すべての始まりと終わりのために 1
BLを実践すると言った翌日、生駒は木谷家にお邪魔していた。
現在は木谷姉妹の倉庫として使用されている元大絃の部屋にスペースを作り、選別されたBL本の表紙をまじまじと眺めている。木谷姉妹が制作した同人誌、商業誌と一見ランダムに選ばれたように見える。
「ん~……?」
「何難しい顔してんの? 汐」
「何が基準かなって考えてた」
「なるほど、そういうことか」
大絃がいうには、幼馴染が恋仲になるBL、BLの王道展開をまとめたアンソロジー、全年齢、成人向けと各2冊ずつ選んだようだ。成人向けのものに関しては表紙のイラストもタイトルも如何にもといった感じで少しドギマギしてしまう。
「意外とちゃんと考えてんのな」
「得意分野だし、今まで気になってたことでもあるから、結構楽しみにしてる自分がいる」
その他にも必要な本があるのか本棚を眺めながら話す大絃の横顔は本当に楽しそうだ。
生駒は一番手近にあった王道アンソロジーを手に取りパラパラと捲ってみると、最初に学園ものが多いのだなと感じた。その次にサラリーマン。制服や私服とは違う仕事に適した服を着ているところが女性としてはキュンと来るのかもしれない。
「なんかこれだけでも女性の好みが大体分かった気がする」
「汐もいい感覚持ってるかもしれないな~。姉ちゃんたちの作品精査、時々手伝ってくれない?」
「時間があるなら、まあ、いいよ。俺なんかで力になれるのか分かんないけど」
「なるなる! 読者の傾向と需要を把握出来れば大丈夫。恋愛経験あるなら分かりやすいし……って、あれ? 今まで汐の恋バナ聞いたことなくね、俺」
何冊かの本を抱え、対面に腰を下ろした大絃がハッとした表情で生駒を見つめる。
「そうだね、した事ないね」
「好きな人いる、とか、告白されたことある、とか。ど……どうなの? 実際」
幼馴染という近しい間柄であったにも拘らず、学生時代に一度は盛り上がるはずの話題をこれまでスルーしていたことにかなり動揺している上に、ここまで知らないってことは恋愛未経験なのではと心配になって表情や言葉がぎこちなくなる。
「そうだなぁ、告白は……両手に収まる程度には? でも、毎回「好きな人がいるから、ごめんね」って断ってる」
まるで誰かに突然頬を引っ叩かれたかのように両頬に手を当て、かっと目を見開いている大絃の様子に思わず生駒はふきだした。
「ふっ……くく、ぷはっ! 何その顔」
「いや、いやいやいや!いきなり情報過多でさ。待って待って……両手で数えられるってさ、5人以上に告られてる訳でしょ? それ、一つも知らないんだもん、俺。隠してたの?」
「全然隠してないよ。聞かれなかったから言ってないだけ?」
「出たよ~その言い訳! 俺たちの仲じゃ~ん! 言ってよ~。え、他の奴は知ってたの?」
「中高の共通のメンツは、まあ大体?」
「……」
一瞬固まった後、徐々にしょんぼりした表情に変わっていく様は動画をスロー再生で見ているようで滑稽だったが、これ以上しょんぼりさせてしまうのは忍びないと笑いを噛み殺した。生駒はこういう大絃の正直なところが好きなのだ。
「でもね、俺の好きな人が誰か知ってる奴は1人もいないんだ」
「……なんで」
「言って無駄にお節介焼かれるのが嫌だったから、かな。結構詮索されたけど、適当なこと言ってごまかしてたんだよね。まあ、大ちゃんになら、好きな人のこと、話してもいいかな~」
「マジで! 俺の知ってる人?」
悪戯に微笑んで「大ちゃんになら」を強調して言ってみるとみるみる表情が明るくなり、すぐに質問攻めにしようとする。思った通りに動く彼に生駒は気分が良くなる。
「さぁ、それはどうかな? 普通に話すんじゃ面白くないので、真実を語るのはBLゲームが終わった後にしよう。大ちゃんが勝ったら、全部話してあげるよ」
「なんだよそれ! ぬか喜びじゃんか~。2週間とか長すぎでしょ。でも勝てば聞けるのか……ちょいモチベーションがあがったわ。絶対、俺が勝つ!」
既に元カノの事は頭にない様子の大絃に、吹っ切れそうで良かったという気持ちと、単純な奴だなと呆れた気持ち半分ずつで生駒は小さくため息をついた。
――3時間後
大体の内容は読み終え、あと数冊は読んで欲しいとの事だが残りは宿題として自宅に持ち帰って読んで、勉強会2日目となる明日に感想会とあわせて、今後の方針に関して打ち合わせることにした。
「とりあえず、ゲームの勝敗に関しては今のうちに決めとこうか」
「それって、どっちかが好きになったら汐の勝ちじゃないの?」
「それだと、俺が大ちゃんのこと好き! って言ったら勝ちになるよ? 簡単な偽装が可能ってことになるから、それは良くないと思うんだよね。……それを踏まえると、両想いになったら俺の勝ち。どっちも恋に落ちない、片想いの場合は大ちゃんの勝ち。が妥当かな」
「俺はひたすら恋におちないようにしてれば勝てるのか……っつぅ、いへへへ」
それなら簡単だと言いたげにドヤ顔をする大絃の頬を生駒がつまむ。
「じゃあ、俺は全力で大ちゃんの事おとしに行くから、覚悟してろよ」
「おー痛ぇ……。おう、どっからでもかかってこいよ。受けて立つ!」
喧嘩のような啖呵を切った後、そのやりとりが可笑しくて顔を見合わせてどちらからともなく笑った。
レパートリーを増やすべく、お互いにランダムに5冊選んで、この日は帰路についた。
現在は木谷姉妹の倉庫として使用されている元大絃の部屋にスペースを作り、選別されたBL本の表紙をまじまじと眺めている。木谷姉妹が制作した同人誌、商業誌と一見ランダムに選ばれたように見える。
「ん~……?」
「何難しい顔してんの? 汐」
「何が基準かなって考えてた」
「なるほど、そういうことか」
大絃がいうには、幼馴染が恋仲になるBL、BLの王道展開をまとめたアンソロジー、全年齢、成人向けと各2冊ずつ選んだようだ。成人向けのものに関しては表紙のイラストもタイトルも如何にもといった感じで少しドギマギしてしまう。
「意外とちゃんと考えてんのな」
「得意分野だし、今まで気になってたことでもあるから、結構楽しみにしてる自分がいる」
その他にも必要な本があるのか本棚を眺めながら話す大絃の横顔は本当に楽しそうだ。
生駒は一番手近にあった王道アンソロジーを手に取りパラパラと捲ってみると、最初に学園ものが多いのだなと感じた。その次にサラリーマン。制服や私服とは違う仕事に適した服を着ているところが女性としてはキュンと来るのかもしれない。
「なんかこれだけでも女性の好みが大体分かった気がする」
「汐もいい感覚持ってるかもしれないな~。姉ちゃんたちの作品精査、時々手伝ってくれない?」
「時間があるなら、まあ、いいよ。俺なんかで力になれるのか分かんないけど」
「なるなる! 読者の傾向と需要を把握出来れば大丈夫。恋愛経験あるなら分かりやすいし……って、あれ? 今まで汐の恋バナ聞いたことなくね、俺」
何冊かの本を抱え、対面に腰を下ろした大絃がハッとした表情で生駒を見つめる。
「そうだね、した事ないね」
「好きな人いる、とか、告白されたことある、とか。ど……どうなの? 実際」
幼馴染という近しい間柄であったにも拘らず、学生時代に一度は盛り上がるはずの話題をこれまでスルーしていたことにかなり動揺している上に、ここまで知らないってことは恋愛未経験なのではと心配になって表情や言葉がぎこちなくなる。
「そうだなぁ、告白は……両手に収まる程度には? でも、毎回「好きな人がいるから、ごめんね」って断ってる」
まるで誰かに突然頬を引っ叩かれたかのように両頬に手を当て、かっと目を見開いている大絃の様子に思わず生駒はふきだした。
「ふっ……くく、ぷはっ! 何その顔」
「いや、いやいやいや!いきなり情報過多でさ。待って待って……両手で数えられるってさ、5人以上に告られてる訳でしょ? それ、一つも知らないんだもん、俺。隠してたの?」
「全然隠してないよ。聞かれなかったから言ってないだけ?」
「出たよ~その言い訳! 俺たちの仲じゃ~ん! 言ってよ~。え、他の奴は知ってたの?」
「中高の共通のメンツは、まあ大体?」
「……」
一瞬固まった後、徐々にしょんぼりした表情に変わっていく様は動画をスロー再生で見ているようで滑稽だったが、これ以上しょんぼりさせてしまうのは忍びないと笑いを噛み殺した。生駒はこういう大絃の正直なところが好きなのだ。
「でもね、俺の好きな人が誰か知ってる奴は1人もいないんだ」
「……なんで」
「言って無駄にお節介焼かれるのが嫌だったから、かな。結構詮索されたけど、適当なこと言ってごまかしてたんだよね。まあ、大ちゃんになら、好きな人のこと、話してもいいかな~」
「マジで! 俺の知ってる人?」
悪戯に微笑んで「大ちゃんになら」を強調して言ってみるとみるみる表情が明るくなり、すぐに質問攻めにしようとする。思った通りに動く彼に生駒は気分が良くなる。
「さぁ、それはどうかな? 普通に話すんじゃ面白くないので、真実を語るのはBLゲームが終わった後にしよう。大ちゃんが勝ったら、全部話してあげるよ」
「なんだよそれ! ぬか喜びじゃんか~。2週間とか長すぎでしょ。でも勝てば聞けるのか……ちょいモチベーションがあがったわ。絶対、俺が勝つ!」
既に元カノの事は頭にない様子の大絃に、吹っ切れそうで良かったという気持ちと、単純な奴だなと呆れた気持ち半分ずつで生駒は小さくため息をついた。
――3時間後
大体の内容は読み終え、あと数冊は読んで欲しいとの事だが残りは宿題として自宅に持ち帰って読んで、勉強会2日目となる明日に感想会とあわせて、今後の方針に関して打ち合わせることにした。
「とりあえず、ゲームの勝敗に関しては今のうちに決めとこうか」
「それって、どっちかが好きになったら汐の勝ちじゃないの?」
「それだと、俺が大ちゃんのこと好き! って言ったら勝ちになるよ? 簡単な偽装が可能ってことになるから、それは良くないと思うんだよね。……それを踏まえると、両想いになったら俺の勝ち。どっちも恋に落ちない、片想いの場合は大ちゃんの勝ち。が妥当かな」
「俺はひたすら恋におちないようにしてれば勝てるのか……っつぅ、いへへへ」
それなら簡単だと言いたげにドヤ顔をする大絃の頬を生駒がつまむ。
「じゃあ、俺は全力で大ちゃんの事おとしに行くから、覚悟してろよ」
「おー痛ぇ……。おう、どっからでもかかってこいよ。受けて立つ!」
喧嘩のような啖呵を切った後、そのやりとりが可笑しくて顔を見合わせてどちらからともなく笑った。
レパートリーを増やすべく、お互いにランダムに5冊選んで、この日は帰路についた。
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