な桃を見て食べないでおくのも不可能であった。さっそく、ばあさんが家の中にある中で最も大きい包丁を持ってくる。
「ゆっくり切るのじゃぞ?ばあさん」
「えぇ分かってますとも」
巨大な桃を丁寧に扱うようお願いするおじいさん。だが、このお願いのおかげで命拾いをしたものがある。もし、ここでばあさんが勢いよく包丁を振り下ろしていれば中にいた"彼"は無事ではいなかったであろう。
そう、彼にとってじいさんは命の恩人となった。
さて、ゆっくり丁寧に包丁を下ろしていた婆さんはある異変に気がついた。
「ん……?この桃、中に空間があるようですね」
「空間じゃと?まさか中身だけ虫に食べられてはおらんじゃろうな?」
「そういうわけじゃないと思うんですがねぇ」
そこから婆さんはさらに慎重に包丁を入れることにした。中で何か物音がしたような気がしたからだ。
「どうも中に何かが入っておるようなんですが……」
ばあさんは一旦包丁をおいて桃の中に手をいれて、中のものを取り出すことにした。だが、穴が小さく、なかなかうまく中の"それ"が取り出せない。
「大丈夫か?ばあさん」
「えぇ、あともう少し……」
少し無理矢理にも近くなってきたが、ばあさんは着実にそれを外へと引きずり出す。
「えいやぁ!」
激闘すること数十分。ばあさんはようやく中のものを外に出すことに成功した。
そして、それと同時に二人の耳に聞こえてきたものは。
―――ンギャアアア!ギャアアア!―――
元気な男の子の産声であった。
二人は慎ましいながらも正直に気立てよく暮らす、仲睦まじい夫婦だと、集落の中では少し有名なおしどり夫婦であった。
じいさんは毎日欠かすことなく朝から山へ芝刈りに行くのが習慣だった。朝は山へ芝刈りに行き夕方になると、老人一人で集めたとは思えないほどの芝を持って帰ってくる。婆さんは婆さんで、庭で畑を作りつつ、近くの川で洗濯をし、夜のご飯を作るといった家の仕事をしていた。
そして、その日もまた普段と変わらぬ一日となるはずだったのだ。
――ばあさんが川で洗濯をしている最中に巨大な桃が流れてこなければ。
「ふう……、なかなか重いもんだねぇ」
畑仕事などで鍛えているとは言えやはりそこは老人。巨大な桃を持って帰ろうと決意し、帰路に着いたはいいものの、やはり想像以上に大変であった。
「それにしても大きい桃じゃねぇ……」
改めてその大きさに感心していたちょうどその時にじいさんが帰ってきた。今日は帰りが珍しく早い。
「ただいま帰った、いやぁ今日は芝がほとんど見つからんかったわい」
「おやおや……、まぁそういう日もありますよ」
落ち込むじいさんを慰めるばあさん。だが、ちょうどそこで今日は慰めるのにちょうどいい土産品があることを思い出した。
「それよりじいさん!じいさん桃が大好物でしたでしょう?」
「ん?あぁー、そうだが?」
「ちょっとこれを見てくださいよっ」
じいさんの背中を軽く押し、桃があるところまで案内する。
さすがに桃好きのじいさんも猪よりも大きい奇妙な桃というのは見たことがないらしく、桃を見たとたん、目を丸くして口をあんぐりと開けた。
「な、なんじゃあこれは!?」
「ねぇ?驚いたでしょう?洗濯中、川を流れていたのですよ」
「なんと珍妙な話じゃな……」
恐る恐る近づくおじいさん。顔を近づけてみれば桃特有の甘い匂いがしてきてじいさんはゴクリと唾を飲み込む。ばあさんはそれを見逃さなかった。
「さっそく食べてみますか?」
「あ?あぁ、そうだな。腐らぬうちにたべぬと」
冷蔵庫などこの時代にはまだない。それに桃好きなじいさんが目の前に巨大な桃を見て食べないでおくのも不可能であった。さっそく、ばあさんが家の中にある中で最も大きい包丁を持ってくる。
「ゆっくり切るのじゃぞ?ばあさん」
「えぇ分かってますとも」
巨大な桃を丁寧に扱うようお願いするおじいさん。だが、このお願いのおかげで命拾いをしたものがある。もし、ここでばあさんが勢いよく包丁を振り下ろしていれば中にいた"彼"は無事ではいなかったであろう。
そう、彼にとってじいさんは命の恩人となった。
さて、ゆっくり丁寧に包丁を下ろしていた婆さんはある異変に気がついた。
「ん……?この桃、中に空間があるようですね」
「空間じゃと?まさか中身だけ虫に食べられてはおらんじゃろうな?」
「そういうわけじゃないと思うんですがねぇ」
そこから婆さんはさらに慎重に包丁を入れることにした。中で何か物音がしたような気がしたからだ。
「どうも中に何かが入っておるようなんですが……」
ばあさんは一旦包丁をおいて桃の中に手をいれて、中のものを取り出すことにした。だが、穴が小さく、なかなかうまく中の"それ"が取り出せない。
「大丈夫か?ばあさん」
「えぇ、あともう少し……」
少し無理矢理にも近くなってきたが、ばあさんは着実にそれを外へと引きずり出す。
「えいやぁ!」
激闘すること数十分。ばあさんはようやく中のものを外に出すことに成功した。
そして、それと同時に二人の耳に聞こえてきたものは。
―――ンギャアアア!ギャアアア!―――
元気な男の子の産声であった。
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