遊びに来ました!
これはシシコ座流星群が過ぎ去ってから、1週間ほどたってからの話。
ハルカは今日もポケモンリーグは遊びに来ていた。
「フヨウさん、こんにちはー!」
ハルカが元気よく声をかけると、青色のパレオを着た女性がパッと振り返った。
「あ、ハルカ!今日も遊びに来たの?ミシロタウンから来るの大変じゃない?」
「そんなことないですよ。ラティアスのおかげであっという間です!」
ハルカはそう言って、ダイゴからもらった無限のふえをカバンから出した。
「そっか。あのラティアス、ハルカのこと大好きだから沢山一緒に飛べてうれしいと思うよ。」
「えへへ…。だったらうれしいな。」
ハルカは照れ臭そうにはにかみながら、無限のふえを優しくカバンにしまった。
「絶対にそうだよ!ハルカの優しさをラティアスはちゃーんとわかってるんだから。」
「うん、そうだね。ありがとう、フヨウさん!」
にっこりと微笑むハルカを見て、フヨウも満足そうに頷いた。
「それじゃあ私、ダイゴさんの所に行ってきます。」
「うん、いってらっしゃい。…あ、でも。」
フヨウが手を振りながらぽつりとつぶやく。
「何ですか?」
「うーん…。ま、行けば分かるからいっか!はい、今度こそいってらっしゃーい!」
「え、いってきます…?」
ハルカはフヨウに背中を押され、首を傾げながら部屋を後にした。途中プリムやゲンジとも立ち話をしてから、一際長い廊下を進み、重厚な扉を開け階段を上る。すると椅子に座っている見慣れた背中が目に入ってきた。
「あ、ダイゴさん!」
しかし声をかけても返事がない。ハルカは不思議そうにダイゴのそばへ近づくと、そっと彼の手元をのぞき込んだ。
(あーなるほど…)
ダイゴは手のひらサイズくらいのゴツゴツした石を、これでもかというほど丁寧に磨いていた。
(フヨウさんが言ってたのはこのことだったんだ…)
ハルカが納得するのももっともで、ダイゴが大の石好きなのは周知の事実。珍しい石あらば、世界各地のどこであろうと探しに行ってしまうほどなのだ。
(うーん…どうしよう…)
「えっと、ダイゴさん?」
「………」
ハルカが遠慮気味に声をかけるが、やはり返事はない。代わりに耳に届くのは石を布で磨くキュッキュという音のみ。
(しかたないなぁ。よし!)
ハルカは心の中で気合を入れると、すうっと息を大きく吸い込んだ。
「ダイゴさん!!!」
「わっ!?え?!ハルカちゃん、いつのまに!?」
びくっと肩を揺らして勢いよく振り返ったダイゴは、心底驚いたように目を大きく見開いている。
「あれっ、そんなに驚きました?ダイゴさんがそこまで驚くの珍しいですね。」
普段見ることのできない姿を見れたのが嬉しくて、くすくすと笑って見せると、ダイゴは困ったように苦笑した。
「本当に気が付かなかったんだよ…。ごめんね、石のことになると周りが見えなくなることがあってね…。」
「ふふ、しってますよ。でも忙しいようなら今日の所はかえりましょうか?」
普段からチャンピオンとして多忙な日々を送っているダイゴにとって、石を手入れする時間はとても大切な時間のはずだ。それを邪魔するのはハルカにとっても忍びないことなのだ。
「いや、せっかくきてくれたんだからゆっくりしていくといいよ。石を磨きながらでも会話はできるからね。」
「………」
あやしい。ハルカは一瞬でそう思ったのだ。
~5分後~
「ダイゴさん。」
「………」
ハルカの予想は当たっていた。10分も経たないうちにもう無言になってしまった。
(わかってはいたけど…)
帰らなくてもいいと言われたから、お言葉に甘えてここに居るというのに、引き留めてくれた本人が構ってくれないのでは、ハルカとしても暇を持て余してしまう。ポケモンたちと遊んでいるという手段も考えはしたが、騒がしくしては作業の邪魔になりかねない。
(それにしてもダイゴさんて、どうしてあんなに石が好きなのかな…)
ハルカは部屋の片隅に座り込みながら、ボーっとダイゴの背中を見ながら考える。
(ツワブキ社長も石が好きみたいだし、その影響が一番つよそうだけど)
そう。ダイゴの父であるデボンコーポレーションの社長、ツワブキ・ムクゲもまた珍しい石が好きなことで有名なのだ。カナズミシティにある会社の社長室にまで、わざわざショーケースに石を入れて飾っているほどだ。
(それにダイゴさん。手持ちのポケモンもいわタイプとはがねタイプばかりだし…。でも一番好きなのはきっとはがねタイプよね)
ダイゴがリーグチャンピオンとしてバトルに使うポケモンは、ユレイドルやメレシー、エアームドといったいわやはがねタイプのポケモン。そしてダイゴのポケモンの中でもっとも強いエースが、エスパー、はがねタイプのメタグロスだ。恐ろしいほどに鍛えられている上に、ただでさえ防御力が高く物理攻撃に特化しているというのに、更にはメガシンカまでする、驚異的な存在だ。
(ダイゴさんのメタグロスほんとに強いから、いまだにバトルの時に緊張するんだよね…。いかにメガシンカした後の物理技に当たらずに特殊技を当てられるか…って、今はそんなことよりも、石に夢中なダイゴさんとどう会話をするかよ!)
すっかり自分の世界に浸りかけていたことに気づいたハルカは、慌ててダイゴに会話を続けさせる作戦を考え始めた。
(そうだ!このまえ見たあれの話なら、少しは会話が続くかも…!)
つづく
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