平穏を過ごす
昼休みを終えての授業中。特に面白みのない授業を受けている。眼鏡をかけている教師の静かな説明は、人によっては退屈かもしれない。
ふと、セイバーから念話が入ってきた。
『シロウ、暇です』
率直な発言だった。欠伸する姿が見えるような。勉強嫌いらしい言葉に思える。彼女らしさすら感じているから、妙に面白い。
『シロウ、無視ですか。そうですか』
声のトーンが低くなっていく。こうして付き合ってみて分かったが、彼女は子供らしい所がある。
『分かりました。分かりましたよ。もう知りませんよ』
普段は真面目で丁寧なのだが、根底がちょっとだけ幼い。愛らしいと思ってしまう。表情に出ないように気をつけつつ、静かに返答する。
『分かった。俺が悪かった。で、どうした?』
まさかとは思うが、何か異変でも感じ取ったのだろうか?
『退屈な授業です。抜け出して屋上に行きませんか』
気の抜ける言葉だ。平和…とも言い難いがね。落ち着いた証である。
どうやら本格的に暇らしい。そうして甘えを出してくれるのは、素直に嬉しいのだけれど。
『行かない。藤ねえに怒られるだろう』
大河はこの学校に通っている先生だ。都合良く、論理の授業なので大丈夫だが。これで英語だったら、そう易々とは抜け出せないだろう。
『授業は真面目に受けないと駄目だ』
まあ、抜け出すつもりもない。要らない心配はかけられない。
『むう。大河を怒らせるのは良くないですね。心配させたくはありません』
と言いつつも、授業は面白くないらしい。
『しかし私は退屈しています。これは大変な事態と言えるでしょう』
妙に堂々とした言葉だった。胸を張っている気もする。
『…可愛いな』『えっ!?』
思わず零れた本音に、まずいと思ってももう遅い。
『シロウ~』
低い声で言葉が伝わってくる。背中にびんびんと殺気を感じた。剣でちくちくと刺されそうだ。
『待った。今のは無しだ。これも俺が悪かったから、後ろから殺気を放たないでくれ』
『シロウ私は男ですよ』
『ええっ!?』
今度は士郎が動揺する番だった。どう見ても女性と思っていた相手が、実は男だったと。
それでウェルカムとなれるほど、彼は特殊性癖に目覚めていない。ああ、もちろん。例え男性だったとしても、向ける信頼に翳りはないがね。
『肉体的には女性ですが、男として育てられました。あまり可愛いなどと言われては困ります』
『あ、ああ。そうか。肉体的には女性なのか』
良かった。何が良かったのだろう。分からないけども、不思議な安心感を覚えていた。
『嫌な気分にさせたかったわけじゃないんだ。悪かったよ、今後は気をつける』
士郎らしい真摯な言葉だった。思いやりに溢れている。
『…分かれば良いのです』
そう言っているけど、なぜだか少し不満げな声色であった。
『それでシロウ。私は退屈しています』
話がループしていた。余程、構ってもらいたいのか。妙に幼い所が感じられた。
あえて放っておいた方が可愛いかもしれないけど。
『シロウ~』
これを放置しておくのは嫌な予感がする。具体的には、夕食の時とかにからまれそうな。
それはそれで可愛い気がするけど、ここは構っておこう。
『魚が驚いてある一言を言ったんだ』
『む?』
唐突な彼の言葉を受けて、続きを待っている彼女へと。
『ぎょっ!』
『ふむ』
冷たい空気が流れていく。あまりジョークは受けなかったらしい。道場の陰が見える。何の話だろう。
『ごめんなさい』
『アーサー王が夜明けに一言言いました』
今度は彼女の番らしい。緊張と共に続きを促してみる。
『ん?』
『あーさーが来た』
そういうことだ。そうなのだ。仕方ないね。
『うん』
再び冷たい空気が流れた。というか、真名を隠しているのではないのか。アーサー王に縁があって、裏切った騎士と言えばそう多くはない。
ランスロット、モードレッド等々。…意外と多いと思うのは、アーサー王に失礼か。
『なんですか。私を責めますか。良いでしょう。かかってこいや!』
ボルテージを上げて怒気を発していた。涙目になっている気がする。
『怒るなよ! 怒ったら口が悪くなるんだな!』
『おっと失礼』
濃密な夜を越えたおかげで、段々彼女の性格が分かってきた。
表面は礼儀正しく取り繕っているが、本質は粗暴な人間らしい。面倒見の良さや騎士の高潔さは感じるけど、礼儀正しさは妙に嘘くさい。
けれど、自然と振る舞ってはいる。二面共に彼女らしさなのだろう。
『とりあえず今は我慢してくれ。今日の夕食はセイバーの望み通りにするからさ』
朝食はとても楽しそうに食べてくれた。昼食は食べさせてあげられなかったけど、夕食はいっぱい食べてほしい。
『それは良い提案ですね。ではシロウ、私はハンバーグが食べたいです』
『分かった』
子供みたいな要望で可愛いなと、今度は言葉にしないで済んだ。
言ってしまえば拗ねていただろう。きっと、その姿も愛らしいのだろうけども。
『目玉焼きをのせてくださいね!』
『はいよ』
なんだかんだと暇を持て余す彼女と共に、授業を受けていった。
ふと、セイバーから念話が入ってきた。
『シロウ、暇です』
率直な発言だった。欠伸する姿が見えるような。勉強嫌いらしい言葉に思える。彼女らしさすら感じているから、妙に面白い。
『シロウ、無視ですか。そうですか』
声のトーンが低くなっていく。こうして付き合ってみて分かったが、彼女は子供らしい所がある。
『分かりました。分かりましたよ。もう知りませんよ』
普段は真面目で丁寧なのだが、根底がちょっとだけ幼い。愛らしいと思ってしまう。表情に出ないように気をつけつつ、静かに返答する。
『分かった。俺が悪かった。で、どうした?』
まさかとは思うが、何か異変でも感じ取ったのだろうか?
『退屈な授業です。抜け出して屋上に行きませんか』
気の抜ける言葉だ。平和…とも言い難いがね。落ち着いた証である。
どうやら本格的に暇らしい。そうして甘えを出してくれるのは、素直に嬉しいのだけれど。
『行かない。藤ねえに怒られるだろう』
大河はこの学校に通っている先生だ。都合良く、論理の授業なので大丈夫だが。これで英語だったら、そう易々とは抜け出せないだろう。
『授業は真面目に受けないと駄目だ』
まあ、抜け出すつもりもない。要らない心配はかけられない。
『むう。大河を怒らせるのは良くないですね。心配させたくはありません』
と言いつつも、授業は面白くないらしい。
『しかし私は退屈しています。これは大変な事態と言えるでしょう』
妙に堂々とした言葉だった。胸を張っている気もする。
『…可愛いな』『えっ!?』
思わず零れた本音に、まずいと思ってももう遅い。
『シロウ~』
低い声で言葉が伝わってくる。背中にびんびんと殺気を感じた。剣でちくちくと刺されそうだ。
『待った。今のは無しだ。これも俺が悪かったから、後ろから殺気を放たないでくれ』
『シロウ私は男ですよ』
『ええっ!?』
今度は士郎が動揺する番だった。どう見ても女性と思っていた相手が、実は男だったと。
それでウェルカムとなれるほど、彼は特殊性癖に目覚めていない。ああ、もちろん。例え男性だったとしても、向ける信頼に翳りはないがね。
『肉体的には女性ですが、男として育てられました。あまり可愛いなどと言われては困ります』
『あ、ああ。そうか。肉体的には女性なのか』
良かった。何が良かったのだろう。分からないけども、不思議な安心感を覚えていた。
『嫌な気分にさせたかったわけじゃないんだ。悪かったよ、今後は気をつける』
士郎らしい真摯な言葉だった。思いやりに溢れている。
『…分かれば良いのです』
そう言っているけど、なぜだか少し不満げな声色であった。
『それでシロウ。私は退屈しています』
話がループしていた。余程、構ってもらいたいのか。妙に幼い所が感じられた。
あえて放っておいた方が可愛いかもしれないけど。
『シロウ~』
これを放置しておくのは嫌な予感がする。具体的には、夕食の時とかにからまれそうな。
それはそれで可愛い気がするけど、ここは構っておこう。
『魚が驚いてある一言を言ったんだ』
『む?』
唐突な彼の言葉を受けて、続きを待っている彼女へと。
『ぎょっ!』
『ふむ』
冷たい空気が流れていく。あまりジョークは受けなかったらしい。道場の陰が見える。何の話だろう。
『ごめんなさい』
『アーサー王が夜明けに一言言いました』
今度は彼女の番らしい。緊張と共に続きを促してみる。
『ん?』
『あーさーが来た』
そういうことだ。そうなのだ。仕方ないね。
『うん』
再び冷たい空気が流れた。というか、真名を隠しているのではないのか。アーサー王に縁があって、裏切った騎士と言えばそう多くはない。
ランスロット、モードレッド等々。…意外と多いと思うのは、アーサー王に失礼か。
『なんですか。私を責めますか。良いでしょう。かかってこいや!』
ボルテージを上げて怒気を発していた。涙目になっている気がする。
『怒るなよ! 怒ったら口が悪くなるんだな!』
『おっと失礼』
濃密な夜を越えたおかげで、段々彼女の性格が分かってきた。
表面は礼儀正しく取り繕っているが、本質は粗暴な人間らしい。面倒見の良さや騎士の高潔さは感じるけど、礼儀正しさは妙に嘘くさい。
けれど、自然と振る舞ってはいる。二面共に彼女らしさなのだろう。
『とりあえず今は我慢してくれ。今日の夕食はセイバーの望み通りにするからさ』
朝食はとても楽しそうに食べてくれた。昼食は食べさせてあげられなかったけど、夕食はいっぱい食べてほしい。
『それは良い提案ですね。ではシロウ、私はハンバーグが食べたいです』
『分かった』
子供みたいな要望で可愛いなと、今度は言葉にしないで済んだ。
言ってしまえば拗ねていただろう。きっと、その姿も愛らしいのだろうけども。
『目玉焼きをのせてくださいね!』
『はいよ』
なんだかんだと暇を持て余す彼女と共に、授業を受けていった。
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