ACT135 『流星』
ドガシャアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッッッ!!!
衝撃と、何かが壊れる音が、ヘルメットのなかに伝わってくる。シナンジュ・スタインの装甲に、かなりのダメージが与えられていた。それはそうだ、小惑星に向かって、バカげた速度で突っ込んだのから。
「……まってく、強化人間でなければ、死んでいるところだぞ……っ」
そんな文句を呟きながら、ゼリータ・アッカネン大尉は右目のサイコミュを起動させる。
ゆっくりとシナンジュ・スタインは起き上がった。ダメージは相当なものだが、さすがはガンダリウム合金というところか。
最強クラスの鋼で作られたモビルスーツの一機として、シナンジュ・スタインはそのタフさを証明していた。シナンジュ・スタインは、資源採掘用の小惑星に開けられた坑道の奥底にいるようだ。
幾つものセンサーが死んでいるから、確かではない。推測でゼリータはそう見当をつける。
ここがジオンのために身を捧げた戦士たちが辿り着く天国だとすれば、あまりにも労働者の汗とホコリに満ちている。そういう天国を、ゼリータは望んではいない。
「……どこだ、不死鳥?……ベルナル少尉!!……お前は、ここを住み処に選んだ!!ここに何かがあるというのか?……それとも、この宙域に、お前はいなければならないのか?」
この地下空間には『フェネクス』の姿はどこにもなかった。
あの機体は、どこに隠れたのだろうか……?モビルスーツが、いくら隠れるのが得意だといっても、小惑星の地下では、それほどのスペースはない……。
「……どうして、こんなところを巣に選んだ?……あまりにも殺風景だ。加工せねば、何にも使えない、わずかな量の鉱石しか含有しない資源採掘用の小惑星などに、お前の興味をくすぐるものはないだろう?」
……返事は戻らない。それは、そうだろう。隠れているのなら、わざわざ、自分から音を出す必要もないはずだった。
ゼリータ・アッカネン大尉は誘っているのだ。会話か、いや……何らかの反応を示せば、こちらにも手はある。
ビームサーベルの予備は、まだ残しているのだ。次こそ、あの機体のコクピットを斬り裂いて、中身を抉り出してやるつもりだ……。
「15ヶ月の銀河旅行に耐える、貴様の肉体……どんなバケモノなのかを、見せてもらうぞ。なあ……声を聞かせろ。いや。感応波でもいいんだ……私に、本物のニュータイプを教えやがれ。そうすれば……私は、より上の存在へと至れるのだからな……」
無言と、無反応と、闇だけがそのホコリと小石の漂う無重力空間に存在していた。いつまで経っても、だんまりは続くかもしれない……そうだ。隠れて、待っているのだから。
「待っているんだろう?……何かを成すべき、タイミングというモノを。お前の精神は幼く感じられたが……その決意は確かなものだった。覚悟しているな、命よりも、お前の存在自身よりも、より大きなモノのために戦おうとしているのだ」
その感覚を、ゼリータ・アッカネン大尉は共感してやることが出来た。ゼリータもまたそういった存在であったからだ。
自分の全てを捧げて、ジオンのための最高の戦士に、最高の強化人間になるはずだった―――フルフロンタルとの比較に、敗北するまでは、自分はエリートのはずだった。
ああ、思い出すほどに、はらわたが煮えくり返りそうになる。他のヤツらと、自分自身に対しても……フルフロンタルに敗北した瞬間、シャアの再来の座を、あのモミアゲ野郎に奪われた時から……世界も、自分も、大っ嫌いになったが。
あのときまでは、私は良い子ちゃんだった。もっとマジメに、強化人間としての能力を高めようと必死だった。もう片方の目玉も差し出せと要求されたときは、その要求にだって素直に従っていただろう。
盲目的なジオニストでもあったのだ、このゼリータ・アッカネンはな……。
「……なあ、不死鳥よ。お前の覚悟は……何のためだ?……何を守ろうとしている?何を果たそうとしている……それは……その行為は、本当に価値がある行いなのか?……銀河旅行を放棄してまで、こんなクソみたいな世界に……何を求めた?……お前も―――」
―――悲惨な目に遭わされたヤツなんだろう?
「……どこまで、本来の自分から遠ざかった場所まで変えられちまった?……どれだけ、自分が残っている?……そんな状態にされてまで……まだ、連邦に未練でもあるのか?この世界に、お前がわざわざ戻って来るほどの価値が、あるというのか?」
理解しかねる行動だよ。星々の光にあふれる、銀河の中心から、どうして、バカとクズしかいない、こんなクソみたいな世界に立ち戻る必要があったというのか?
「……不死鳥。お前、その翼を、私に寄越さないか?……その翼があれば……お前と私が手を組めば……大きなことが出来るぞ。この世界を、罰することだってな―――」
―――その言葉を聞いたとき、『フェネクス』がゆっくりと物陰から立ち上がっていた。
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