二十七章 決行
「思いのほか、簡単に手に入れられましたわ」
にっこりと微笑みながらクラウディアを訪ねてきたタリアは言う。
手に持っていたものを差し出されたクラウディアは、それを見て納得した。
「これって、機械仕掛けの遠隔操作ね」
「リモコンというようですわね。城を改築した時に最先端技術を取り入れたとか、軍事用のなにかを改良したとかおっしゃってましたわ」
「大事なものよね。持ってきてしまって大丈夫なの?」
「こういうものには予備というものが存在します。それに、わたくしは元々工作員をしていましたのよ? こういうのは得意分野ですわ。それに、機械は便利ですがその分繊細で壊れやすいものです。耐久性を重視すれば小型化には不向きです。このリモコンというものは手のひらに収まる大きさ、耐久性はないでしょう。不都合が突然起きたとしても想定内ではないでしょうか。予備をいくつか用意していると断言できますので、紛失したことについても深く追求はしないと思います。そうですわね、酔ったまま湯浴みをした際、水に濡らしてしまったように見せかけてごまかしますわ」
「……タリアがそういうのだから、大丈夫なんだよね。うん、信じる。それで、いつ決行?」
「今夜ですわ」
「今夜だって? ばかな、無理に決まっている!」
突然、ダジュールが声をあげる。
するとタリアとクラウディアが揃って「静かに」と諭した。
「すまない。だが、無理だ。自慢じゃないが、俺には忍び込むという芸当はできない。どうしたってクラウディアに頼るしかない。だが、そのクラウディアはまだ完治していないんだぞ」
「それなら平気」
「ばか、平気じゃないだろう。まだ包帯もとれない、肌にはいくつもの生々しいキズとアザがある」
「確かに、クラウディア様に無理強いをさせることになりますわ。だからというわけではありませんが、良質の痛み止めを出していただきました」
と、二錠の白い玉を差し出す。
「わたくしも同行いたしますので、クラウディア様のことは大丈夫ですわ。なにがあっても、クラウディア様にケガなどはさせません」
「じゃあ、タリアがやればいいんじゃないか?」
「そうですわね。ですが、わたくしでは本物のカーラ二世を説得することはできません。彼を味方にするには、マリアンヌ様かリリシア様、つまりクラウディア様でないとダメなのです。そのあたりは、本物の帝王がマリアンヌ様に抱くお気持ち、今のダジュール様ならご理解できるのではないですか?」
「つまり、好き、だったのか?」
しかし、タリアはなにも言わない。
言わないことがその推測が当たっていると言っているようなものだった。
「だとしたら、なぜ他国に嫁がせたりする?」
「それが王族というものですから。女は政治のために利用される。それをマリアンヌ様はご理解されておりました。せめて、できるだけよい環境のところにと配慮したのは、カーラ二世なりの気配りだったのかと。あの頃のカルミラは本当に平穏でこれから先もずっとそれが続くと思われていました。なぜなら、それだけ資源が豊富で加工する技術が進んでいたからです。他国を攻めなくても自国だけでやっていけるのではないか、独立の話も出ましたが、それで今までの関係が壊れ争いになるくらいなら、現状でいいのではないか、長老たちはそうやって国をまとめ、若い王を必死に守っていましたから」
さらに、周りを海で囲まれた離れ小島の国であったことから、敵に攻め込まれにくいということも、嫁ぎ先に選ばれた理由ではないかとタリアは話した。
その話を聞き、ダジュールも王室育ちと言うことで何か思い当たることでもあったのだろう。
「そうか。どうにもならないことも受け入れなくてはならないのだな、王というものは」
この先、もし姫が生まれれば大切に育てても政治のために他国に嫁がせる日がやってくる。
そんなことをしなくても平和が続く国づくりを、世界作りをしていかなくてはならないのだと、強く感じた。
「わかった。ここはふたりの任せる。俺はなにをしたらいい? 女ふたりが体を張っているというのに、俺がただ待つだけというのもな」
「それでしたら、しばしの間、偽のカーラ二世を足止めしていてくださいませんか?」
「足止めか、どうすればいい?」
「お酒をよく飲まれますし、かなりお好きですので、なにか珍しいお酒でもあればよいのですが」
ダジュールはレイバラルからかなりの贈り物を用意して持ち込んでいた。
半分以上、帝王への挨拶代わりに差し出してしまっているが、いつどんな時に出会いがあるかわからないので、残しておいたものもある。
「たしか、レイバラル産の酒があったな。わかった、それをいくつか持ってしょうもない話でもして足止めをする。だが、俺はあまりそういうのが得意じゃない。朝方までは持ちそうにない」
「大丈夫ですわ。それほど時間をかけずに遂行いたしますので」
そして夜がやってくる。
晩餐会とまではいかないが、多くの来客との会食スタイルになった夕食、ケガをしたクラウディアも同席したことで周りの心象もいい。
みな機嫌よく、話もはずみ酒も進む。
頃合いを見て、完治していない妻を休ませていいだろうかと進言してみるとあっさりと許される。
クラウディアが退室したのを確認すると、ダジュールは実は……と切り出し、国産のお酒があるのですが、と進めてみた。
案の定、なぜそれを先に言わないのかとせっつかれ、食事から宴へと変わっていった。
にっこりと微笑みながらクラウディアを訪ねてきたタリアは言う。
手に持っていたものを差し出されたクラウディアは、それを見て納得した。
「これって、機械仕掛けの遠隔操作ね」
「リモコンというようですわね。城を改築した時に最先端技術を取り入れたとか、軍事用のなにかを改良したとかおっしゃってましたわ」
「大事なものよね。持ってきてしまって大丈夫なの?」
「こういうものには予備というものが存在します。それに、わたくしは元々工作員をしていましたのよ? こういうのは得意分野ですわ。それに、機械は便利ですがその分繊細で壊れやすいものです。耐久性を重視すれば小型化には不向きです。このリモコンというものは手のひらに収まる大きさ、耐久性はないでしょう。不都合が突然起きたとしても想定内ではないでしょうか。予備をいくつか用意していると断言できますので、紛失したことについても深く追求はしないと思います。そうですわね、酔ったまま湯浴みをした際、水に濡らしてしまったように見せかけてごまかしますわ」
「……タリアがそういうのだから、大丈夫なんだよね。うん、信じる。それで、いつ決行?」
「今夜ですわ」
「今夜だって? ばかな、無理に決まっている!」
突然、ダジュールが声をあげる。
するとタリアとクラウディアが揃って「静かに」と諭した。
「すまない。だが、無理だ。自慢じゃないが、俺には忍び込むという芸当はできない。どうしたってクラウディアに頼るしかない。だが、そのクラウディアはまだ完治していないんだぞ」
「それなら平気」
「ばか、平気じゃないだろう。まだ包帯もとれない、肌にはいくつもの生々しいキズとアザがある」
「確かに、クラウディア様に無理強いをさせることになりますわ。だからというわけではありませんが、良質の痛み止めを出していただきました」
と、二錠の白い玉を差し出す。
「わたくしも同行いたしますので、クラウディア様のことは大丈夫ですわ。なにがあっても、クラウディア様にケガなどはさせません」
「じゃあ、タリアがやればいいんじゃないか?」
「そうですわね。ですが、わたくしでは本物のカーラ二世を説得することはできません。彼を味方にするには、マリアンヌ様かリリシア様、つまりクラウディア様でないとダメなのです。そのあたりは、本物の帝王がマリアンヌ様に抱くお気持ち、今のダジュール様ならご理解できるのではないですか?」
「つまり、好き、だったのか?」
しかし、タリアはなにも言わない。
言わないことがその推測が当たっていると言っているようなものだった。
「だとしたら、なぜ他国に嫁がせたりする?」
「それが王族というものですから。女は政治のために利用される。それをマリアンヌ様はご理解されておりました。せめて、できるだけよい環境のところにと配慮したのは、カーラ二世なりの気配りだったのかと。あの頃のカルミラは本当に平穏でこれから先もずっとそれが続くと思われていました。なぜなら、それだけ資源が豊富で加工する技術が進んでいたからです。他国を攻めなくても自国だけでやっていけるのではないか、独立の話も出ましたが、それで今までの関係が壊れ争いになるくらいなら、現状でいいのではないか、長老たちはそうやって国をまとめ、若い王を必死に守っていましたから」
さらに、周りを海で囲まれた離れ小島の国であったことから、敵に攻め込まれにくいということも、嫁ぎ先に選ばれた理由ではないかとタリアは話した。
その話を聞き、ダジュールも王室育ちと言うことで何か思い当たることでもあったのだろう。
「そうか。どうにもならないことも受け入れなくてはならないのだな、王というものは」
この先、もし姫が生まれれば大切に育てても政治のために他国に嫁がせる日がやってくる。
そんなことをしなくても平和が続く国づくりを、世界作りをしていかなくてはならないのだと、強く感じた。
「わかった。ここはふたりの任せる。俺はなにをしたらいい? 女ふたりが体を張っているというのに、俺がただ待つだけというのもな」
「それでしたら、しばしの間、偽のカーラ二世を足止めしていてくださいませんか?」
「足止めか、どうすればいい?」
「お酒をよく飲まれますし、かなりお好きですので、なにか珍しいお酒でもあればよいのですが」
ダジュールはレイバラルからかなりの贈り物を用意して持ち込んでいた。
半分以上、帝王への挨拶代わりに差し出してしまっているが、いつどんな時に出会いがあるかわからないので、残しておいたものもある。
「たしか、レイバラル産の酒があったな。わかった、それをいくつか持ってしょうもない話でもして足止めをする。だが、俺はあまりそういうのが得意じゃない。朝方までは持ちそうにない」
「大丈夫ですわ。それほど時間をかけずに遂行いたしますので」
そして夜がやってくる。
晩餐会とまではいかないが、多くの来客との会食スタイルになった夕食、ケガをしたクラウディアも同席したことで周りの心象もいい。
みな機嫌よく、話もはずみ酒も進む。
頃合いを見て、完治していない妻を休ませていいだろうかと進言してみるとあっさりと許される。
クラウディアが退室したのを確認すると、ダジュールは実は……と切り出し、国産のお酒があるのですが、と進めてみた。
案の定、なぜそれを先に言わないのかとせっつかれ、食事から宴へと変わっていった。
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