隠し事
「なぜ手ぶらで戻ってきた、須郷!」
朱がいないことに宜野座がすぐに気づく。
また戻ってきた面々の様子がおかしいことから、ただごとではないと勘づく。
まさか、朱が拉致されてしまっていたとまでは思ってもなく、怒りの矛先は須郷ひとりに向けられる。
須郷もまた、失態を重く受け止めているため、甘んじて受けていた。
「ちょっと、ふたりとも。争っている場合じゃないでしょう。朱ちゃんの追跡はバッチリよ。だけど、子供同行での追跡はやめてよね。それに、執行官だけじゃ動けないでしょう。今、美佳ちゃんが向かっているから。一度こっちに戻って作戦をたてましょう」
唐之杜に連絡をするようにと指示を受けた須郷はすぐに動いた。
また朱の機転で、拉致られる時のやりとりが分析室の唐之杜に送られていた。
唐之杜と六合塚は別の場所にいながら、拉致される瞬間を聞いていたことになる。
「言っておくけど、音声の会話を聞く限り、須郷の落ち度はないわよ。彼を責めるのはちょっと違うんじゃない?」
「音声があるのか? 聞かせろ」
「OK、転送するわね」
その音声を聞き、耳を疑ったのは宜野座だけではなかった。
なぜか別世界から来た狡噛も、驚きの表情を見せ「東金朔夜だと?」と疑問符を投げかけていた。
「須郷、おまえの見間違いじゃないのか?」
信じられない宜野座は須郷に詰め寄る。
「自分もそう思いたいです。しかし、ドミネーターが間違うはずがない。なんなら、今誰かの測定をしてみますか?」
「いや、いい。会話から、常守は直感が当たっていたとでもいうような口振りだ」
「ああ、それなんだがな……」と、征陸が会話に入ってくる。
「実はあんたがたに隠していたことがある。たぶん、コウもそうじゃないか? ふたり同席を希望する。その場で打ち明ける。だが、嬢ちゃん……常守監視官がいない席で打ち明けるのには不安がある。執行官は単独での行動ができないんだろう? あのもうひとりのお嬢ちゃんで大丈夫なのか?」
霜月監視官の正義を貫く姿勢は嘘偽りはないだろう。
ただそのやり方が朱と重ならない。
それでももう新人ではないくらいの経験は積んでいる。
「私情を捨て、仕事として割り切れば決して劣る人物ではないと思う」
と、宜野座が分析する。
「自分も、同意です。たしかに、常守監視官と比べると……というのはわかりますが、能力のない人が監視官に抜擢されることはありません」
「ま、そういうことにしておくか……」と渋々納得したところに、話題の人が到着する。
「だから私は言ったんです。もっと効率よく、そして自分を盾にするんじゃなく、側にいた執行官をつかうべきだって。こんな大事、私に押しつけないでほしいです」
相変わらずの霜月節に宜野座は苦笑い、須郷は聞き流す。
慣れない征陸と狡噛はあきれたように口を半開きにしていた。
※※※
「おかえり、災難だわね」
と彼らを出迎えた六合塚は、すぐ分析室に行くようにと彼らを促す。
「自分が彼らを先に部屋へ連れていきます」
須郷が秀ちゃんの手を握り動こうとすると、
「彼らも一緒にって志恩が」
「は? 大丈夫なのか? 慎重な唐之杜らしくない」
「常守監視官がいない今、ひとりでも多くの知恵がほしいそうよ。ただし、ホロは常に装備必須でお願い」
「その分析官とやらは信用できるのか?」と征陸。
「大丈夫よ。信じてほしいとまでは言わない。でも、私たちがあなたがたの持つ情報もほしいの。だから……」
「信用してくれるってか? まあ、それが妥当かもしれないな。コウはどうだ?」
「俺はとっつあんがそれでいいなら構わない」
「だそうだ。じゃあ、さっそく、その分析官どのと対面しようか」
※※※
「実はね、朱ちゃんから、東金財団のことを調べるように言われていたのよ」
と唐之杜の口から爆弾発言がいきなり飛び出す。
当然、
「そんな話、聞いてないぞ」と、宜野座は驚きと疎外されたようなむなしい気持ちが声となってでる。
また霜月美佳は顔色が青ざめていくが、必死に平常心を保とうとしていた。
六合塚は美佳の変化に気づきながらも気づいていない素振りを続けた。
「ああ、もう。そう怒鳴らないでよ。順を追って説明するから。あのね、そちらの来訪者の方たちの話に東金財団が出たでしょ? 詳しくは教えてくれなかったけれど、朱ちゃんには思うところがあったみたいで、東金朔夜が亡くなった以降のことを徹底的に調べてほしいって」
「それで? なにか出たのか?」
「そうね、それなりに。だけど、すぐ閲覧制限にひっかかってね。そうなるときな臭さがあると言っているうなものでしょう? 戻ったら朱ちゃんの監視官権限で閲覧できないか、訊こうとおもっていたところだったのよ。でも、来訪者さんたちの方から特ダネを訊かせていただけそうな予感がするのよね」
と、唐之杜がチラリと見ると、征陸は頭をかき、狡噛は軽く舌打ちをした。
「おい、もう隠し事はなしだ。人ひとりの危険がかかっている」
気迫を帯びた宜野座の声が静かに、そして重々しく分析室に響きわたった。
朱がいないことに宜野座がすぐに気づく。
また戻ってきた面々の様子がおかしいことから、ただごとではないと勘づく。
まさか、朱が拉致されてしまっていたとまでは思ってもなく、怒りの矛先は須郷ひとりに向けられる。
須郷もまた、失態を重く受け止めているため、甘んじて受けていた。
「ちょっと、ふたりとも。争っている場合じゃないでしょう。朱ちゃんの追跡はバッチリよ。だけど、子供同行での追跡はやめてよね。それに、執行官だけじゃ動けないでしょう。今、美佳ちゃんが向かっているから。一度こっちに戻って作戦をたてましょう」
唐之杜に連絡をするようにと指示を受けた須郷はすぐに動いた。
また朱の機転で、拉致られる時のやりとりが分析室の唐之杜に送られていた。
唐之杜と六合塚は別の場所にいながら、拉致される瞬間を聞いていたことになる。
「言っておくけど、音声の会話を聞く限り、須郷の落ち度はないわよ。彼を責めるのはちょっと違うんじゃない?」
「音声があるのか? 聞かせろ」
「OK、転送するわね」
その音声を聞き、耳を疑ったのは宜野座だけではなかった。
なぜか別世界から来た狡噛も、驚きの表情を見せ「東金朔夜だと?」と疑問符を投げかけていた。
「須郷、おまえの見間違いじゃないのか?」
信じられない宜野座は須郷に詰め寄る。
「自分もそう思いたいです。しかし、ドミネーターが間違うはずがない。なんなら、今誰かの測定をしてみますか?」
「いや、いい。会話から、常守は直感が当たっていたとでもいうような口振りだ」
「ああ、それなんだがな……」と、征陸が会話に入ってくる。
「実はあんたがたに隠していたことがある。たぶん、コウもそうじゃないか? ふたり同席を希望する。その場で打ち明ける。だが、嬢ちゃん……常守監視官がいない席で打ち明けるのには不安がある。執行官は単独での行動ができないんだろう? あのもうひとりのお嬢ちゃんで大丈夫なのか?」
霜月監視官の正義を貫く姿勢は嘘偽りはないだろう。
ただそのやり方が朱と重ならない。
それでももう新人ではないくらいの経験は積んでいる。
「私情を捨て、仕事として割り切れば決して劣る人物ではないと思う」
と、宜野座が分析する。
「自分も、同意です。たしかに、常守監視官と比べると……というのはわかりますが、能力のない人が監視官に抜擢されることはありません」
「ま、そういうことにしておくか……」と渋々納得したところに、話題の人が到着する。
「だから私は言ったんです。もっと効率よく、そして自分を盾にするんじゃなく、側にいた執行官をつかうべきだって。こんな大事、私に押しつけないでほしいです」
相変わらずの霜月節に宜野座は苦笑い、須郷は聞き流す。
慣れない征陸と狡噛はあきれたように口を半開きにしていた。
※※※
「おかえり、災難だわね」
と彼らを出迎えた六合塚は、すぐ分析室に行くようにと彼らを促す。
「自分が彼らを先に部屋へ連れていきます」
須郷が秀ちゃんの手を握り動こうとすると、
「彼らも一緒にって志恩が」
「は? 大丈夫なのか? 慎重な唐之杜らしくない」
「常守監視官がいない今、ひとりでも多くの知恵がほしいそうよ。ただし、ホロは常に装備必須でお願い」
「その分析官とやらは信用できるのか?」と征陸。
「大丈夫よ。信じてほしいとまでは言わない。でも、私たちがあなたがたの持つ情報もほしいの。だから……」
「信用してくれるってか? まあ、それが妥当かもしれないな。コウはどうだ?」
「俺はとっつあんがそれでいいなら構わない」
「だそうだ。じゃあ、さっそく、その分析官どのと対面しようか」
※※※
「実はね、朱ちゃんから、東金財団のことを調べるように言われていたのよ」
と唐之杜の口から爆弾発言がいきなり飛び出す。
当然、
「そんな話、聞いてないぞ」と、宜野座は驚きと疎外されたようなむなしい気持ちが声となってでる。
また霜月美佳は顔色が青ざめていくが、必死に平常心を保とうとしていた。
六合塚は美佳の変化に気づきながらも気づいていない素振りを続けた。
「ああ、もう。そう怒鳴らないでよ。順を追って説明するから。あのね、そちらの来訪者の方たちの話に東金財団が出たでしょ? 詳しくは教えてくれなかったけれど、朱ちゃんには思うところがあったみたいで、東金朔夜が亡くなった以降のことを徹底的に調べてほしいって」
「それで? なにか出たのか?」
「そうね、それなりに。だけど、すぐ閲覧制限にひっかかってね。そうなるときな臭さがあると言っているうなものでしょう? 戻ったら朱ちゃんの監視官権限で閲覧できないか、訊こうとおもっていたところだったのよ。でも、来訪者さんたちの方から特ダネを訊かせていただけそうな予感がするのよね」
と、唐之杜がチラリと見ると、征陸は頭をかき、狡噛は軽く舌打ちをした。
「おい、もう隠し事はなしだ。人ひとりの危険がかかっている」
気迫を帯びた宜野座の声が静かに、そして重々しく分析室に響きわたった。
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