第三話 目立ちたいモナ
『……我が輩は、もっと世間サマに愛されるべき可愛さがあると思うのだ』
モルガナはそんな主張を、錆び付いた自転車のチェーンにささやいていた。しばらく放置されていたのだろう。
『あーあ……やはり、このあいだ確認したとおり、かなり錆び付いてしまっているじゃないか……』
モルガナはこういう錆び付いてしまった道具を見ると、何だか心が切なくなってしまう。実力を発揮することが出来ていないアイテム……錆び付いてしまった『可能性』……それを見ることが、残念でならない。
モルガナという存在の本質は、可能性を見つけ出し、それを大いなる成長へと導くことでもある。それはかつて与えられていた使命であったが、今は、そうではない。その役目からは開放されてはいる。
だが、本質というものか、あるいは単純に性格と言ってしまえばいいのか……モルガナは、やはり錆び付いている可能性を見ると、勿体なく思えてしかたがなかった。
青い瞳を細めて、じーっと観察を深めていく……錆びてはいる。だが……しかし、フレームまでは痛んではいない。古い型ではあるが、かなりの高級品の臭いがする。
『我が輩には分かるぞ、この品はおそらく父上殿の品。思い入れは、それほど無いようだが……質がいい。二年ぐらいは放置されているのかもしれないが……なあに、コレぐらいの錆なら、すっかりと落として、キレイにすれば問題はない。よく走れるようになるさ』
錆取りスプレーを肉球でプシューと押しながら、モルガナはもう片方の肉球を用いて、チェーンを回して行くのだ。
最初はぎこちなく回転してが、すぐにシュルシュルと小気味よく回転するようになった。
モルガナに猫の口が、ニンマリと曲がる。笑う猫が見せる、深淵なる計算高さを発揮しながら、モルガナは自分の可愛さを分析していた。
『いける。この無邪気に、ペダルを肉球で押して、可愛らしくはしゃぐ我が輩……うおおお。間違いなく、女子ウケが高いはずだ。この動画を撮ってもらい、双葉経由で、怪盗団の女子に送信してもらえば……我が輩の人気、うなぎ登りは間違いなし!!』
興奮したモルガナは、ニャオニャオと叫びながら、必死になってペダルを肉球で回していた。
「……モナ?」
『……っ!?……な、なんだ、蓮か……いきなり、作業中の我が輩に、背後から声をかけるんじゃない……危ないからな。色々と』
「危ない?」
『……肉球を、はさんだりしちゃうかもしれないだろう!?』
「そうか。無事か?」
『う、うむ。無事だ。すまんな、心配をかけて……』
「大丈夫だ。とにかく、弁当が出来たぞ」
『あ、ああ。こっちの方も、見てくれ……スムーズにペダルもチェーンも回っている。この調子では、何なら今からでも乗っていけなくもないが……ヨゴレを落としている時間がないから、後日にしよう』
「そうだな。朝食にするぞ」
『トーストか?』
「そうだ」
『バターをたっぷりで頼むぞ。我が輩は、バターが好きなのだから』
「わかっている」
おしゃべりなモルガナを引き連れて、雨宮蓮は朝食へと向かう。モルガナは、廊下を歩くあいだは静かであったが、やがて口を開いた。
『……その、さっきのは、冗談だからな?』
「……双葉には送るぞ」
『……え?』
「安心しろ。動画、撮っておいたから。セリフもついている」
『や、やめろ!!あのあざといセリフがついていたら、何もかもが台無しだあ!!作った可愛さだとバレたとき、女子は我が輩に冷たい視線を向けるんだよ。女子は、あざとさに対してジャッジが辛目なんだー!!』
「そうなのか。勉強になった」
『……そうなのだから、頼むから……セリフの部分は、送らないようにしてくれ。我が輩の可愛いシーンだけを、双葉に動画サイトに投稿しろと伝えてくれると助かる』
「それで助かるなら、助けてやろう」
『ああ!……これで、我が輩も、可愛い猫たちの仲間入りだ。イイネ!がいっぱい。多くの女子たちから、可愛い可愛い言われる、アイドルになるんだ!』
モルガナは、あの青い瞳を夢見がちに潤ませているように見えた。動画越しに多くの女子たちに愛でられる自分を、スター扱いしているのかもしれない。
雨宮蓮には、やはり疑問が生じてしまう。
「猫扱いされるは、いいのか?」
『……ああ。世間にどう見られても、自分が猫でないことは、自分がよく分かっている。だから褒められる分は、受け止めることにしたのだ』
モルガナはそう断言しながら、頭を少し高い姿勢へと変えていた。おそらく、胸を張っているのだろう。
「……自由だな」
『そうだ。我が輩は、とても自由な存在なのである。名前は、モルガナ』
「知っている。とにかく、朝食を食べよう」
『おう!食べるぞー、たーっぷりのバターを!』
モルガナはそんな主張を、錆び付いた自転車のチェーンにささやいていた。しばらく放置されていたのだろう。
『あーあ……やはり、このあいだ確認したとおり、かなり錆び付いてしまっているじゃないか……』
モルガナはこういう錆び付いてしまった道具を見ると、何だか心が切なくなってしまう。実力を発揮することが出来ていないアイテム……錆び付いてしまった『可能性』……それを見ることが、残念でならない。
モルガナという存在の本質は、可能性を見つけ出し、それを大いなる成長へと導くことでもある。それはかつて与えられていた使命であったが、今は、そうではない。その役目からは開放されてはいる。
だが、本質というものか、あるいは単純に性格と言ってしまえばいいのか……モルガナは、やはり錆び付いている可能性を見ると、勿体なく思えてしかたがなかった。
青い瞳を細めて、じーっと観察を深めていく……錆びてはいる。だが……しかし、フレームまでは痛んではいない。古い型ではあるが、かなりの高級品の臭いがする。
『我が輩には分かるぞ、この品はおそらく父上殿の品。思い入れは、それほど無いようだが……質がいい。二年ぐらいは放置されているのかもしれないが……なあに、コレぐらいの錆なら、すっかりと落として、キレイにすれば問題はない。よく走れるようになるさ』
錆取りスプレーを肉球でプシューと押しながら、モルガナはもう片方の肉球を用いて、チェーンを回して行くのだ。
最初はぎこちなく回転してが、すぐにシュルシュルと小気味よく回転するようになった。
モルガナに猫の口が、ニンマリと曲がる。笑う猫が見せる、深淵なる計算高さを発揮しながら、モルガナは自分の可愛さを分析していた。
『いける。この無邪気に、ペダルを肉球で押して、可愛らしくはしゃぐ我が輩……うおおお。間違いなく、女子ウケが高いはずだ。この動画を撮ってもらい、双葉経由で、怪盗団の女子に送信してもらえば……我が輩の人気、うなぎ登りは間違いなし!!』
興奮したモルガナは、ニャオニャオと叫びながら、必死になってペダルを肉球で回していた。
「……モナ?」
『……っ!?……な、なんだ、蓮か……いきなり、作業中の我が輩に、背後から声をかけるんじゃない……危ないからな。色々と』
「危ない?」
『……肉球を、はさんだりしちゃうかもしれないだろう!?』
「そうか。無事か?」
『う、うむ。無事だ。すまんな、心配をかけて……』
「大丈夫だ。とにかく、弁当が出来たぞ」
『あ、ああ。こっちの方も、見てくれ……スムーズにペダルもチェーンも回っている。この調子では、何なら今からでも乗っていけなくもないが……ヨゴレを落としている時間がないから、後日にしよう』
「そうだな。朝食にするぞ」
『トーストか?』
「そうだ」
『バターをたっぷりで頼むぞ。我が輩は、バターが好きなのだから』
「わかっている」
おしゃべりなモルガナを引き連れて、雨宮蓮は朝食へと向かう。モルガナは、廊下を歩くあいだは静かであったが、やがて口を開いた。
『……その、さっきのは、冗談だからな?』
「……双葉には送るぞ」
『……え?』
「安心しろ。動画、撮っておいたから。セリフもついている」
『や、やめろ!!あのあざといセリフがついていたら、何もかもが台無しだあ!!作った可愛さだとバレたとき、女子は我が輩に冷たい視線を向けるんだよ。女子は、あざとさに対してジャッジが辛目なんだー!!』
「そうなのか。勉強になった」
『……そうなのだから、頼むから……セリフの部分は、送らないようにしてくれ。我が輩の可愛いシーンだけを、双葉に動画サイトに投稿しろと伝えてくれると助かる』
「それで助かるなら、助けてやろう」
『ああ!……これで、我が輩も、可愛い猫たちの仲間入りだ。イイネ!がいっぱい。多くの女子たちから、可愛い可愛い言われる、アイドルになるんだ!』
モルガナは、あの青い瞳を夢見がちに潤ませているように見えた。動画越しに多くの女子たちに愛でられる自分を、スター扱いしているのかもしれない。
雨宮蓮には、やはり疑問が生じてしまう。
「猫扱いされるは、いいのか?」
『……ああ。世間にどう見られても、自分が猫でないことは、自分がよく分かっている。だから褒められる分は、受け止めることにしたのだ』
モルガナはそう断言しながら、頭を少し高い姿勢へと変えていた。おそらく、胸を張っているのだろう。
「……自由だな」
『そうだ。我が輩は、とても自由な存在なのである。名前は、モルガナ』
「知っている。とにかく、朝食を食べよう」
『おう!食べるぞー、たーっぷりのバターを!』
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