第六十話 バス通トーク
『……時間的に、アレが乗るべきバスだろうな。蓮、城ヶ崎、バスが来ている。さっさとバス停に行こうぜ』
「うん。遅れると大変だもんね。そして、今、私、ちょっとだけ走りたい気持ちがあるんだよ、仮免・怪盗として、脚力ぐらい鍛えておきたいよーな気持ちになってる!」
『前向きでいいコトだけど、転けちゃ危ないから止めておけ』
「そう?そうだよね、二日連続でケガするのも、バカ過ぎるもんね」
「……捻挫は?」
「ん。大丈夫。痛みは完全に無い」
「そうか」
『応急処置が早かったおかげだな。だが、ケガしたばかりの脚で走り回るもんじゃない』
「だよねー」
『幸い、バスに乗るヤツが何人もいる。ちょっと急ぎ足で行けば問題はないさ』
モルガナの言う通りだった。少しばかりの早歩きで、バスに乗り遅れることはなかった。車内は聖心ミカエル学園の生徒と年寄りでいっぱいだ。狭苦しいが、城ヶ崎シャーロットのための座席は確保することが出来た。
「悪いねー、私ばっかり。レンレンはモルガナも背負っているのになー」
「いいんだ」
「紳士。レンレンってば、本当に紳士だね。下心とか、ある?」
「あるかもな」
「うわ。ハッキリと言われちゃった。ど、どんなお返しを要求されちゃうのか、シャーさん、ドキドキするよう……っ」
『……はあ。そういうの自分の口で言わない方が良いと思うぜ』
「そうかな?」
『照れた顔してうつむいてるぐらいが丁度いい』
「モルガナ恋愛講座だっ。男の子目線だから、勉強になりそうっ。男の欲望は、乙女にはイマイチ分からないからね!」
「それは良かったな」
「うわ。レンレン、興味低くない?もっと、シャーさんの乙女心に興味津々モードでもいいと思うんですけれど?」
『どこか残念な雰囲気を持っているんだよな、城ヶ崎は』
「残念……っ。むう、ときどき、お耳に入って来る単語だなぁ……」
バスの窓から晴れた朝の空を見つめながら、城ヶ崎シャーロットは憂いの表情を浮かべていた。残念、美少女に生まれてしまった城ヶ崎シャーロットには、どうしてだかその評価が付きまとう。オタクだからだろうか?
……いや、オタクが売りのアイドルだっているわけだし、どうなのかしら。
「……そもそも世界で一番のアニメや漫画オタクの国だし、そこら中にオタクとかいるわけだし……」
『何をブツブツ言っているんだよ?』
「え?……クールジャパンについて考察しているの」
『もう今年は受験生なんだから、アホなこと考えているなよ?単語帳でもチェックしていたら良いんじゃないのか?勉強用のアプリとかもあるんだろ?』
「マジメだ」
『悪いか?せっかく、勉強することが出来る機会を与えられているんだ。しっかりとこなせよ。蓮なんて、かなり勉強が出来るぞ』
「レンレン、眼鏡っ子だもんね。知性の象徴、眼鏡をかけているもんね!」
「まあな」
『まあな、じゃねーし!眼鏡どうこうじゃなくて、ちゃんと集中して勉強しているかどうかだ』
「大丈夫。英語だけは得意だから、大丈夫」
「さすがは帰国子女だな」
『……杏殿と同じパターンか。帰国子女って、基本的に賢そうなイメージなんだがな……』
「ヒトはヒト、自分は自分だよ」
『前向きに己の不甲斐なさを肯定するもんじゃねーぞ……』
「モルガナはマジメだよね。でも、分かってる。シャーさんも勉強しなくちゃね!……レンレン、勉強とか教えて」
「いいぞ」
「やった。あ。ちゃんと、私も報酬を支払うからね!」
「エッチなヤツか」
「うひゃあ!ま、真顔で言わないで!?ち、ちがうからね!?」
「そうか」
「冷静だな、もう。ホント、シャーさんの乙女心、弄ばれている……っ。ほ、報酬っていうのはね、そうじゃなくて、喫茶レンレンの出来をレポートするバイト!」
「どういうことだ?」
「レンレンの淹れてくれるコーヒーとか、レンレンの接客態度に対して、私が受けた印象を逐一報告するんだよ。そしたら、レンレンの喫茶店スキルに磨きがかかるじゃない」
『……つまり、城ヶ崎は蓮に接待されるだけじゃないのか?』
「ち、ちがいます。ちゃんと、レンレンに還元することになりますから?き、貴重じゃありませんか?私みたいな現役女子高生による、生の意見をfeedbackすることにより、素敵なskill upが可能となっちゃうんですよ!」
『うう。会話に混じる英単語の発音が良いと、一瞬、賢そうに聞こえるなぁ……』
「そうだな」
「ダメ?」
「構わない。だが、勉強もしっかりするぞ」
「は、はい。お手柔らかにお願いします。ワタクシ、不得意科目多イデアリマース……」
『いきなり片言になるなよ?』
「いえ、ハーフですもの。そんなことになっちゃうことだってありますよね?」
「普段のしゃべり方のほうが可愛い」
「ぐはっ!?……レンレン、真顔で見つめながら言うから、ズルい、照れちゃう……さすが、そこそこモテモテのレンレンだぜ……ッ」
『もっと可愛く照れることが出来たら、城ヶ崎はモテモテなんだろうに。不憫な子だぜ』
「ふ、不憫って言われた……っ。うー、いいもん。本当の私を好きになってくれる子を選ぶもん!」
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