後編
敵の潜伏先と大凡の人数から将軍を狙うであろう場所を絞り込む。
「つっても、これじゃあ此処しかないけどな」
肥前は地図を指差した。
将軍が引き連れた行列が門を通過する時がいちばんの狙い目だ。
上洛の瞬間は衆人環視の的だし、門を通るために隊列が伸びる。
「俺もそこだと思う。もし外れても隊列について歩けばいいだけだしな」
和泉守がニヤリと笑った。
京の街並みは新撰組の刀には庭のようなものだろう。
「それじゃあ、決まりね。明日の朝かに三組に分かれて護衛と見張り」
隊長が間延びした声で言った。
襲撃は予想通りだった。
裏道に張っていた長曽祢が通信機越しに回線を告げる。
大路を挟み反対の小径で大和守と敵の襲撃に備えていた肥前は刀を抜き警戒態勢を取る。
「追跡する。安定は堀川、兼定と合流し、そのまま警護を!肥前は俺たちと来る!」
通信機から加州の鋭い声が響いた。
大和守は指示通りに和泉守、堀川の方へ走っていく。
肥前は舌打ちをし、屋根に登り走った。
将軍の行列を横切らず橋の下を通り合流する。
長曽祢と加州が敵を追っているところだった。
「くっそ、どこ行った!」
立ち止まった長曽祢が汗を拭う。
肥前は建物の隙間に視線を走らせた。
将軍の通る経路と照らし合わせる。
「こっちだ!」
声を上げ走る。
加州が単独行動に非難の声を上げたが無視した。
「何か考えがあるんだろう?」
落ち着いた様子の長曽祢に頷く。
「奴らはまだ襲撃を諦めちゃいない。暗殺なら俺の得意分野だ。どこを使うかわかる」
小径を抜け寺に入った。
道を外れた寺に人気はない。此処を突っ切り大路に出れば将軍の通る経路に行き合う。
「広い場所に出たのは運が良かったんじゃない?」
加州が刀を構えた。
通過までまだ時間がある。
門での暗殺に失敗した時のためにこの寺を合流地点にしていたのだろう。
ゾロゾロと遡行軍が現れた。少なくとも3部隊はいるだほう。
「わあ、三条大橋渡るより多いんじゃないの?これ」
加州が肩を竦めてみせた。
長曽根は獰猛な笑みを浮かべている。
「それじゃ、こーげきかいしー」
気の抜けた声とともに敵に斬りかかる。
「京で暗殺に大太刀って、どー考えても場違いだろ」
肥前はため息をついた。
加州は離れた場所で交戦中だ。
体を反らして大太刀の刃を躱す。
躱してばかりでは敵は倒せない。
開けた場所での戦いが裏目にでるとは。
前哨戦で銃弾を受けた肩が痛む。
視線を走らせる。
近くにいるのは短刀と交戦中の長曽祢だ。
「ちょっと変われ」
「あ?」
長曽祢の横をすり抜け短刀の頭に鋒を突き刺した。
速さなら小柄な肥前の方が上だ。
残るは加州が交戦している太刀と目の前の大太刀のみ。
「おい、アンタ打刀だよな?」
「ああ、そうだ」
「じゃ、アレできるよな?」
アレと、言うと長曽祢が口元を真一文字に結んだ。いけるだろう。
長曽祢が刀を振り上げると同時に肥前は大太刀に斬りかかった。
「「二刀開眼」」
敵の鋒を弾きそのまま懐に入り込む。
顔のすぐ横を長曽祢の刀がすり抜けた。大太刀の喉元に半ばまで刀が突き刺さっている。
長曽祢が刀を横に薙ぐと噴水のように血が吹き出し、遡行軍はそのままチリとなって消えた。
「さすがは大業物だ」
長曽祢の言葉に顔を顰める。
「トドメ刺したのはアンタだ」
「大事なのは俺とお前が倒したと言う結果だけだ。肥前忠広」
相好を崩した長曽祢に対し、顔を顰める。
「ねえ、そっち終わったぁ?」
間の抜けた声に顔を上げると戦闘を終えた加州が刀を納めながらこちらに歩いてきた。
「大活躍じゃん。お前が味方でよかったよ」
加州が大和守達の居場所を端末で確認しながら笑った。
「確かに敵だったら厄介だな」
長曽祢の言葉に肥前はまた顔を顰める。
「ふん、嬉しくねーよ」
厄介なだけだ。
厄介であろうと自分に勝つ気でいるものに言われても褒められた気がしない。
「それに、今は同じ主の刀なんだろ」
「それもそうだね」
嬉しそうに笑った加州に肥前は肩を竦めた。
その拍子に撃たれた方が痛んだ。
「なあ、アンタ」
加州が護衛に残った男士に連絡を取っているのを確認し肥前は声をかけた。
長曽祢が振り向く。白黒のだんだらの羽織には血が付いている。
「アンタ、俺を疑わなかったのか?」
敵を追跡する時も、二刀開眼の時もそうだった。長曽祢の動きに迷いも疑いもなかった。
「お前の元の主人もお前自身も俺は認めているからな。それに今は味方同士だ」
「随分と都合が良いんだな」
そんなに簡単に信用できるものだろうか。
元の主人が敵同士であるばかりか、政府から派遣された刀剣男士である自分を。
眉を寄せる肥前に長曽祢は笑った。
「お前は思ったよりも人間臭いな」
「は?」
思っても見なかった言葉に肥前はポカンと口を開けた。
「一時はどうなることかと思ったけど。案外うまくいったね」
「当然だろ」
「僕は兼さんのことが一番心配だったんだけどね」
本丸に入り母屋へ向かうと各々が口を開いた。
「俺は主に報告してくるから、怪我したやつは手入部屋に入っててよ」
怪我人は肥前と長曽祢の二人だ。
加州自身も細かな傷があるので後で手入が必要になるだろう。
隊を離れ、主のいる奥の間へ向かう。
「肥前の!」
鋭い声に振り向くと陸奥守が肥前を呼び止めてい流のが見えた。
親しげに肩を組もうとする陸奥守の手を肥前が煩わしげに払っている。
それを見て和泉守や長曽祢が陸奥守を冷やかしていた。
「さて、主に報告してきますか」
加州はため息をつき頬を緩めた。
「アンタの見立て通りだったってね」
「つっても、これじゃあ此処しかないけどな」
肥前は地図を指差した。
将軍が引き連れた行列が門を通過する時がいちばんの狙い目だ。
上洛の瞬間は衆人環視の的だし、門を通るために隊列が伸びる。
「俺もそこだと思う。もし外れても隊列について歩けばいいだけだしな」
和泉守がニヤリと笑った。
京の街並みは新撰組の刀には庭のようなものだろう。
「それじゃあ、決まりね。明日の朝かに三組に分かれて護衛と見張り」
隊長が間延びした声で言った。
襲撃は予想通りだった。
裏道に張っていた長曽祢が通信機越しに回線を告げる。
大路を挟み反対の小径で大和守と敵の襲撃に備えていた肥前は刀を抜き警戒態勢を取る。
「追跡する。安定は堀川、兼定と合流し、そのまま警護を!肥前は俺たちと来る!」
通信機から加州の鋭い声が響いた。
大和守は指示通りに和泉守、堀川の方へ走っていく。
肥前は舌打ちをし、屋根に登り走った。
将軍の行列を横切らず橋の下を通り合流する。
長曽祢と加州が敵を追っているところだった。
「くっそ、どこ行った!」
立ち止まった長曽祢が汗を拭う。
肥前は建物の隙間に視線を走らせた。
将軍の通る経路と照らし合わせる。
「こっちだ!」
声を上げ走る。
加州が単独行動に非難の声を上げたが無視した。
「何か考えがあるんだろう?」
落ち着いた様子の長曽祢に頷く。
「奴らはまだ襲撃を諦めちゃいない。暗殺なら俺の得意分野だ。どこを使うかわかる」
小径を抜け寺に入った。
道を外れた寺に人気はない。此処を突っ切り大路に出れば将軍の通る経路に行き合う。
「広い場所に出たのは運が良かったんじゃない?」
加州が刀を構えた。
通過までまだ時間がある。
門での暗殺に失敗した時のためにこの寺を合流地点にしていたのだろう。
ゾロゾロと遡行軍が現れた。少なくとも3部隊はいるだほう。
「わあ、三条大橋渡るより多いんじゃないの?これ」
加州が肩を竦めてみせた。
長曽根は獰猛な笑みを浮かべている。
「それじゃ、こーげきかいしー」
気の抜けた声とともに敵に斬りかかる。
「京で暗殺に大太刀って、どー考えても場違いだろ」
肥前はため息をついた。
加州は離れた場所で交戦中だ。
体を反らして大太刀の刃を躱す。
躱してばかりでは敵は倒せない。
開けた場所での戦いが裏目にでるとは。
前哨戦で銃弾を受けた肩が痛む。
視線を走らせる。
近くにいるのは短刀と交戦中の長曽祢だ。
「ちょっと変われ」
「あ?」
長曽祢の横をすり抜け短刀の頭に鋒を突き刺した。
速さなら小柄な肥前の方が上だ。
残るは加州が交戦している太刀と目の前の大太刀のみ。
「おい、アンタ打刀だよな?」
「ああ、そうだ」
「じゃ、アレできるよな?」
アレと、言うと長曽祢が口元を真一文字に結んだ。いけるだろう。
長曽祢が刀を振り上げると同時に肥前は大太刀に斬りかかった。
「「二刀開眼」」
敵の鋒を弾きそのまま懐に入り込む。
顔のすぐ横を長曽祢の刀がすり抜けた。大太刀の喉元に半ばまで刀が突き刺さっている。
長曽祢が刀を横に薙ぐと噴水のように血が吹き出し、遡行軍はそのままチリとなって消えた。
「さすがは大業物だ」
長曽祢の言葉に顔を顰める。
「トドメ刺したのはアンタだ」
「大事なのは俺とお前が倒したと言う結果だけだ。肥前忠広」
相好を崩した長曽祢に対し、顔を顰める。
「ねえ、そっち終わったぁ?」
間の抜けた声に顔を上げると戦闘を終えた加州が刀を納めながらこちらに歩いてきた。
「大活躍じゃん。お前が味方でよかったよ」
加州が大和守達の居場所を端末で確認しながら笑った。
「確かに敵だったら厄介だな」
長曽祢の言葉に肥前はまた顔を顰める。
「ふん、嬉しくねーよ」
厄介なだけだ。
厄介であろうと自分に勝つ気でいるものに言われても褒められた気がしない。
「それに、今は同じ主の刀なんだろ」
「それもそうだね」
嬉しそうに笑った加州に肥前は肩を竦めた。
その拍子に撃たれた方が痛んだ。
「なあ、アンタ」
加州が護衛に残った男士に連絡を取っているのを確認し肥前は声をかけた。
長曽祢が振り向く。白黒のだんだらの羽織には血が付いている。
「アンタ、俺を疑わなかったのか?」
敵を追跡する時も、二刀開眼の時もそうだった。長曽祢の動きに迷いも疑いもなかった。
「お前の元の主人もお前自身も俺は認めているからな。それに今は味方同士だ」
「随分と都合が良いんだな」
そんなに簡単に信用できるものだろうか。
元の主人が敵同士であるばかりか、政府から派遣された刀剣男士である自分を。
眉を寄せる肥前に長曽祢は笑った。
「お前は思ったよりも人間臭いな」
「は?」
思っても見なかった言葉に肥前はポカンと口を開けた。
「一時はどうなることかと思ったけど。案外うまくいったね」
「当然だろ」
「僕は兼さんのことが一番心配だったんだけどね」
本丸に入り母屋へ向かうと各々が口を開いた。
「俺は主に報告してくるから、怪我したやつは手入部屋に入っててよ」
怪我人は肥前と長曽祢の二人だ。
加州自身も細かな傷があるので後で手入が必要になるだろう。
隊を離れ、主のいる奥の間へ向かう。
「肥前の!」
鋭い声に振り向くと陸奥守が肥前を呼び止めてい流のが見えた。
親しげに肩を組もうとする陸奥守の手を肥前が煩わしげに払っている。
それを見て和泉守や長曽祢が陸奥守を冷やかしていた。
「さて、主に報告してきますか」
加州はため息をつき頬を緩めた。
「アンタの見立て通りだったってね」
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