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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT181    『灰色の雪が舞う中で……』


 爆風の時間は、すぐに終わる……不安が感じさせた時間の間延びも終わる。凄まじく疲れてしまった数秒間の出来事だった。

 自分の命をかんたんに消し去ってしまうほどの威力を感じ取る。それは、百戦錬磨の隊長でも、心を消耗させ尽くしてしまう行いであったのだ。

 自分の本能は、死をコレほど嫌っているのかと気づかされると、隊長は己が何とも強がりの生き物だったことに気づく。

「……さてと、逃げるぞ」

「……え、ええ……まだ、外は……地面が焦げてて、放射性物質の燃えかすが、雪みたいに降っているでしょうね……散歩するには、最高のコンディションってことですよ」

「いい皮肉だが、実際そうだ。オレたちが、生き残れる可能性があるとすれば……連邦軍の兵士たちが、健康被害を恐れて怯む、この状況で動くしかない」

「……はい。行きましょう。死にたくはありませんから……ただし、このグフ・カスタムを……敵に向けてからです」

「動くのか」

「どうにか、動きそうですよ。移動はムリでしょうけれど、それでも……敵への威嚇ぐらいは出来る」

 オーガ4は片脚が完全に動かなくなっているグフ・カスタムをもぞもぞと動かして、片膝を突いたまま敵地を睨むような形で座らせた。

「いいポジショニングだ。これなら、数十秒間はヤツらから奪える」

「もっと、奪ってもらいたいところですよ。我々は、放射能対策を、フード付きのパーカーでやることになるんですからね」

「ヒドい一日だな」

 まさかパイロット・スーツを着たまま逃げ回るわけにもいかない。隊長もオーガ4も緊急時用に備えていた一般人の服装に着替えると、すみやかに離脱を開始する。

 コクピット・ハッチが、ギギギギギとイヤな音を立てながら開放されていき、コクピットと世界は再びつながりを取り戻していた。

 焼け焦げた土のにおいがする。焦げた風に吹かれたような気持ちになるし、実際、まだ風は人肌ぐらいには温かった。今、北半球は冬だというのに……まあ、その気温には左右されることもなく、空からは灰色の雪が降っている。

「放射線を放つ、死の灰か……」

「ええ。あまり、吸い込まないようにしましょう。これは……吸い込むほどに人体には悪い」

「そうだな。だからこそ、連邦軍の兵士もこれを恐れて、消極的な行動になるはずだ」

「……そこだけが救いですね」

「モビルスーツと生身で戦えるほどに、オレたちは充実した装備と作戦を持っているわけではないからな」

 グフ・カスタムのコクピットから、ワイヤーを使って隊長とオーガ4は降りていく。地上は、まるで陶器のように硬くなっている。土が爆風でえぐれてしまいながら、焼け焦がされて固まってしまったらしい。

 核融合の爆発のなかでは、世界はこれほどまでに歪められてしまうのだ。隊長は、その固まった地面をブーツの底で蹴りながら、愛機の起こした爆発の惨状を観察した。

 隊長のグフ・カスタムが核爆発を起こした場所は、大きな穴がが空いてしまっている。直径で500メートルほどのクレーターだ。

「派手な爆発をしたもんだぜ」

「ええ。おかげで、仕事を果たせました……ですよね?」

「……ああ。そのはずだぞ。では……ここから離脱しようじゃないか。オレたちがこの場で出来ることは、もう残っちゃいないんだからな……」

 隊長とオーガ4はランニングにより、この場からの離脱を開始する。人類が持つ最も新しい兵器の一つである、モビルスーツを爆発させた後は、最も動物的な手段を用いての離脱となったのだ。

 焼け焦げて固まった大地を蹴りつけながら、パーカーとマスクで空から舞い落ちてくる放射能の雪を浴びながら、二人の戦士は北へと向かう。北には街があるのだ。その道すがらには車でも手に入ると考えている。

 目についた車を強奪して、それを使って逃げることにしよう。この放射能の汚染からは、誰しもが逃げたいだろうし、警官や軍人だって、その誰しもに分類されるだろうから、おそらくは楽に離脱することが出来るだろう……。

 ……まあ、大なり小なりの被爆は避けられないだろうがな……いや、スペースノイドとして生きて来た身だ。

 その細胞は、ずっと前から汚染されてしまってはいたのさ……。

 まあ、そうだとしても、放射線を浴びれば浴びるほどに、より肉体が壊れてしまうという事実には変わりはないのだが……。

 ……今は離脱することに集中しよう。隊長は自身の健康問題を気にしないことにする。敵に……地球連邦軍の兵士に捕まれば、どうせ死刑か終身刑になる身だ。数日後に全身の皮が剥がれ落ちたとしても……問題はない。

 今は、放射能汚染に対する良い薬もある……そいつをたらふく飲めば、これから4年後だってモビルスーツを乗り回せるだろう。二度と、ルオ商会には戻れないかもしれないが、戦いのなかで敵に敗れて死ぬその日まで、モビルスーツ・パイロットにのみ許された快楽を享受することが出来る。

 そう思えば、走る脚に力は込められる。マスクをしているせいで、息苦しく、肺の皮が引っ張るような痛みが胸の奥に生まれているが……それでも、どこまでも遠くに走って行けそうな気持ちになった。
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