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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT191    『フォン・ブラウン市入港』



 ジュナ・バシュタ少尉たちを乗せた輸送船は、月面にあるフォン・ブラウン市に入港しようとしていた。
「……検査もナシで入れるのか。軍隊相手でも、アナハイム・エレクトロニクス社の警備は手を抜いちゃくれないものだがな」
 イアゴ・ハーカナ少佐は不愉快そうな顔になる。それを見てミシェル・ルオは笑うのだ。どこか小バカにしたような態度であり、事実、イアゴ・ハーカナ少佐の狭い世界観に対してミシェルはどこかバカにしているのだ。
「世の中には信用ってものがあるのよ。グラナダをコロニーレーザーで焼こうとしたティターンズっていう組織がいたことを、お忘れかしらね?」
「……オレは、エゥーゴ側だったさ」
「そうかもしれないけど。地球連邦軍の一部がティターンズだったことを、スペースノイドは永遠に忘れないわ。少なくとも私は、死んだぐらいじゃ忘れない」
 真顔でそう語るのだ、地球の経済圏の新たな支配者の一人は……。
「戦争が終わったからだとか、ティターンズが解体されたからといって、罪は無かったことにはならないのよ。歴史ってのは、永久に残る。そうする必要がある。何故だか、分かる?」
「……分からんな」
「歴史は必ず繰り返すからよ」
「……っ」
「スペースノイドを殺そうとする地球人はこれからも生まれてくるし、その逆もあるわよね」
「……そうだろうな」
「私たちは、その歴史を繰り返す。終わることのないワルツのように、宇宙に生まれる主義と地球に残存する主義は、お互いを滅ぼし合いながら、交互に生まれることになるでしょうね……その間にあるのが、つかの間の平和ってわけよ」
「……アンタも地球人だろう、ミシェル・ルオ」
「スペースノイドではないわね。私も、ジオニズムからすれば敵に当たる。同じティターンズの被害者だっていうのにね?」
「……社会ってのは、複雑ってことだろう」
「そう。だからこそ、記憶は必要よ。記憶して学ばなければ、また同じステージのまま。でも、人って邪悪だから、学べないんだけれどね。必ず、地球と宇宙のあいだで戦争は繰り返されるわ」
「空しくなるハナシだな」
「いいじゃない。モビルスーツに乗って、パイロットをするのが好きでしょう?」
「オレを戦争屋扱いか?」
「否定は出来るの?……貴方、もっと他の生き方が出来るキャリアのハズなのに。パイロットとしてモビルスーツで戦うのが好きでしょ?」
「……殺しが好きなわけじゃない。オレよりも残酷なヤツが、オレがすべき繊細な任務をしないように、この場所に居座っているだけだ」
「建前ね」
「……オレの何が分かる?」
「戦績は全て把握している。そして、お父さまの精子と私の卵子で作ったこの子が教えてくれているのよ」
 宇宙に浮かびながら、ミシェルの手がやさしく自分の下腹部に触れていた。
「……イアゴ・ハーカナ少佐は、本質的に戦士だってね。アムロ・レイに感化されているのかしら?」
「彼の影響を、良い意味では受けているつもりだ」
「そうかもしれいないわね。でも、理想を抱き過ぎるのは、危険なことよ。動きが重たくなっちゃうわ。光速で羽ばたく『フェネクス』に追いつけなくなるかもしれないわ」
「追い込むだけだ。追いつく必要は、オレにはない」
「そうね。ジュナがどうにかする……彼女、どんどん強くなっているでしょ?……感覚がシャープになっているのよ。彼女も私もね、幼い頃にリタの力を共有したの。そのときに脳が使い方を覚えている……私も、宇宙に来て、初めて分かったわ。あの感覚は、この空間に適合している感覚だってね」
「……未来が見えると?」
「違うわね。過去も見えるようになって来ている……私の占いは、これからもっと当たるようになるでしょう…………イアゴ・ハーカナ少佐」
「なんだ?」
「死相が出てるわ。死なないように気をつけてね。不死鳥を得るまでは、生きていて欲しいの」
「素直な言葉だな」
「継続して仕事を依頼してみたいけれど、死ぬまで軍で過ごしたいんでしょ?」
「……ああ。アンタに雇われるのは、これで最後だろうよ。オレは、軍人らしく生きて行きたいんだ……この任務に不服があるわけじゃないがな……」
「そう。とにかく、私としては、今回だけでもいいから力を貸して欲しいわ」
「……任せるといい」
 イアゴ・ハーカナ少佐は静かに、そう呟いていた。彼の心の中に、死相が出ている、という言葉がリフレインしている。
 ……この任務で死ぬかもしれない?……毎度のことではあるが…………ニュータイプみたいな占い師に予言されたのは初めてだ……問題は、そう言われても、驚いちゃいないっていう方かもしれないな。
 ……死ぬかもしれない相手じゃあると、オレは認めてしまっているらしい。
 ……もっと、前向きに考えているべきか。そっちの方が、作戦の成功率も少しは上がってくれるだろう。
 イアゴ・ハーカナ少佐の瞳が月面都市に向かう。誘導レーザーに導かれて、輸送船は静かに月面へと近づき、そのドームに覆われた都市がどんどん大きくなって行く……アナハイム・エレクトロニクス社の工場がある、ガンダムを幾つも生み出した街か……。


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