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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

夢じゃない

そんなこんなで、訳がわからないがもう少し、この町にいることになってしまった。

部屋はあてがわれたが、すぐには眠れそうもない。


結局、城中を案内されて、今が何時かなんて考えたくもなかった。



「・・・で、ここが調理場だ。もうじき料理人が来て朝食を作る。

ー・・・聞いてるのか?」

「あ、は、はい・・・」



・・・眠すぎる・・・



「なんだ、こんな時間に眠いのか?」

「今何時ですか・・・」

「3時半だ」

「はぁ・・・あなたは眠くないんですか・・・?」

「人斬りは、だいたい夜中に活動するからな」

「昼間は寝てるって事ですか?」

「いや、それも決まっていない。人それぞれ、気分で寝ていたり寝ていなかったり・・・」



・・・。
人斬りって案外、すごい適当なんだな・・・。



「あの・・・私そろそろ・・・」




もうだめ、本当に寝そう。もうここで寝そう。



「分かった。なら寝室まで案内しよう」



その後は、正直あんまり覚えていない。とにかく早く横になって、目をつぶりたくて。


ただされるがままに着いて行き、行き着いた先で横になった。

広い座敷の部屋で、布団が敷き詰められている。
寝ているものもいれば、空いている布団もあった。



・・・もう、何でもいい。これからどうするかは、とりあえず起きたら考えよう。




そう思って、ひなのは倒れこむようにして、そのうちの一つの布団へと
入った。



「・・・また、明日・・・色々、ほら、私が教えるから・・・


お休み、なさい・・・」




ユノがその後どうしたのか、ひなのを寝かしてどんな風に立っていたのかは、全く覚えていない。



とにかく・・・




死んだように眠って、目が覚めた時にはユノはいなかった。

「・・・はぁ」


朝起きて、夢オチだったらどんなによいかと思った。
寝ている間だけは、本当に幸せだった気がする。
なんなら、もうずっと眠っていたいとすら思う。


だが、そんな考えは儚く散るのだ。

だって、夢じゃないんだから。




「・・・」


起きると、部屋には何人かの人斬りがまだ寝ていた。


鏡もないし着替えもない。ぼうっとした顔で布団の上に座っていると、目の前の人斬りが目を覚ました。



「・・・あ」


「・・・ん?」



その顔は知っていた。ひなのは、この男に、ここまで連れて来られたのだから。



「・・・あー、君ね」

「お、おはようございます」

「ここで寝てるってことは、とりあえずはユノ様に斬られなかったんだな」

「あ、はい。一応」



そうだ、私ユノ様って人と、この空牙のどっちかが一緒にいなかったら、こんな館でどうしていいかわからない。
まず、ほかの人斬りに話しかけなきゃならないなんて、本当ヤダ。



「あの、私どうしたらいいかな?ユノ様って人、どこ?」
「んー、ユノ様は部屋にいんじゃないかな」
「どこの部屋?」
「この上」



空牙は布団から出る様子はない。俗に言う、二度寝をしようとしているようだ。


「俺さ、さっき帰ったばっかだから寝るから」

「えーっ・・・」



いいんだけど・・・なぜか心細いと思えてしまう。


「・・・」


そんなひなのをよそに、空牙は本当にそのまま眠ってしまった。



・・・本当に寝るんだ。
もう、いいよ。上に行けばいいんでしよ・・・



昔の日本の屋敷のように広く、迷子になったら最悪なのだが、仕方がない。
ひなのは意を決して布団を出ると、足早に部屋を出て階段を探した。


「あ」
「あぁ」

しかし、運が良いのか悪いのか。
見つけた階段を上がりかけると、上からユノが降りてきたではないか。



紫陽花のような羽織を着込み、静かで冷たい空気をまとって、優雅に降りてくる。


「もう起きたのか。人間はもっと寝るものだと思ったがな」

「・・・あぁ、はい」

「朝食にしよう」



・・・朝食。ここに来た時に行った広い部屋で、何十人もの人斬りと朝食・・・?

「あ、の。朝食なんですけど、私達二人でー・・・それか、空牙って人と三人くらいで食べるのはどうですか?」


そうだよ、だって私恋人のふりする勢いでいなきゃ、帰れないんだもん。

ユノは小首を傾げて、不思議そうに階段を降り切った。


「なぜだ?」

「えぇっと・・・ほら、愛を教えるわけでしょう?
大勢の中じゃなくて、少人数じゃなきゃ」


二人と言ったものの、この人と二人はやっぱりやだから、空牙も一緒がいいな・・・


「分かった、なら二人で食べるとしよう。北側のテラスなら、人気もないし静かだ」

「あ、はい。じゃあ、それで・・・」



なんだか・・・昨日から、この人のペースに巻き込まれているだけな気がする。

ひなのは吐きそうになった溜息を、なんとか飲み込んだ。




二人で朝食を持ち、北側のテラスとやらに向かったのは、およそ10分後。


浴場の更に奥、細いクヌギ板の廊下の先に、小さなテラスが存在した。
まるで温泉宿の一角のような、一面木に囲まれた小さなベランダのような所。



「うわぁ、ここ素敵」

ひなのは素直にそう思った。落ち着くというか、癒されるというかー・・・


「さて、愛について説明してもらおうか」



・・・一人だったら、どんなに心地よい場所か。


目の前には、ひなのの日常の食事とと、さほど変わらない料理がプレートに並ぶ。
味噌汁、漬け物、煮物に出し巻き卵・・・
THE日本食と言ったところか。


向かい合わせの席で、ユノは切れ長の紫おびた目を、一直線にひなのに向けている。
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