第12話
その瞬間、あたしの頭に変な感覚が走った。
うまく説明できないけど、無理やりいろんな映像を一斉に見せられているような、同時に複数の出来事が走馬灯のようにフラッシュバックするような……たぶん、そういう感覚。
気持ち悪い。船酔いしたみたいだ。
「ん? どうした? 急に顔色悪くして」
「……なんでもない。あんたが触るからでしょ。さわるなばか」
「うっわ、ひっでぇな! ……悪かったよ」
そう言いながら、涼太はあたしの頭からすばやく手を離す。
すると、気持ち悪さは次第に収まっていく。
なんだったんだ? 今の感覚は?
涼太が触ったから、あたしの身体が拒否反応をおこしたとか? たしかにこいつは気持ち悪いし、ボディタッチは多いけど…………。
……まさか、な。それなら、最初に触られたときになにかしら反応があったはずだ。たぶん、だけど。
「……大丈夫、そうだな」
「……ああ。たぶん、だいじょうぶだ」
「ん。ならよし! じゃあ俺は帰るぞー」
そう言い残して、踵を返しその場から立ち去る涼太。かばんをさっそうと肩に担ぐ動作は、いかにも男子! って感じでなんかいやだ。いや、いやじゃないんだけど、いやだ。
「……さて、あたしも帰るか」
さっきの変な感覚を疑問に思いながら、あたしも家に帰ることにする。
翔平太がいないから、今日の晩御飯をどうしようか考えていると、さっきの変な感覚のことは、いつの間にかきれいさっぱり忘れていた。
大丈夫。たまたまさ。
◆
それから一週間が経った。
涼太の協力もあり、シャルのことはみんなにバレずになんとか過ごしてこれた。
そんな学校生活にもだいぶ慣れてきた頃。
朝のHRをするために教室に入ってきた担任の徳元先生の様子が、どこかおかしかった。
慌ただしく教室に入ってくると、教壇を前に何やらあわあわした表情を浮かべる。
「どうしたんすか先生」
1年7組を代表して、涼太がそう尋ねた。
徳元先生は、「……あ、ああ」と右手で額を押さえながら、話し出す。
「いや、昨夜非常識なものを見てしまってな。若干混乱しているんだ」
「非常識なもの?」
学校中で、『クールビューティーなお姉さん』と大人気な徳元先生が混乱するなんて、余程驚くものを見たんだろう。
先生の話を聞き流そうと思っていたあたしだけど、少し興味が湧いてきた。
「ああ。ぜん――いや、やっぱりいい。あれは見間違いだ。そうだそうだ」
無理やり自分に納得させるように、そう言って頭を叩く先生。
なんだよ、気になるじゃないか。続き話してくれよ。
そんなあたしの希望もむなしく、先生はそれで終わりとでも言うように、昨夜見た非常識なものとやらの話はやめ、HRを再開する。
「…………」
「? どした?」
HRを再開した先生を、真剣な目で見る涼太。
「いや、あんな感じの先生初めてだからさ。なんかあったのかなぁ~って」
「ふぅん」
ここまで心配しているって、ひょっとして――
「あんた、先生のことが好きなの?」
「ば、馬鹿! ちげえよ!」
立ち上がり、思いっきり否定する涼太。
みんなの視線が、涼太に集まるが、涼太は全く気にしてなかった。
ここまで思いっきり否定すると、逆に怪しく思える。
「本当かよ?」
「本当だ! だって、俺が好きなのは――」
「「「「好きなのは?」」」」
クラスメイト全員が、一斉に涼太に尋ねる。
うちのクラス、こういうときは団結力がすさまじいものになるからな。
「うっ……ぐ、ぐう……」
答えず、ゆっくりと席に座りなおす涼太。
なんだよ、チキン野郎。
「お前ら、いい加減にしないか。HRくらい黙って聞け!」
と、徳元先生のお怒りの声が飛ぶ。
原因は先生にある気がしないでもないけど、それは言わない。恐いし。
「「「「はぁーい」」」」
先ほどと同じく、また一斉に返事をするクラスメイトたち。
涼太はと言うと、机にうつ伏せになっている。
「……はぁ」
そんな光景を見て、あたしは一つ嘆息したのであった。
◆
その日の夜。
コンビニに行き、毎週月曜日発売の週刊誌を立ち読みした後、あたしは家に帰るため、真っ暗な道を歩いていた。
現在、時刻は午前1時。
女の子一人で歩くには、少々危ない時間だ。
まあ、なんとかなるっしょ。
そう思っていた時期が、あたしにもありました。
「…………」
目の前に、すうっと黒い影が現れたのだ。
その影の正体は、顔以外を漆黒のマントで包んだ男性だった。
明らかに怪しい。
「突然だが……」
男性はそう言って、バッとマントを脱ぎ捨てた。
「私の裸を――ナニを見てくれたまえ!」
マントの下は全裸だった。
全裸。
肌色と、ほんの少しの黒色の、汚らわしいコントラスト。
全……裸……?
うまく説明できないけど、無理やりいろんな映像を一斉に見せられているような、同時に複数の出来事が走馬灯のようにフラッシュバックするような……たぶん、そういう感覚。
気持ち悪い。船酔いしたみたいだ。
「ん? どうした? 急に顔色悪くして」
「……なんでもない。あんたが触るからでしょ。さわるなばか」
「うっわ、ひっでぇな! ……悪かったよ」
そう言いながら、涼太はあたしの頭からすばやく手を離す。
すると、気持ち悪さは次第に収まっていく。
なんだったんだ? 今の感覚は?
涼太が触ったから、あたしの身体が拒否反応をおこしたとか? たしかにこいつは気持ち悪いし、ボディタッチは多いけど…………。
……まさか、な。それなら、最初に触られたときになにかしら反応があったはずだ。たぶん、だけど。
「……大丈夫、そうだな」
「……ああ。たぶん、だいじょうぶだ」
「ん。ならよし! じゃあ俺は帰るぞー」
そう言い残して、踵を返しその場から立ち去る涼太。かばんをさっそうと肩に担ぐ動作は、いかにも男子! って感じでなんかいやだ。いや、いやじゃないんだけど、いやだ。
「……さて、あたしも帰るか」
さっきの変な感覚を疑問に思いながら、あたしも家に帰ることにする。
翔平太がいないから、今日の晩御飯をどうしようか考えていると、さっきの変な感覚のことは、いつの間にかきれいさっぱり忘れていた。
大丈夫。たまたまさ。
◆
それから一週間が経った。
涼太の協力もあり、シャルのことはみんなにバレずになんとか過ごしてこれた。
そんな学校生活にもだいぶ慣れてきた頃。
朝のHRをするために教室に入ってきた担任の徳元先生の様子が、どこかおかしかった。
慌ただしく教室に入ってくると、教壇を前に何やらあわあわした表情を浮かべる。
「どうしたんすか先生」
1年7組を代表して、涼太がそう尋ねた。
徳元先生は、「……あ、ああ」と右手で額を押さえながら、話し出す。
「いや、昨夜非常識なものを見てしまってな。若干混乱しているんだ」
「非常識なもの?」
学校中で、『クールビューティーなお姉さん』と大人気な徳元先生が混乱するなんて、余程驚くものを見たんだろう。
先生の話を聞き流そうと思っていたあたしだけど、少し興味が湧いてきた。
「ああ。ぜん――いや、やっぱりいい。あれは見間違いだ。そうだそうだ」
無理やり自分に納得させるように、そう言って頭を叩く先生。
なんだよ、気になるじゃないか。続き話してくれよ。
そんなあたしの希望もむなしく、先生はそれで終わりとでも言うように、昨夜見た非常識なものとやらの話はやめ、HRを再開する。
「…………」
「? どした?」
HRを再開した先生を、真剣な目で見る涼太。
「いや、あんな感じの先生初めてだからさ。なんかあったのかなぁ~って」
「ふぅん」
ここまで心配しているって、ひょっとして――
「あんた、先生のことが好きなの?」
「ば、馬鹿! ちげえよ!」
立ち上がり、思いっきり否定する涼太。
みんなの視線が、涼太に集まるが、涼太は全く気にしてなかった。
ここまで思いっきり否定すると、逆に怪しく思える。
「本当かよ?」
「本当だ! だって、俺が好きなのは――」
「「「「好きなのは?」」」」
クラスメイト全員が、一斉に涼太に尋ねる。
うちのクラス、こういうときは団結力がすさまじいものになるからな。
「うっ……ぐ、ぐう……」
答えず、ゆっくりと席に座りなおす涼太。
なんだよ、チキン野郎。
「お前ら、いい加減にしないか。HRくらい黙って聞け!」
と、徳元先生のお怒りの声が飛ぶ。
原因は先生にある気がしないでもないけど、それは言わない。恐いし。
「「「「はぁーい」」」」
先ほどと同じく、また一斉に返事をするクラスメイトたち。
涼太はと言うと、机にうつ伏せになっている。
「……はぁ」
そんな光景を見て、あたしは一つ嘆息したのであった。
◆
その日の夜。
コンビニに行き、毎週月曜日発売の週刊誌を立ち読みした後、あたしは家に帰るため、真っ暗な道を歩いていた。
現在、時刻は午前1時。
女の子一人で歩くには、少々危ない時間だ。
まあ、なんとかなるっしょ。
そう思っていた時期が、あたしにもありました。
「…………」
目の前に、すうっと黒い影が現れたのだ。
その影の正体は、顔以外を漆黒のマントで包んだ男性だった。
明らかに怪しい。
「突然だが……」
男性はそう言って、バッとマントを脱ぎ捨てた。
「私の裸を――ナニを見てくれたまえ!」
マントの下は全裸だった。
全裸。
肌色と、ほんの少しの黒色の、汚らわしいコントラスト。
全……裸……?
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